『オバケ・オブ・コケシ・ザット・マスト・ダイ』

1セクションで終わりな。
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ジュセー @shiroboshi2

彼はコケシマートを好いていた。純粋に、好いていた。だから彼は、そこに就職をした。警備員。給料こそ少ないものの、彼はやりがいを覚えていた。何れはコケシマート正社員になろう、そう思いながら。だが、ブッダは寝ていた。 74 #S57Ninja

2015-07-05 12:56:44
ジュセー @shiroboshi2

ある日、その事件は起こった。突然、コケシマート内で争いが行われたのだ。世間ではヤクザの抗争と報道されたその事件。テネケは奇跡的に生き残った。ニンジャとニンジャの争い。目撃者も生存者も消されてしまったが、テネケは虫の息で……感知されなかった。 75 #S57Ninja

2015-07-05 13:12:35
ジュセー @shiroboshi2

死の淵にあったテネケの元に、『声』が訪れた。それは朧げであったが、確かな力をテネケに与えた。テネケは悦んで受け取った。彼は目覚めた。彼の目には、全盛期のコケシマートが写っていた。狂気の生み出す、救いのビジョンだった。 76 #S57Ninja

2015-07-05 13:16:30
ジュセー @shiroboshi2

テネケはターミガンとなった。彼は当初、自らの夢の居所であったコケシマートを破壊したニンジャへの憎しみを行動源にしていた。だが狂気の幻想は、全盛期のコケシマートの映像は、彼の憎しみを消した。「ああ、なんと素晴らしき経営の光だろう」彼は使命感を覚えた。 77 #S57Ninja

2015-07-05 13:37:37
ジュセー @shiroboshi2

『ザリザリザリ……この素晴らしい温もりをみなにコケシマート安い安い安い実際い、い、いブーンブーンブブーン』ターミガンの目には、確かに光が灯っている。経営の光が。ターミガンは歩く。彼は警備員だったのだから、警備をしている、それだけにすぎない。 78 #S57Ninja

2015-07-05 13:44:00
ジュセー @shiroboshi2

警備を続ける彼の前に、不審人物が現れた。染め残しの目立つ金髪オールバック、紫一色のヤクザスーツ。簡易な金属製メンポ。『ザリザリ……アソシエーテ=サン、だったか。ブーンブーンブブーン、コケシマートは貴方も受け入れる』「……いつまで夢見てんだお前」 79 #S57Ninja

2015-07-05 13:47:13
ジュセー @shiroboshi2

『夢な?はっ!貴方には見えないのか、この経営の光が、温もりが!』ターミガンはシャッターの閉まった店を指差した。蜘蛛の巣が幾重にも張られ、人の手入れを感じぬ場所を。「ああ見えないね。俺は正気だからな、都合の良い妄想に依存してやがるお前と違って!イヤーッ!」 80 #S57Ninja

2015-07-05 13:55:02
ジュセー @shiroboshi2

アソシエーテはスリケンを投擲した。『コケシーッ!』ターミガンは弾き返す。その間にアソシエーテは前進!「イヤーッ!」再びスリケン投擲!『コケシーッ!』ターミガンは弾き返す。その間にアソシエーテは前進!「イヤーッ!」再びスリケン投擲! 81 #S57Ninja

2015-07-05 13:58:36
ジュセー @shiroboshi2

ターミガンはスリケンを弾き返す。そしてアソシエーテを睨む。居ない。『上か!ブーンブーンブブーンコケシーッ!』ターミガンはスリケンを生成、投擲!アソシエーテは空中で身体を捻り回避!「生成できんのかよ!こっちは弾切れ気にしなきゃいけねぇってのに!イヤーッ!」 82 #S57Ninja

2015-07-05 14:02:05
ジュセー @shiroboshi2

アソシエーテは常人の三倍の脚力を活かし、降下蹴り!ターミガンはこれを真っ向から受け止めようと、カルト的両腕をクロス字に組んだ。アソシエーテはそれを踏みつけ、勢いよく跳躍。ターミガンの背後へ。『ヌゥーッ!?』ターミガンはそちらを向こうとした。 83 #S57Ninja

