夢幻宿せし真珠の調 ○☆ 三日目 現世 →◎

『夢を揺蕩う刻に人はもう戻れない。  往くと好い、きみたちの望む侭に』 ☆────────────────────☆ †匿名twitter創作企画†『夢幻宿せし真珠の調』 【概要:http://privatter.net/p/757197
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リコルドライト @recauldlight

【我が光、我が答え! それがおまえの、応えのかたちか!】時計仕掛けの心臓が叫ぶ。【だが、しかし! おまえの願いは届かない! おまえの夢は消え失せる!】七色の声音で。枷を失った野獣のように。荒れ狂う暴風のように。【真実はひとつ、答えはひとつ! 我が証明に誤りはない! 例外はない!】

2015-07-04 22:34:04
リコルドライト @recauldlight

自ら作り出した、光の玩具。それからの提案と別離を受けて、心臓は狂い出していた。壊れ始めていた。【我が証明に、可能性(ちがうこたえ)があるとするのなら!】だから叫ぶ。だから吼える。【しかし認めない! 証明に誤りはない! あり得ない! 答えは! ひとつでなければ! ならないのだ!】

2015-07-04 22:34:24
リコルドライト @recauldlight

【よって改竄するのみ! おまえの願いは無駄、無駄、無駄だ! 哀れな光の人形よ!】心臓は喚く。高らかに、歓喜しながら。歪曲の言葉を。【起動せよ、我が機関! 今が欺くその時だ! クリック・クラック・クロック!】

2015-07-04 22:34:51
リコルドライト @recauldlight

絶叫にも似た甲高い咆哮が、黒の空間に充ちる。【イア! クリック・クラック・クロック!】巨躯のすべてを狂ったように痙攣させながら、心臓は叫ぶ。【クリック・クラック・クロック!】何度も何度も。壊れた玩具のように。【クリック・クラック・クロックゥゥゥゥアアアアアアァァァァアアアアア!】

2015-07-04 22:36:37
リコルドライト @recauldlight

哀れなまでに叫び狂う主を前にして。けれど光の乙女は一切の動揺を見せなかった。ただ静かに、右腕を前に差し出して。掌を向けて。「私……戦います。私を造ってくれたあるじと」「私……抗います。私が私の光で在るために」「私……輝きます。夢現、その出逢い、無意味にしたくないから」

2015-07-04 22:37:03
リコルドライト @recauldlight

月光の傍らで、乙女は告げる。優しく、厳かに。揺るぎない決意を。「太陽(リコルドライト)は、輝き続けることを――選びます」「胸の中に在る、星(だいすきなうみ)と共に」「私の傍に在る、月(悪魔)と共に」

2015-07-04 22:38:13
リコルドライト @recauldlight

「例え――」右手を黒の心臓へと向けながら。太陽は月光へと顔を向ける。穏やかで柔らかな表情だった。悟っているような。「悪魔のあなたが、私を堕としていくとしても。私は」崩れるように、怪しく妖しく嗤った月光に。それでも太陽は優しく微笑み返して。「……えぇ、往きましょう。ルー。ルーフェ」

2015-07-04 22:38:46
リコルドライト @recauldlight

太陽は『敵』を見た。我が主。我が創造主。黒き心臓なる巨躯。「私を造ったあるじ。生んでくれて、ありがとう。けれども、ごめんなさい。私は輝くと決めました。だからここでは終わりません。終われないのです」

2015-07-04 22:39:35
リコルドライト @recauldlight

「もう二度と、私たち(これからのリコルドライト)を流転させはしません。私の、誰ひとりとして。繰り返す光と闇は、私で最後にします」

2015-07-04 22:39:39
リコルドライト @recauldlight

「回帰、絶望、再生、再開……その舞台は、ここで終わり。私たち(ふたり)が終わらせ、断ち切ります」例え、悪魔に魂を売るのだとしても。乙女の決意は変わらない。闇へ立ち向かう。

