あきつ天龍帝都奇譚 第一幕 その六(終)
- akitsutenryu
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お惣菜屋さんであるウチですが、店内で食べられるように机と椅子が少しだけ置いてあったりします。 そしてこうやってお母さんから頼まれた仕事をこなしつつ、今日は出前の注文が無くて良かったと安心していました。 店が忙しいより暇な時の方が私は好きです。
2015-05-28 00:49:23ため息が出たのは、店が忙しいからじゃありません。 頭の中がある人でいっぱいだからです。 本当はもう一度だけ会いたかったその人だけど、もう諦めたんです。 だから、もう大丈夫なのに……なんで、なんで私はまだため息なんてついてるんだろう。
2015-05-28 00:51:34本当は、本当は諦めたくなんてなかった。 もう一度だけでいいからあの人に会って、それで私が思っていることを伝えたかった。 でもそれも、もう終わったことです。
2015-05-28 00:53:15「やぁ、吹雪ちゃんと言ったか。 久しぶり、でよいのだろうか」 「あの、貴方は、え? どうして?」 「なに、ハンケチーフを返してくれた御礼を言いにな」
2015-05-28 00:58:01神田神保町にある総菜のとり屋が窺える物陰から、あきと天龍は先程まで見張っていた。 眉月青年がこの地を訪れるかどうかを見届けるためである。
2015-05-28 01:01:00「……吹雪殿、どう思っているのでありましょうか」 「さぁな。 ここからじゃ中は見えねぇし」 「喜んでいるでありましょうか」 「さぁな……そうあってくれるといいけどな」
2015-05-28 01:05:03二人は最後まで見届けることなく、その場を離れることにした。 あきの表情はどこか嬉しそうでいて、どこかもの悲しげにも見えた。
2015-05-28 01:10:49「清々しい気分でありますね」 「俺はやっぱりどっか納得いかねぇなぁ」 「まぁ、それでもいいと思いますよ。 でも自分はあれになったような気分であります」 「ああ、恋のキューピッド?」 「おや、よくご存知でありますね」 「別に」 「あとは二人の関係が続くことを願うだけでありますね」
2015-05-28 01:15:05「今度また吹雪ちゃんの店に行こうぜ。 俺は一週間通い詰めたとはいえ、客じゃなくて極秘調査みたいなもんだったしな」 「あそこの惣菜は絶品でありますからなぁ。 食卓に花が咲くようであります」 「料理の手間も省けるしな」 「で、ありますねぇ。 あ、そういえば」 「どうかしたか?」
2015-05-28 01:17:40「結局、眉月殿の正体は分からずじまいでありましたね」 「立ち振る舞いからして華族かなんかだとは思うけどな。 ま、何かあった時のためにも時々吹雪ちゃんとこに寄ろうぜ。 用心は度が過ぎてるくらいでちょうどいい」 「そうでありますね。 ああ、それと」 「まだなんかあんのか?」
2015-05-28 01:25:08「何か忘れていると思ったら、青葉殿の店から本を借りっぱなしであります」 「おい、あいつのことだから貸本料吹っかけられても知らねぇぞ……」 「まぁ、また今度返せばいい話であります」 「全く、しっかりしてんだかしてないのか……。 で、借りたのはなんて本なんだ?」 「ええ、それは……」
2015-05-28 01:25:23……今回のお話はこれにて終幕とさせていただきたく存じ上げます。 応援してくれた皆々様、感想をくださった各々方にこの場をお借りして感謝の言葉を。 ありがとうございました! もし次回もお付き合い頂けますと幸いでございます。 では次回『食人魔手(仮称』にてお会い致しましょう。 では
2015-05-28 01:34:13