2015-07-05 14:06:00
ジュセー @shiroboshi2

既にアソシエーテがワンインチ距離まで迫っている。「イヤーッ!」彼は跳び、ターミガンの頭部を覆うコケシマート・バッグを掴んだ。『グワーッ!何を安い安いるーっブーンブーンブブーンザリザリ!ザリザリザリザリ!』激しい電子ノイズ。それは断末魔に似ていた。 84 #S57Ninja

2015-07-05 14:10:41
ジュセー @shiroboshi2

アソシエーテはコケシマート・バッグを思い切り引き剥がした。顔の至る所をコケシマートロゴに染めた男の顔が露わになった。『ア……アア、アア』ターミガンは膝をつき、声を漏らす。『光は……経営の光は何処に。コケシマートは?』「とうの昔に終わったんだよ」 85 #S57Ninja

2015-07-05 14:15:36
ジュセー @shiroboshi2

アソシエーテはターミガンの額にスリケンを押し当て言う。「目覚めはどうだ」『こんな。こんな、とは』ターミガンは抑揚の無い声で言葉を垂れ流す。彼の幻想の光は潰えていた。彼は、また、奪われた。ニンジャによって。奪われた。だが怒りや憎悪は湧き出さなかった。 86 #S57Ninja

2015-07-05 14:19:22
ジュセー @shiroboshi2

怒りや憎悪よりも、喪失感が勝ったのだ。『おお、おお』ターミガンは今日この日まで、大した栄養を摂取していなかった。ネズミや蜘蛛をコケシマート食品と思い込みながら食していただけだ。狂気と幻想に支えられていた彼の身体は、いまこの瞬間、限界を迎えた。 87 #S57Ninja

2015-07-05 14:21:46
ジュセー @shiroboshi2

「ハイク。詠めるか?」アソシエーテは問う。ターミガンは弱々しく答えた。『詠めぬ。詠まぬ。何のために遺すのだ。私の愛したコケシマートは、もう、無いのだから……』「……そうかい」アソシエーテは腕を振りかぶり、スリケンをターミガンの額へ投擲した。 88 #S57Ninja

2015-07-05 14:25:42
ジュセー @shiroboshi2

「お前ら」「「ハイ」」「兄弟の再会に感動できるんなら、真っ当な道進め。下手に闇に突っ込んだらどうなるか、よくわかったろう」「「ハイ」」ミキトゥナ兄弟は萎縮しながら答える。「ミヤモトなんたらもなんか言ってたろ、井戸がどうこうの……あれだよ」「「ハイ」」 90 #S57Ninja

2015-07-05 14:40:31
ジュセー @shiroboshi2

ミキトゥナ兄弟の肩をポンと叩くと、アソシエーテはヤクザモービルに向かって歩き出した。途中、歩みを止め、兄弟へ振り返る。「いいか、今日のことは忘れろ。俺はただのヤクザで、オバケはただの狂人だ。いいな?」「「アッハイ忘れます」」アソシエーテは再び歩き出した。 91 #S57Ninja

2015-07-05 14:45:28
ジュセー @shiroboshi2

アソシエーテはヤクザモービルに乗り込み、待機していたクローンヤクザ運転手に「出せ」と短く言った。「ヨロコンデー」クローンヤクザは無機質に答え、ヤクザモービルを発進させた。アソシエーテは物思いに耽る。ターミガンの最期が、ニューロンに焼きついている。 92 #S57Ninja

2015-07-05 14:49:40
ジュセー @shiroboshi2

(俺が仮に殺されるとして、ハイクを詠めるだろうか)アソシエーテの脳裏に浮かぶは、ハイクを詠まなかったターミガンの姿。そして、宿敵ミリピード。(……彼奴を倒すまでは死ねないな。ハイクは……まだ先だ。いまから考えることもねぇか)彼は目を閉じ、眠りについた。 93 #S57Ninja

2015-07-05 14:54:04
ジュセー @shiroboshi2

『オバケ・オブ・コケシ・ザット・マスト・ダイ』 おわり。 #S57Ninja

2015-07-05 14:54:54
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