「活人剣」と「殺人刀」の変遷

「活人剣」という言葉は、世間でもそれなりに通用する言葉ではありますが、過去と現在で、同じ言葉なのに違う意味で使われる言葉の一つであります。それを簡単に紹介をば。 追記:「殺人刀(殺人剣)」についても若干補足したので、タイトルも変更をば。
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発端はここから

ちていのき @baritsu

「昔はこうだった、だからこれが正しい」問題は難しいんだよなぁ。例えば「柔道着の白は死装束。礼で畳に目を落とすのは首を差し出す覚悟」なんて言う人がいる。もっともらしいけど後付け。でも歴史の中でそんな風に捉えられた時期があるのも確か。となると「正しい昔っていつ?」てなる

2015-07-29 17:02:08
神無月久音 @k_hisane

「昔はこうだった」は、それが間違ってる場合は論外としても、「史料を読む限り、おそらくこの頃はこうだったのではないか」というのと「だからこれが正しい」というのは、別の話なのに、混同されがちですしね@baritsu 「昔はこうだった、だからこれが正しい」問題は難しいんだよなぁ。

2015-07-29 23:03:08

時代に応じて意味が変わる「活人剣」

神無月久音 @k_hisane

時代の流れと共に意味が変遷していったものといえば、「活人剣」もそうで砂。現代の世間で通じる「活人剣」、宗矩が家伝書で説いた「活人剣」、新陰流の技法の「活人剣」、禅語の「活人剣」、どれも言葉は同じですけど、意味は全部違いますし、どれが正しいという訳でもないですし喃。

2015-07-29 23:27:07
神無月久音 @k_hisane

「昔から”活人剣”は人間形成の為のものだ」とか言ったら、そりゃ違う訳ですが、かといって、現在、そういう意味として使われてることまで否定するのはちと違うんじゃなかろうか、と思いますし、「昔はこういう意味で使ってたから、これが正しい」とか言うのもおかしかろうと。

2015-07-29 23:32:08
神無月久音 @k_hisane

その辺で言うと、「活人剣」と対の概念としてよく出る「殺人剣」がありますが、これは活人剣の意味が変遷したからこその産物で砂。当初の活人剣の対になる言葉は「殺人刀」で、それは「殺人剣」とはまた若干意味が違いますが、「だから殺人剣なんて言葉は間違ってる」とか言ってもしゃーないですし喃。

2015-07-29 23:44:33
神無月久音 @k_hisane

更にここから「活人拳/殺人拳」なんて言葉も生まれて、ここから、また元の意味を語ろうとすると、「”拳”ではなく”剣”が正しく、更に言えば人間形成などを意味する訳でもなく、大本は…」てな具合に、主張だか薀蓄だかわからぬような有様になる訳で、正誤を論ずるにしても益体もない話であるよなと

2015-07-29 23:53:52
小森健太朗@相撲ミステリの人 @komorikentarou

「曹山録」にある僧と剣士の問答は、「殺人剣」と「活人剣」のルーツになるのではないかという気がします。こんな会話→僧「なんぴとを殺さんと擬す」剣士「一切総殺」……剣士「誰か我を如何とす」僧「何ぞ自殺せざる」剣士「手を下す処なし」@k_hisane @gishigaku

2015-07-30 10:37:47
神無月久音 @k_hisane

新陰流系の「殺人刀・活人剣」は「碧巌録」と「無門関」からのものとされてますが、そういうものもあるんですね。 @komorikentarou 「曹山録」にある僧と剣士の問答は、「殺人剣」と「活人剣」のルーツになるのではないかという気がします。@gishigaku

2015-07-30 23:47:57
神無月久音 @k_hisane

先ほど紹介された「曹山録」の下り(chohoji.or.jp/TAIWAN-T1-55_8…)にあるような考え方だと、むしろ沢庵和尚が「大阿記」で説いた「夫通達者。不用刀殺人。用刀活人。要殺即殺。要活即活。殺々三昧。活々三昧也」辺りの方が近いのかもで砂。

2015-07-30 23:53:36
神無月久音 @k_hisane

ちなみに件の箇所は多分こちら。「僧問。國内按劍者是誰。師曰。曹山(法燈別云。汝不是恁麼人)僧云。擬殺何人。師曰。但有。一切總殺。僧云。忽逢本父母。又作麼生。師曰。揀甚麼。僧云。爭奈自己何。師曰。誰奈我何。僧云。何不自殺。師曰。無下手處」文字化けしそうなのが難儀ですが。

