『オバケ・オブ・コケシ・ザット・マスト・ダイ』

1セクションで終わりな。
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ジュセー @shiroboshi2

「なぁアニジャ」臆病そうな小柄の男が、先に歩く長身の男に震える声で言った。長身の男は苛立ちを帯びた声で答える。「なんだよ」「本当にこんなところに、金目のモンあんのかよ」小柄の男は周りを挙動不審気味に見渡しながら、おずおずと聞く。 1 #S57Ninja

2015-06-28 22:38:07
ジュセー @shiroboshi2

彼等が歩くは、薄暗い廃墟である。時折薄汚いネズミが飛び出しては、小柄な男の心臓を跳ね上がらせた。この廃墟は、かつてはショッピングモールであった。しかし、ヤクザ同士の激しい抗争の舞台になり、経営放棄……と世間では知られている。「あるって!……たぶん」 2 #S57Ninja

2015-06-28 22:41:50
ジュセー @shiroboshi2

「たぶんってなんだよう……ってアニジャ!先々いかないで!」この薄汚い廃墟を歩くは、落ちぶれ徘徊市民、ミキトゥナ兄弟である。彼等は特定の住居を持たず、度々こうした廃墟に忍び込んでは金品を探し、生計を立てていた。「てめぇは臆病だな、キミロ。腹が立っちまう」 3 #S57Ninja

2015-06-28 22:45:26
ジュセー @shiroboshi2

キミロと呼ばれた小柄な男が弟である。先を歩く兄はカナノ。二人とも身なりはみすぼらしい。「だってよぉ、アニジャ……ここ、変なウワサ実際あるよ。オバケだよ!オバケ!」「オバケがどうしたよ」「オバケだよ?」「オバケだろ。先客強盗と出くわした時の事思い出せよ」 4 #S57Ninja

2015-06-28 22:49:27
ジュセー @shiroboshi2

「うん……先客強盗は怖かったけどさ。人間じゃん。でもこっちはオバケよ?なんでもさ、ここのショッピングモール、結構人気でさ、カルト的な奴もいたらしくてさ、そいつがこう……怨みとかでオバケ」キミロが震え声でオバケの話をする様を、カナノは鼻で笑った。「ダッセ!」 5 #S57Ninja

2015-06-28 22:51:56
ジュセー @shiroboshi2

「ダッセ!ってアニジャ……コワイよ」「俺は貧乏で死ぬ方がコワイ」「そりゃそうだけ……ど……」キミロが立ち止まった。カナノが振り返る。「ア?どったよ」「ア……アニジャ。なんか、聞こえない?」「アー?」二人は耳を澄ませた。微かな音が彼等の耳に迎え入れられた。6 #S57Ninja

2015-06-28 22:54:36
ジュセー @shiroboshi2

『ブーンブーンブブーン。ブーンブーンブブーン……』単調なベース音が微かに響いている。「アー!アー!アニジャ!オバケ!コワイ!」キミロが頭を抱えながら腰を抜かす。「アー!アー!」「ファック!よく聞け」「アー……?」「店内BGMってやつだろ」 7 #S57Ninja

2015-06-28 22:57:40
ジュセー @shiroboshi2

「アー……で、でも。それじゃ、誰かが店内BGMかけたんじゃ。誰もいるはずないのに……アー!」「ファック!なんかの不具合とか、アレだよ、経営放棄の頃に消し忘れてたとかだよ。それか……先客かだ。オバケじゃねぇ」それを聞き、キミロは少し冷静になった。8 #S57Ninja

2015-06-28 23:00:03
ジュセー @shiroboshi2

『ブーンブーンブブーン……安……実ザリザリ……』微かな無機質の音。キミロは何かに気付く。「ア、アニジャ」「なんだよ」カナノは今にも暴力を振るいそうな声音で答えた。「な、なんかこれ、この音……近付いてない?」『安い、安ザリザリ……実際ザリザリザリザリ』9 #S57Ninja

2015-06-28 23:06:54
ジュセー @shiroboshi2

「アー?そんなに気になんのなら」カナノは拳を合わせ、その鋭いギラギラとした目を輝かせた。「俺が見てきてやるよ。てめぇうっせぇから」それだけ言い残すと、カナノは音の鳴る方へと走り出した。「エッ……ア、アニジャ!待ってくれよ、おいてかないで!コワイ!アー!」 10 #S57Ninja

2015-06-28 23:09:23
ジュセー @shiroboshi2

一人取り残されたキミロは、己を強いて立ち上がると、生まれたてのシカめいてヨロヨロとカナノの軌跡を追った。「待ってくれよぉ……コワイ……」歩く。歩く。何もない。アトモスフィアがあるだけだ。段々と、彼は本来の歩行へと戻っていった。「この辺に行ってたような」 11 #S57Ninja

