幽霊屋敷の仮定決闘#1
それを聞いて、シェルヒの鋭い目つきが和らいだ。そして、何かを思った。 「そうだね、僕はヒーローになれるかもしれない。しかもそれは、僕にしかできないんだ」 シェルヒは、自然と微笑んでいた。 22
2015-10-10 17:08:51シェルヒは注意深く部屋の入口に向かった。ルーミは壁のしみである身体を反対側に移動させたようだ。 「大丈夫、だれもいない」 それを信用してシェルヒは部屋を出る。薄暗い廊下。目の前にはホールの天井、巨大なシャンデリア。壊れた木製の手すり。見通しがいい。 23
2015-10-10 17:12:40ルーミはしみの身体を廊下に沿って移動させる。 「注意して。魔法陣が作られた理由。それは殺人鬼が自分の痕跡を隠すため。殺人の証拠を隠すためよ。あたしに出会った貴方は殺されるかもしれない。殺人鬼の魔法はとても強いわ。侵入者の理想の姿を象って現れるのよ」 25
2015-10-10 17:18:32注意深く階下を見下ろす。そこには誰もいなかった。それで安心するシェルヒではない。どこかに隠れているのか。それは階段の陰か、1階の小部屋か。見通しのいい場所でわざわざ待ちうけるような相手ではないということだ。相手は気付いているだろう。この廊下は歩くたび床が軋む。 26
2015-10-10 17:21:57「理想の姿ね、つまり僕は絶対敵わないってわけだ」 シェルヒは階段を軋ませてゆっくりと階下へと降りていく。ホールへ降りる階段は大きく、まるで舞台のようだ。ルーミはホールの壁伝いに移動した。 「あたしが偵察するから気をつけて降りてね」 ルーミは階段の傍に敵はいないという。 27
2015-10-10 17:31:18シェルヒは息を殺して、ゆっくりと階段からフロアへと降り立った。油断なく周囲を見渡す。 「あっ……」 ルーミの声。シェルヒは振り返る。柱の陰に背を預ける一人の男がいた。 「騎士道剣術、第一の太刀。風刃剣」 ぼそりと呟く。次の瞬間、シェルヒの周囲に烈風が巻き起こる! 28
2015-10-10 17:34:09シェルヒは混乱してでたらめに短剣を振りまわす。男の笑い声。風はすぐに収まった。男がゆっくりと柱の陰から出てくる。 「驚くなよ。ちょっとした手品にすぎないさ。極めれば胴体も両断できるらしいけど……ま、初歩段階ならこんなもんだ」 その男は……驚くほどシェルヒに似ていた。 29
2015-10-10 17:36:25「来いよ」 男は長剣を抜き、その切っ先をシェルヒに向けて挑発した。妙に癪に障る。男はシェルヒそっくりだ。なのに、その顔は自信に満ち溢れている。みすぼらしいシェルヒとは違う。 30
2015-10-10 17:39:35服は同じだが、手にした剣は宝石や貴金属で装飾された騎士剣だ。シェルヒは苦しくなる。 「僕は負けるわけにはいかないんだ」 かすれた声で呟く。 「お前を倒して、僕を馬鹿にする取引先にも、仲間たちにも、僕がまだまだ捨てたもんじゃないって……分からせてやる」 31
2015-10-10 17:46:05「思い知るのはお前だ」 男は不敵に笑う。 「いや、俺か。シェルヒ、受け入れがたいだろうが、俺もシェルヒだ。俺とお前は元は同じだった。幼いころの、お前の可能性が分岐して別の人生を歩んだ」 騎士剣のシェルヒは間合いの外から剣を振るう。激しい烈風がシェルヒを襲う。 32
2015-10-10 17:52:02「俺は騎士だ。お前が熱望して……努力もせずに諦めた可能性だ。俺はそれに、なったんだ。喜べよ」 騎士剣のシェルヒは遠くで剣を構える。シェルヒに纏わりついた風は、ようやく散った。シェルヒは愕然とした。まだ剣に触れる段階にもなっていない。それなのに……。 33
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