2015-07-30 23:57:39
小森健太朗@相撲ミステリの人 @komorikentarou

@k_hisane ご教示ありがとうございます。「曹山録」の件の箇所は、剣士でなく禅僧が自分を剣士に見立ててしゃべっている問答というところでしょうかね。しかし、剣士ものを書く人が漢籍に通じていてこういう箇所を引用できれば、物語に厚みがましてよいのにと思います。

2015-07-31 00:10:32
神無月久音 @k_hisane

@komorikentarou こちらこそご教授ありがとうございます。新陰流だと、技法名が禅語由来だったりするので、大本の漢籍に通じていると話を広げられそうですね。禅以外にも老荘思想や儒教も引用されてて、十兵衛の伝書なんか、題が「昔飛衛というものあり」とそのまんまだったりしますし

2015-07-31 00:18:54
神無月久音 @k_hisane

昨日は「活人剣」の意味が変遷していったことは言及したけど、各々どういう意味なのかは書いてなかったので簡単に。 禅語 :弟子が自ら悟りに至れるよう導く知恵の働き 新陰流:敵を動かし、そこに乗って勝つ技法 家伝書:一人の悪を殺して多数を活かす思想 現代 :人を殺さず、活かす為の剣

2015-07-31 00:10:41

■補足:禅語における「活人剣」
⇒仏教の禅宗でいう修行者の指導方法の一つ。剣法の真剣に例えたものであり、相手を受け入れて進ませるのを活人剣という。逆に厳しく突き飛ばすのを殺人刀という。

【碧巌録】http://marihouse.biz/kokoro/hekigan.htm
 ※「十五則 倒一説」参照。

【無門関】http://marihouse.biz/kokoro/mumon.htm
 ※「十一則 州勘庵主」参照。

神無月久音 @k_hisane

見ての通り、かなり意味が違いま砂。家伝書で説くところの「活人剣」とか、今の意味の「活人剣」と真っ向ぶつかりそうな勢いですし喃。「世界の為に一人を殺す」とか、最近の創作だと悪役の考え方扱いですし。まあ、Fate/ZEROとかは主人公がこの考え方ですけど、ラストがラストですしね。

2015-07-31 00:26:25
神無月久音 @k_hisane

この辺は、家伝書が当時の天下人である家光に披露することを前提にしてるのがでかい訳ですが、ともあれ、それまであくまで比喩として使われていた「活人剣/殺人刀」という言葉に、実際に刀剣を用いて人の生死を左右する意味が付与された訳で、この変化は結構でかいよなーと思うところ。

2015-07-31 00:33:37
神無月久音 @k_hisane

家伝書における「活人剣」については、前にまとめたのがあるので、そちらをば。後半のところで言及してまする。 【「最強の剣豪」について】togetter.com/li/437747 pic.twitter.com/VdNDArXVMG

2015-07-31 00:39:26
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まとめ 「最強の剣豪」について 「剣士の強さ比べ」に端を発し、「最強の剣豪」とはなんぞや、ということについて ひとしきりあれこれと。 おまけで「剣道における勝利至上主義によるルール軽視の正当化について」とか 「『剣術>剣道』とかいう話について」とかも。 36018 pv 172 17 users 13
神無月久音 @k_hisane

ついでなんで、いつもの家伝書解説編も。 【やる夫で学ぶ柳生一族 外伝その3「解説・兵法家伝書」】tagenmatome.blogspot.jp/2009/10/blog-p… この他、宗矩と武蔵の兵法思想の比較なんかもしましたが、それはこのスレ(jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archi…)の>>730からをば。

2015-07-31 00:49:21

【【やる夫で学ぶ柳生一族(その67補足2):「宮本武蔵という人物&宗矩と武蔵、その兵法観」】(>>730より)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/otaku/12973/1395393089/

みんみんぜみ @inuchochin

殺人刀、活人剣は伊藤一刀斎も教えていたみたいだし、古い神道流の伝書でも見られるから案外剣術の理としては古くから用いられてたのかも。

2015-07-31 08:58:37
神無月久音 @k_hisane

おお、技法的にも結構似通ってるのでしょうか。それとも、単に単語的に人気があって、技法的には違うんでしょうか。@inuchochin 殺人刀、活人剣は伊藤一刀斎も教えていたみたいだし、古い神道流の伝書でも見られるから案外剣術の理としては古くから用いられてたのかも。

2015-08-01 00:55:17
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