詩小説「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ昔話
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詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」、 破「地獄の1日1回」(1)
2015-07-22 21:37:14行人観血河/帰人昇天河/求人観骨河/可叶人生虚 (大意:旅し者は幾つもの地獄を見て、帰りし者はいずれ天の川。求めし者は幾つもの骨に触れ、叶うならば人生は虚であらんことを) ――隣国の詩人、トゥゼ・倫=Hによる疑古典詩 3
2015-07-22 21:48:091kmごとにだいたい5つの熊……もしくはそれに値するだけの大きさの野獣を屠っているのだから、これは何かの単位になりはしないか、と、わけのわからないことを考えている月読。「怨」の一声で獣など一撃で呪殺することが出来るのだから、その手血に触れず。肉に触れず。4
2015-07-22 21:50:25だが鳥瞰の瞳より其の光景ご覧ぜろ。あな殺戮者!折りしも季節は秋だというのに、この山脈を紅葉以前の紅葉に染めようというのか!だがそんな殺戮は、彼――月読にとってみれば、自分の身を守るためだけにすぎない。彼は考えていた。自分がすべき「行(ギョウ)」を。5
2015-07-22 21:52:16彼は少女師匠より行……修行。そう、すべきクンフーを命じられていた。だがそれは「なんかやれ、1日1回」という、めっちゃあやふやなものであった。(そんなもの餓鬼でも云えるぞ……)月読は師匠の言葉を五日間反復していた。しかし所詮は「なんかやれ」なので、汲むべき何もなかった。6
2015-07-22 21:54:24しょうがないので、彼はこの山脈を横断しようとした。それも、彼が修めている戦術級、戦略級の巨大殲滅、巨大殺戮魔法を封じて。現代の読者にうまいこと説明すえば「縛りプレイ」であるが、この時代の幻想世界レッズ・エララにはビデオゲームはない!(詰め将棋はあるけどね)7
2015-07-22 21:57:03第六龍槍山脈……倭国の中で、長さも深度も高度も、襲ってくる野獣も、人の住処の少なさも、いずれもトップレベルの難度を誇る秘境である。常に山脈には霞が掛かっていて、その名の通り竜が空を飛んでいる……数ある槍のごとき巨樹を避けるようにして。8
2015-07-22 21:59:16彼は歩く。山の険しい道を。苔蒸した岩をあえて歩く。深き川があればその底をあえて歩く。――先に、「ある程度の魔法を封じて」と筆者は書いた。だが彼の修めている魔法……中程度、弱程度の魔法を、彼の魔力で使ったら、大抵の獣は死滅するのである。そして彼はさらに己を痛めるように往く。9
2015-07-22 22:01:47襲ってくれば倒す。弱肉強食とまで考えるまでもない。自分が死んでどうなるのだ。一声呪殺の念を放てばそれで終わる。そして骸はあとでどこぞの獣が食うだろう。それでいい。それでいいのだ。月読の関心はそこにはなかった。ただ自分が修める「行」にこそあった。だが……。10
2015-07-22 22:03:27「なんかやれ、はないじゃろう、師匠(レディ)……」。ぶつぶつ呟いてしまう月読であった。その姿でさえ、傍目には苦心を厭わぬ美丈夫と見えるのだからタイシタものであるが、彼は「何をすればいいのか」という今更ながらの問いを考えていた。とりあえず、山脈九合目は五日で過ぎた。11
2015-07-22 22:05:51この数年、あのわけくそわからん少女師匠たる「本物の仙人、本物の修行」のことを思えば、この縛りプレイセルフ修行はあまりに簡単であった。この時点で彼は、1日1回どころか、1日何回も襲ってくる獣に、巨大魔法を行使「しない」というシバリを、「何十回も」シバっているからであるからして。12
2015-07-22 22:08:18彼には殺戮の趣味はないが、ここまで獣が襲ってくると、もっとこう、パーッと派手にやらかしたいのも事実である。だが師匠はこうも言ったではないか。「1日1回」と。あまりに簡単なルールだ。だがルールはルールだ。シバリだ。彼はしょうがなしに、この「しない」シバリを未だに設けている。13
2015-07-22 22:10:04そして十合目、月読は山脈を踏破した。ふと彼は、今まで踏破してきた道を振り返ってみた。するとそこは……地獄だった。腐った獣の死体が土を多い、樹々には鳥の骸が血を滴らせ、河には怪魚がウジにたかられ、山脈全体が怨念に包まれていた。彼に向かって「怨(オーン)」「怨(オーン)」と…。14
2015-07-22 22:13:07それは彼の呪文のオウム返し。獣の仔らによる呪詛返し。それは彼の呪文のオウム返し。逝ききれぬ獣の無念による呪詛返し。あな、山脈は「紅葉」に燃えていた。死山血河を自分は「つくってしまった」のだ……!襲ってきた獣だ、確かにそうだ。だがこの震え淀む怨念はどうだ……!15
2015-07-22 22:15:39詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」、 破「地獄の1日1回」(1、もとい前半)終。 次回、(後半)に続く……
2015-07-22 22:17:32地獄の1日1回(中)
詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」、 破「地獄の1日1回」(中)
2015-07-24 21:04:16我骨積即供養也 懺悔之心偽如乎 我血留即悔恨告 汝曰「不要。鬼不人」 大意「私は河原に骨を積み供養とする。懺悔の心は偽りのようなものだろうか。私は流れる血を留め、悔恨して何かを告ぐ。しかしあなたはいう。「要らぬ。貴様は鬼、人ではない」」 倭国の受刑詩人 村正村治、獄中にて
2015-07-24 21:08:04供養。それが月読がすべきことだ、と思った。だから月読は、殺してきたすべての命を弔おうと思った。なんという偽善、なんという欺瞞。自分で殺しておきながら。だが彼はもう「怨(オーン)」と山から立ち上る、自分に対する怨嗟の声を聞いていられなかった。17
2015-07-24 21:10:05彼は道を逆に辿っていく。この第六龍槍山脈を。月読はここまで楽勝に登ってきたが、今度の道程はゆっくり、ゆっくり、だった。なにしろ、一足ごとに、自分が屠った獣の数々があるのだから。多くは腐りゆく。多くは血を流し。物言わぬ躯……。そこに漂う濃密な死色……。18
2015-07-24 21:13:02鮮やかだったあの秋の山脈情景いまいずこ。月読は、土を掘って、躯を埋める。今日は一匹。濁流に近い崖で、彼はかつてまた熊の群に襲われた。全滅さしたが、当然、その躯はそこに転がっていて。濁流に近いから、この近くでは埋めることができない。死体の重みを背負って、月読は移動する。19
2015-07-24 21:15:02重い。あまりに重い。生命を持たぬ獣がこれほど重いか。もともと東洋系魔術は「肉体の鍛錬」を重視するものであり、またあの少女師匠からムチャな鍛錬を施されてきたから、熊の巨躯を背負うことはできる。だがそういう話ではないのだ。月読の狩衣に血が滴る。ぞっとする感触である。20
2015-07-24 21:18:031日1匹。この熊を埋葬するにあたって、それだけかかった。穴を深く掘り(魔法は使わなかった)、熊をその中に寝かせ、深く哀悼した。哀悼……? その言葉に、どこか欺瞞めいた何かを感じないわけにはいかない月読だったが、それでも、哀悼、追悼に似た何かをしようと努めた。21
2015-07-24 21:20:06