2015-07-04 22:39:53
リコルドライト @recauldlight

「光が、光で在るために。今が輝く、その時です」言葉に、祈りに、願いに応じて。伸ばした右手に顕現するものがあった。握られたものがあった。それは剣。人間の背丈を越えるほどに巨大な大剣。黄金の。煌びやかな。鍔の部位に設けられた不可思議な空白に、黄金色の鐘を内包する、幻想染みた魔法の剣。

2015-07-04 22:40:25
リコルドライト @recauldlight

片手で持つことなど、できはしないはずの大きさ。けれど太陽は、大剣を右手に握っている。携えている。その切っ先を敵へと向けている。黄金と白銀とが緻密に組み合わさったそれ。宝石と水晶とが、星のごとく端々を飾ったそれ。植物の緑と幾つもの花冠を、衣裳のように帯びたそれ。

2015-07-04 22:41:29
リコルドライト @recauldlight

鐘を秘めた黄金の幻想大剣を。その手に持って。構えて。天へと掲げた。

2015-07-04 22:41:42
リコルドライト @recauldlight

「黄金の煌めきと共に――!」鐘の大剣、振り下ろすとともに。「旅路(みち)を切り開きなさい!」眩く輝く金色の閃光が、刀身から疾る。黄金の軌跡が、勇ましく空間を縦断する。煌めきの奔流が、心臓の巨躯を両断・分断・破砕して、今居るふたりの箱庭ごと切り裂いた。

2015-07-04 22:42:10
リコルドライト @recauldlight

真っ二つにされた空間の裂け目から、白い光が溢れて充ちる。視界がいっぱいに光で埋め尽くされて。「これが、旅路の果て」すべてがゆっくりと緩慢に動くように錯覚する中で。太陽の乙女が言葉を紡ぐ。「これが、旅路のはじまり」

2015-07-04 22:42:16
リコルドライト @recauldlight

「私の進む、私の歩く道……」傍らに居るのか、あるいは居ないのか。でも彼女は月で悪魔だから、どこにでも居て、どこにでも居るのだろう。

2015-07-04 22:42:48
リコルドライト @recauldlight

だから乙女は、そちらを見ない。振り下ろした右手、鐘を伴う黄金の剣を握る右手を、見下ろしながら。囁くように。「ふたりでこれから向かう……未知なる道の……道標(新たなる可能性)……」

2015-07-04 22:43:04
リコルドライト @recauldlight

「――ふふ」太陽、小さく笑う。思い出すように。懐かしむように。そして視線を外す。手から剣を離す。白い光だけの天を見上げる。

2015-07-04 22:43:23
リコルドライト @recauldlight

「往き先は……どこにでもあります。どこにでも往きます。私が輝き煌めく限り……時も、場所も、何もかも越えて」悪魔の声へ応えるように、光の乙女は右手を伸ばす。光の中で。上も下も定かではない輝ける奔流の中で。愛するように、慈しむように。輝き在れと煌めくように。

2015-07-04 22:44:34
リコルドライト @recauldlight

決まった輝きひとつだけ。籠の中の小さな光。夢の主にいざなわれ、星の海と戯れて。大きな光へ煌めき芽吹いた。光の人形、黒の釜から銀の悪魔へ、それは弄ばれるが運命か。けれども太陽、誇らしく輝いて。果ての向こうの新たな旅路、剣の鐘が始まりを告げる。

2015-07-04 22:45:07
リコルドライト @recauldlight

――それはいつか。きっとどこかで。そっと、そっと、語られる。限りなく近い、ずっとずっと遠い未来にある絵本で。あるところに住んでいた太陽の子が、星の仔を慈しみ、月の悪魔に魂を売る、おはなしで。むかしむかしの、輝く御伽噺で――。

2015-07-04 22:46:37

────→

   すべての《核》は包まれて
   すべての《殻》が包み込み
   そしてすべては《星》となる
   希いというなの《星》となる

《海》のそこで輝きを得た
    すべての《星》たちに
        幸多からんことを
           ────→

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