徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』②
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◆これまでのお話◆ 徳カリプスによって徳エネルギー文明が崩壊した後の世界。それでも人々は徳エネルギーを使い、過去の徳の遺産を漁る。そんな採掘屋達の街が今、滅亡に瀕していた。ガンジーとクーカイ、二人の採掘屋は滅びを回避すべく別の街を訪れる。そこは、徳に満ち溢れた理想郷であったが……
2015-03-13 03:51:57![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
”神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」”旧約聖書 創世記第一章二十六節より1
2015-03-13 03:53:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
『それ』は思考を続けていた。自らが作られた目的について。 指令内容はただ一つ。『人類の生活水準を向上せしめるべし』。そんな曖昧な指示を噛み砕き、実行するだけの『知性』が『それ』には備わっていた。 ……故に、『それ』は考え続けていた。何が人類にとっての幸福であるのかを。2
2015-03-13 03:57:04![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
徳という基準によって人類は統一された。 故に、徳豊かな人生こそが幸福である、と『それ』は結論した。 だが、本当にそれで十分なのだろうか、と『それ』は自問した。 徳を集めた先に何があるのか、と『それ』は考え続けた。その答えを観測する機会は、幸いにして訪れた。3
2015-03-13 04:02:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
徳エネルギーによって稼働する『それ』もまた大きなダメージを負ったが、答えを得た『それ』の歩みは止まらなかった。 徳を積んだ先に待つのは、解脱である。解脱に至る生こそが、最も豊かな生である。 故に、『全人類を、解脱せしむるべし』。 そう結論した時。『それ』は『得度兵器』となった。4
2015-03-13 04:06:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
徳パンク小説『黄昏のブッシャリオン』 togetter.com/li/793611 togetter.com/li/794376 #bussharion
2015-03-13 12:54:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「警報装置は?」「……この配置だ。この寺の構造なら、床下だな」 その夜。ガンジーとクーカイは本堂への侵入を試みていた。 構造は昼間に把握済み。建物の側までは難なく近付くことができた。彼等二人は徳遺物採掘屋……即ち、寺に侵入するプロである。5
2015-03-13 12:59:22![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「いや、正面の電子ロックが古い。正攻法で行くぞ」「了解」 徳に満ち溢れた世界の住人は、基本的に他人を疑うことをしない。故に、そのガードはどこか緩く……侵入を更に容易にする。 「3、2、1……開いた」ピーッ、という電子音を立て、ロックハッカーを繋いだ電子ロックが解除される。6
2015-03-13 13:04:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「早過ぎるぞ」「ブルートフォースじゃないからな。鍵も旧式だ」ロックのパスは『tokushin』であった。 「……まさか名前そのままとは」「徳ボケした奴らの管理なんて、そんなもんだって」小声で囁き合いながら、本堂の開閉扉スイッチを押すガンジー。7
2015-03-13 13:09:37![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
……ゆっくりと、観音シャッターが開いていく。 「……デカい」その隙間から徐々に姿を現すのは、巨大な仏像……弥勒如来像であった。「この里の繁栄もうなずける」 仏像はある種徳のバロメータである。そして、弥勒如来は遥か未来に救済を齎す仏の姿。「……何かあると思ったが、思い過ごしか」8
2015-03-13 13:18:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「……一度戻るべきか」「でも、仏舎利の手掛かりだけでも」二人は仏像の元へと歩み寄る。空間に張り詰めた徳は本物だ。「仏舎利なんて無くても、あの住職なら街への支援も引き受けてくれるだろう。仏舎利は後でも探せる。失礼を重ねるのは不味い」「……それもそうか」9
2015-03-13 13:25:45![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「……まあ、折角だから、お参りだけして戻ろう」「困ったときの神頼みってやつか」「仏様だけどな」……そう決めて、二人が手を合わせた直後。 仏像の眼に、光が灯った。10
2015-03-13 13:27:32![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「こいつ……動くのか?」「ず……随分と、手の込んだ仏像じゃねぇか」クーカイの声が震える。弥勒如来像の腕がゆっくりと稼働し、印を結ぶ。 二人は、異変に気づいた。張り詰めていた『徳』が、消えている。いや、違う……『何かに吸われている』。これは、 「こいつは……『得度兵器』だ!」11
2015-03-13 13:36:13![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
……『それ』は、元々人に近く作られていた。故に『それ』が『全人類を解脱へ導く』という採取目的を獲得し、『得度兵器』となった時。その姿を得たのは必然とすら言えるだろう。 人に似た、人を導く存在。それはまさしく、神であり仏であるのだから。12
2015-03-13 13:41:01![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「……不味いな」得度兵器は『参拝』による微かな徳の増減に反応し、起動した。クーカイはそう分析する。「どうする!?」「逃げるぞ!」判断は0.1秒。ガンジーとクーカイは踵を返す。 動く弥勒如来像……いや、得度兵器が一歩を踏み出す。本堂が揺れる。そして……その指先に光が集い始める。13
2015-03-13 13:49:51![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「徳エネルギー兵器か!」「こんなとこに居たんじゃ、補給は万全だろうよ!ってかなんでこんあとこにあるんだ!」「考えるのは後だ!走れ!」 得度兵器の持つ徳エネルギー兵器の直撃を受ければ、悪くて焼死、良くて解脱。どちらにせよ、生物としては死に至る。14
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「ガンジー、『転べ』!」クーカイが叫ぶ。二人はわざと姿勢を崩し、ガンジーの頭の上を徳エネルギービームの光条が通過した。「うおっ!」 二人は転がり出るように本堂の外へ脱出し……開閉扉の『しまる』ボタンに拳を叩き込む。 「……ハァ、ハァ、流石にあの図体じゃあ、本堂の外には」15
2015-03-13 13:55:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
その直後。本堂から、光の柱が天へと上る。 「おいおい、街ごと成仏させる気か!?」「伏せろ!」クーカイはガンジーの頭を抑えこみ、無理矢理伏せさせる。その瞬間、本堂が『破裂』した。 得度兵器が徳エネルギーを開放し、余波で本堂が吹き飛んだのである。16
2015-03-13 14:05:07![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「これが……得度兵器」呆然とするガンジー。 そして……炎と煙の中から、足音と共に巨大なシルエットが姿を表す。 人々を救済するための機械。ブッダ・エクス・マキナ。『それ』は、今。二つのか弱き命を救うために、ゆっくりと、歩みを進めていた。17
2015-03-13 14:08:39