【ミイラレ!第十八話:町の神様たちのこと】(原文のみ)

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。昔話とか今後の対策とか。 こちらは原文のみです。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/882965
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

【ミイラレ!第十八話:町の神様たちのこと】 #4215tk

2015-10-05 19:46:52
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

一日ぶりの登校、そして昼休み。四季は怜とともにオカルト研究会の部室へと向かっていた。「都月先輩と会う前に聞いておきたいんだけどさ」横を歩く幼馴染に話題を振る。「その……先輩の退魔師内での扱いってどうなってるの?」「ほとんど不問扱いだね」怜が端的に答える。1 #4215tk

2015-10-05 19:48:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は怪訝な顔を向けた。怜も眉をひそめている。「もちろん厳重注意は受けてるみたいだし、ブラックリストにも載せられてる。けど、それ以上の処罰は受けてないみたい」「そうなんだ?」意外な話だ。やりたい放題やっていたように見えて、その実被害が出ていなかったのだろうか。2 #4215tk

2015-10-05 19:51:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

そうこうしているうちに部室へ到着。四季がノックを「開いてるよー」する前に暢気な声が返ってくる。彼は怜と顔を見合わせてから、静かにドアを開けた。中にいたのは研究会の面々……すなわち都月薫に外藤紅子、そして鹿島かいな。なんらかの事故で人間を辞めた生徒たち。3 #4215tk

2015-10-05 19:54:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「こんにちは、四季くん。一日ぶりだね」全く変わらぬ人懐こい笑顔で薫が言う。「トリルがお邪魔してたみたいだけど、大丈夫だった?腰とか」「はい?」突飛な質問に四季は首を傾げる。刹那「みぎゃ」ごん、という鈍い音。突如宙に現れた手が薫の頭を叩いたのだ。4 #4215tk

2015-10-05 19:57:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……そういうセクハラしないの」たしなめるように言ったのはかいな。長い前髪のせいでその表情は伺えないものの、やや赤くなっているように見えた。紅子が苦笑している。「悪いね、下級生くん。好きなとこ座ってくれ」「は、はあ」四季は曖昧な返事とともに適当な椅子へ。5 #4215tk

2015-10-05 20:00:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

今の質問はどういう意味だったのか。怜にはなんとなく聞くのが憚られるような気がするので、彼は疑問を頭の片隅にしまうことにした。「……それで、本日はどのようなご用件で」怜がどこか冷たい口調で問い質す。そう、彼らがここに来たのは薫からの呼び出しがあったためだ。6 #4215tk

2015-10-05 20:03:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「やだなー、そんな他人行儀にならなくていいって!もっと気楽にいこうよ怜ちゃん。あ、名前で呼んでいい?」手を振りながら薫が言った。……紅子からとてつもなく申し訳なさそうな視線が向けられる。「え、えと、都月先輩」「薫でいいよ、四季くん。もう家族みたいなもんなんだし」7 #4215tk

2015-10-05 20:06:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「家族?」四季は眉をひそめた。心なし隣に座る怜の目つきが険しくなった気がする。「そ。四季くん、トリルと結婚するんでしょ?だとするとあたしのお兄さんみたいなものだし。あ、むしろお兄ちゃんって呼んだ方がいい?」「はい!?あの、すいません!全然意味がわからないです!」8 #4215tk

2015-10-05 20:09:21
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

慌てる四季。薫はけらけらと笑う。「あはは!ごめんごめん。うん、そのへんを説明しとかないとね。今日呼んだのはそのためだよ」「……どういうことですか?」「あたしがどうして魔女になって、どうして紅子やかいなを怪異にしたか。そういう事情を説明するってこと」9 #4215tk

2015-10-05 20:12:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

相変わらず軽い薫の言葉に、しかし二人は居住まいを正した。実際のところ、いかにして彼女が今回の騒ぎを起こせる力を手に入れたかを、彼らはまるで知らない。「そうかしこまらなくてもいいんだけど……ま、いいや。まずはあたしとトリルの馴れ初めから話そっか」10 #4215tk

2015-10-05 20:15:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

言って薫が取り出したのは、一冊の黒い本。「ことの始まりは、この本を手に入れたとこから。中二の夏くらいかな?古本屋で見つけてねー。なんか惹かれるものがあったから思わず衝動買いしちゃって。で、中の手順通りにやったらトリルが出てきた」「軽ッ!?」思わず四季は叫ぶ。11 #4215tk

2015-10-05 20:18:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

薫がくすくすと笑みを漏らす。「ねー。あたしもびっくりしちゃったよ。あとで聞いてみたら、なんかこの本があたしに巡ってくるのを待ってたみたいでね」「待ってた?」「この本ね、魔道具なんだって。持ち主と相性のいい悪魔を呼び出す、その補助をするための」12 #4215tk