2015-06-28 23:12:22
ジュセー @shiroboshi2

『ブーンブーンブブーン』「アイエッ!?」キミロはまた腰を抜かした。先程聞いた音よりも、大きい。いや。近い。「アイエエ!コワイ!アニジャどこ!」叫び散らしながら、彼はナメクジめいて這った。『安いザリザリ実ザリザリコケシザリザリ』「ア……」キミロは止まった。 12 #S57Ninja

2015-06-28 23:14:59
ジュセー @shiroboshi2

彼の這った先に、何かが見えた。それは、不可思議な模様の入った……足。立っている。キミロは震えながら顔を上げた。「ア……アイエエエエエエエエエエ!!」絶叫!おお、そこには何が!?『ブーンブーンザリザリーン、安い、安い……マー』 13 #S57Ninja

2015-06-28 23:17:18
ジュセー @shiroboshi2

そこには、奇怪な人型が居た。巨大だ。その両手両足は、筋肉や血管の隆起から、素肌であると推測できるが……そこには。装束と同じ模様が刻まれている。強烈な赤とベージュが入り混じった模様だ。「アイエエエ!」『安い……安い』絶叫。答える単調重低音。 14 #S57Ninja

2015-06-28 23:20:53
ジュセー @shiroboshi2

「アイエエエオバケ!コワイ!」キミロは、目前に立つ奇怪存在をオバケと結びつけた。おお、見よ。そのオバケの頭は、トートバッグを被っている。逆さになったマークは……コケシマートのマーク!コケシマートの……オバケ! 15 #S57Ninja

2015-06-28 23:22:48
ジュセー @shiroboshi2

コケシマートのバッグに気付いたのならば、その全身に刻まれた赤とベージュの模様の正体も分かるはずだ。素肌にまで刻まれた其れ等は、無数の小さなコケシマートのマークの羅列!おお、この奇怪存在は、間違いなくオバケ!それも。コケシマートのオバケだ!コワイ! 16 #S57Ninja

2015-06-28 23:25:40
ジュセー @shiroboshi2

『安い……貴方も実際……コケシマート……桃源郷へ』「アイエエ!アニジャ!アニジャー!」泣き叫び、後退するキミロ!ジリジリと歩みを進めるコケシマートのオバケ!「アイエエ!アニ」後退するキミロの背にドン、と何かがぶつかった。「アイエ?」キミロは振り返る。 17 #S57Ninja

2015-06-28 23:28:37
ジュセー @shiroboshi2

「アイエエ!」キミロの背後に居たのは……コケシマートを頭に被った奇怪存在!「アバー……安い安い実際安い」掠れた肉声。一つではない。遠くからも聞こえてくる!「アイエエ!オバケ!コワイ!ゴボボーッ!」キミロは嘔吐!そして失禁!『安い、安い、実際安い……』 18 #S57Ninja

2015-06-28 23:31:38
ジュセー @shiroboshi2

キミロの頭を、無機質なコケシマートのオバケが掴んだ。『安い……安い……ブーンブーンブブーン』「アイエエ!アイエエ!アイエ、アバーッ!」……。19 #S57Ninja

2015-06-28 23:33:07
ジュセー @shiroboshi2

『オバケ・オブ・コケシ・ザット・マスト・ダイ』 #S57Ninja

2015-06-28 23:35:42
ジュセー @shiroboshi2

ブロロロロ……年季を感じさせる駆動音と排気音を轟かせ、ヤクザモービルが走る。運転手は厳しい顔をしたヤクザだ。助手席に座っているのもヤクザだ。それも、双子めいて瓜二つのヤクザ……そう、クローンヤクザである。後部座席には紫色のヤクザスーツの男が一人。 21 #S57Ninja

2015-06-29 22:03:34
ジュセー @shiroboshi2

紫色のヤクザスーツの男の顔には、鈍い光をたたえた簡易な金属製のメンポが。メンポ。そう、メンポである。即ちこの男はニンジャ。「アー……運転手。もっと出せねぇか」男は怠そうに言った。「現状が最速です」クローンヤクザは答える。「そうかい」男は目を細める。 22 #S57Ninja

2015-06-29 22:08:11
ジュセー @shiroboshi2

男は退屈そうに髪の毛の一本を指で摘み、弄りだす。彼の髪型はカッチリとセットされたオールバック。早起きの成果だ。色は金。ただそれは染髪によるものであることは、所々に見え隠れする染め残しの黒っぽい地毛から判断できるだろう。男の名はアソシエーテ。 23 #S57Ninja

2015-06-29 22:14:22
ジュセー @shiroboshi2

彼はアマクダリに所属するニンジャである。元はソウカイヤのニンジャであった。ネオサイタマ炎上事変の折、アマクダリに帰順した。彼はあまり強いニンジャではなく、またラオモト・カンへの忠誠心も他の者に比べると情熱的ではなかった為に、現在は下級ニンジャの身だ。 24 #S57Ninja

2015-06-29 22:20:00
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