あきつ天龍帝都奇譚「彼女へ贈る歌__第六夜」

あきつ天龍帝都奇譚。第二話の6回目こうしてです。
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あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

(140字で分かる彼女へ贈る歌) あきつ天龍、カフェの夜会へ。 青年眉月と再会。同時にジャズ歌手の大井の名も知る。 後日、馴染みの書店へ向かった二人は再び大井の名を聞く。 書店主の話から事件の匂いを嗅いだ天龍に連られる形で、あきつ丸も巻き込まれることに…?

2016-03-20 20:33:12
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__ 「さ、話して貰おうか。歌手の大井について」 「いや、それは」 「なんだよ、言えないのか?怪しいな」 「そ、そんなことは無いのですが…」 「ますます怪しいじゃねぇか」 __天龍殿の質問に、カフェリリィズの店主は慄くばかりでありました。 話せない事情がありそうであります。

2016-03-20 20:38:21
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

ガタガタ… 「オレはただ大井って女のことについて聞きたいだけなんだがな」 「いえですから…今日は、どうかお引き取りを…」 __店主の表情はどこか焦りが感じられるものになってきたであります。 準備中だから出直しを、というわけでも……何やら、二階が騒がしいような。

2016-03-20 20:43:46
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「邪魔するぜぇ親父ぃ」 「失礼いたします」 __天龍殿の質問が尋問染みてきて店主が涙目になったあたりで、店にずかずかと二人の男が入って参りました。 …見覚えがある顔でありますね。

2016-03-20 20:56:45
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「あ、貴方がたは…」 「ああ、電話で言わなかったか?今回の捜査を仕切る警部の巻原(まきはら)だよ」 「その部下、刑事の山田です」 「じゃ、早速上がらせて貰うぜ…おや、何やら懐かしい顔触れがいるじゃあねぇの」 __巻原を名乗った刑事は自分のもとに近づいて来ました。

2016-03-20 21:04:28
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「龍城の嬢ちゃんと…天田だったか?久しぶりだな」 「巻原のおっさんじゃねぇか。こんなとこまで何しに来たんだ?カフェとか柄じゃねぇな」 「仕事に決まってんだろ」 「…事件か」 「おう」 「警部、部外者にそのことは…」 「うるせぇ。まだ二回目だろうが」 「何回目でも問題ですよ!」

2016-03-20 21:12:12
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「親父、二階上がらせて貰うぞ」 「は、はぁ…」 「お嬢さん方も着いてきな」 「警部!」 「いいんだよ。俺ぁ別にこれ以上の出世は要らねぇからな」 「僕の出世は…」 「巻原のおっさん、さっさと上がろうぜ」 「結局こうなるのでありますね…」 __……さて、彼らについて説明であります。

2016-03-20 21:21:06
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__彼ら二人は名乗った通り、警察であります。 背広も口調も崩した警部巻原、いかにも堅物といった真面目な刑事山田。 吹雪殿の依頼から更に前、ある事件において関わった二人なのでありますが…よもや再会することになるとは夢にも思っていなかったであります。 …ついてないであります。

2016-03-20 21:28:50
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__狭い階段を数珠繋ぎに上がっていくであります。 「巻原のおっさん、今回はどんな事件なんだ」 「分からん」 「は?」 「分からん。嘘は言ってねぇ」 「そう言って隠してんだろ。オレには分かるぜー」 「警部は嘘など仰っていないっ!」 「な、なんだよ。怒らなくてもいいじゃねぇか」

2016-03-20 21:32:36
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__二階に着いてすぐ、ツナギを着込んだ…恐らく同じ警察の方たちでありましょう。神妙な面持ちで出迎えてくれました。 「警部、ご到着お待ちしておりました」 「検証、進んだか?」 「それが、全く…」 「そうか。足取りも掴めんし、ちと不味いな…」 「なんか妙だな、あきつ丸」 「ええ」

2016-03-20 21:35:23
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__以前、警部殿と立ち会った現場検証のときは、周囲をきびきびと歩き回りながら作業に取り組んでいたものでありましたが、今回は全くその様子が見受けられません。 部屋が狭いから作業が進んでいない…? いえ、何かおかしいであります。 天龍殿の耳打ち通り、確かに妙な雰囲気であります。

2016-03-20 21:39:04
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「…俺は一度見てある。お嬢さん方、覚悟があるなら見な」 「警部殿、ですから流石に部外者は」 「構わん。…見てこれ以上関わりたいかどうか、こいつらに決めさせる」 __……空気が冷たい。いえ、比喩のつもりでありますが、本当に寒気を感じるであります。 あの部屋に、何が。

2016-03-20 21:46:02
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「じゃ、開けるぜ」 「天龍殿、少し待つでありま」 __部屋の扉へと手を伸ばした天龍殿を止めるも、既に遅し。 部屋の扉は、開かれたのでありました。

2016-03-20 21:48:22
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

ずたずたに引き裂かれた毛布、微塵に折られた椅子と机。 叩き割られた窓ガラスからの隙間風を防ごうとそよぐ、噛み千切られたカーテン。 砕けて崩れ落ちた衣装箪笥は内容物をぶち撒けて倒れている。 隅に転がっている木片は、恐らくベッドだったもの。 この部屋で無事な物など一つも無い。

2016-03-20 21:57:50
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

「……なんでありますか、これは」 「……洒落になってねぇぞ、おい」 __だがその異様すぎる光景も、二人の目には霞んで見えていただろう。

2016-03-20 21:59:19
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

__紅に染まりきった鮮血の爪痕が、その部屋には広がっていた。

2016-03-20 22:01:41
あきつ天龍帝都奇譚 @akitsutenryu

【第六夜、終】 次回ハ、今週末マデ二更新イタシマス… #あきつ天龍帝都奇譚

2016-03-20 22:02:49