2015-10-05 20:24:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

本をひらひらと振りながら薫は続ける。「トリルの友達のなんかすごい悪魔が作ったものらしくて、『偶然』この世界に出回っちゃったんだってさ。で、トリルと相性のいい人間の手に渡るまで、ずっと他の人の手を転々としてたみたい」何気ない言葉に、四季は溜息をつく。13 #4215tk

2015-10-05 20:27:46
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

なんという気の長い話か。成る程、道理で十年もかかったわけだ。「本来、悪魔が正式にこの世界に来るためには天使相手の手続きが必要みたいでさ。それが面倒だからこういう手段を取ったみたい。大変だよね〜」魔女が楽しげに笑う。「じゃあ次は、私が魔女になったときの話だよ」14 #4215tk

2015-10-05 20:30:56
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「魔女になった」四季は呟く。「よくわからないんですけど、トリルと契約したときから魔女になったんじゃないんですか?」「んー、ちょっと違う」薫は少し考え込んでから言った。「たしかにあの頃もトリルの力を借りれば魔法は使えた。けど、まだ人間だったよ」15 #4215tk

2015-10-06 20:06:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季はわずかに首を捻る。魔法を使える者がすなわち魔女、というわけではないのか?どこか憂鬱そうに溜息をついてから、薫は話し始めた。「怜ちゃんには言ってたっけ?私が魔女になったのは去年の夏休みごろでさ。それまではトリルに力を貸してもらったりして楽しんでたんだよ」16 #4215tk

2015-10-06 20:09:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

あ、と怜が小さな声を上げる。薫の話は続く。「念願のオカ研に入ってさ。友達もできて……ああ、紅子とかいなのことね……まあ面白おかしい日々を送ってたわけだよ。あのときまでは」薫の顔が小さく歪む。「オカ研の活動……って名目で、みんなで晩御飯食べに行った帰りまではね」17 #4215tk

2015-10-06 20:12:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なにが、あったんですか」真剣な面持ちで怜が尋ねる。薫は肩を竦めた。「それはあたしたちの方が知りたいよ。なんか黒い人影がこっちに向かってきて、それに気づいたときにはもう遅かった。あたしは血の海の中に倒れてて、バラバラになったかいなと紅子を見てたんだ」18 #4215tk

2015-10-06 20:15:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

小さく息を呑む音がする。それが怜だったのか、あるいは自分だったのか。四季にはよくわからない。かいなは沈痛に俯いており、紅子は眉間に深いしわを作っている。「かくいうあたしも、こういう有様でさ」不意に立ち上がった薫が、制服の裾を捲ってスカートをややずり下げた。19 #4215tk

2015-10-06 20:18:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

慌てて目を逸らそうとした四季は、それでも薫が見せようとしたものに釘付けになった。下腹部を切り裂かんばかりに横に走った、酷い傷痕。「これ、魔女になった今でも全然治る気配がないんだよね。今年のプール、どうしようかなあ」溜息混じりに魔女は服を元に戻す。20 #4215tk

2015-10-06 20:21:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季はその冗談にも言葉を返せない。普通に考えて、あの傷を受ければ人は死ぬ。「……どうやって、助かったんです?」「助かったというか、助けてくれたんだね。トリルが」薫が笑う。いつものように。「いよいよヤバいなーってときに駆けつけてくれてさ。血を分けてくれたんだ」21 #4215tk

2015-10-06 20:24:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「血を?」怜が訝しげに呟く。少し間をおいて、彼女は小さく呻いた。「……そうか。そのときに魔女に」「そういうこと。あのときの感覚、今でも忘れられないよ」薫が恍惚とした笑みを浮かべ、すぐに消す。「それからは大急ぎだよ。二人を必死に繋ぎとめなきゃならなかったから」22 #4215tk

2015-10-06 20:27:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

薫は二人の友人たちを見やる。彼女たちはなにも言わない。「さ、これであたしの話はおしまい。トリルと出会えたのも魔女になれたのも、結局は単なる偶然だよ」四季はなにも言わない。言えない。怜もまた同じようだった。「ちょっと、そんな深刻な顔しないでってば」23 #4215tk

2015-10-06 20:30:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

薫が困ったように笑う。「今になってはいい思い出だよ。少なくともあたしにとってはね。……ただ」その目に、一瞬だけなんとも言えない感情が宿る。「あのときのあいつは、やっぱりなんとかしなきゃとは思うんだけどさ」「そのあいつというのは、やはり怪異なんですか?」24 #4215tk

2015-10-06 20:33:11
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