ケンペイ天狗「ジ・オールドマン・アンド・サンマ・オーヴァーロード」

アナ・イゴール @KNPITNG

【ジ・オールドマン・アンド・サンマ・オーヴァーロード】＃２ #ケンペイ天狗

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（これまでのあらすじ：サンマを求めてタフな奴らがあつまった） #ケンペイ天狗

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北方海域深部。流氷流れる海に１隻の漁船と１人の艦娘、そして６人の深海棲艦が複雑な航跡を描いている。吹き上げられた砲火は巨大な水柱を産み、カラテのぶつかり合いが海面に蜘蛛の巣めいた波紋を作りあげる。 1 #ケンペイ天狗

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「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」磯風は漁船の前で囮となるべく不規則な機動を描きながら連続砲撃！「グワーッ！」「グワーッ！」「グワーッ！」「グワーッ！」磯風の銃身から砲火が吹き上がるたびに駆逐ハ級は全身を砲弾に貫かれ、断末魔と共に沈んでいく。 2 #ケンペイ天狗

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「次！2時方向！」飛来した砲撃を磯風が裏拳で弾き返す。カラテだ！「続いて魚雷来るぞ！回避！」「ソイヤ！オモカジイッパーイ！」イサキが魚雷の白い航跡に対して船体を並行にするように舵輪を回す！SPLASH!船から50センチの距離を白い雷撃の軌跡が通り抜ける！回避！ 3 #ケンペイ天狗

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「ハチロー、次の銛だ！」イサキは舵輪を固く握りしめたまま、足元の銛をハチローへと蹴り渡す。「ハイ！」受け取ったハチローの肩に縄めいた筋肉が浮かび上がり、「イイヤアアアーッ！」カタパルトめいて銛を投擲！軽巡ホ級の頭部を貫通！「アバーッ！サヨナラ！」ホ級は爆発四散！4 #ケンペイ天狗

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なんたるツキジめいた戦場か！今まさにイサキ達は六隻からなる敵艦隊に補足されている。北方海域深部まで奥ゆかしく航海を続けて来た一行だったが、遂に帰投中の敵哨戒艦隊と遭遇してしまったのだ。「ここはキス島海域！深海どもと奪い合っている激戦区だ！敵艦も多い！」 5 #ケンペイ天狗

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叫びながら磯風は漁船方向へ飛ぶ軽巡ヘ級の砲撃をチョップで叩き落とす！カラテだ！「だが、ここさえ抜ければ目的のアルフォンシーノ方面！ここが正念場だ！イヤーッ！」「グワーッ！」磯風の魚雷が敵艦を穿つ！「イヤーッ！」「グワーッ！？」ハチローの銛が敵艦を貫く！ 6 #ケンペイ天狗

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「いけるぞ！」「舐メルナ、艦娘一匹テイド！」一瞬慢心が顔をよぎった磯風の前に、敵旗艦が飛び出す！ナムサン、重巡リ級だ。その構える砲は磯風の持つ砲の二倍の太さ！「重巡！？」「イヤーッ！」磯風はバク転するが、リ級の砲撃が太腿を掠めた！「ンアーッ！？」「磯風＝サン！」7 #ケンペイ天狗

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「ウオーッ！ソイヤーッ！」磯風を援護すべくイサキはハチローに倣って重巡リ級に向けて銛を投げるが、半分の距離も届かない！「馬鹿メ……！沈メ！」リ級は嘲笑いながら漁船に標的を変え砲撃！「アイエエ！」イサキは全力で舵輪を回す！砲撃は漁船を掠めて巨大な水柱を立てた！ 8 #ケンペイ天狗

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激震する漁船！しかし船体は無事だ！「ドグサレッガーッ！サンマ獲るまで死ねるかーッ！」イサキは血走った目でリ級を睨む。「サンマ？」リ級の表情に一瞬疑問の色が走った。「サンマナンデ……？」その瞬間。「イイヤアアーッ！」ハチローの銛がリ級の腕を穿つ！「グワーッ！？」 9 #ケンペイ天狗

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腕を抑えてよろけるリ級、その動きが止まる。背中の艤装を磯風が固く掴んでいたのだ。「夜戦距離。魚雷用意」魚雷発射管が機械的な音を立てて、リ級の背中に突き立てられる。「サ、サンマナンデ！？」「撃って、撃って、撃ちまくれ。イヤーッ！」KRATOOM！「アバーッ！」10 #ケンペイ天狗

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「サ、サヨナラ！！」魚雷で胴を両断されたリ級が断末魔と共に水底に沈んでいく。提督がいない戦場では、倒された深海棲艦が浄化されることはない。このリ級もいずれ時を経て再び深海棲艦として蘇るのだ。人類への、サンマへの怒りと共に。ハチローは黙してそれを見送った。 11 #ケンペイ天狗

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――― 12 #ケンペイ天狗

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深海棲艦の襲撃が収まった頃には、既に夕刻になっていた。大気汚染が深刻なネオヨコスカではまず見ることのできない赤い夕陽が、口惜しげに極寒の海へと潜っていく。イサキは若いころは毎日眺めていたその光景を、遠い目で眺めていた。 13 #ケンペイ天狗

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船べりでは磯風が脚の傷をファイバー包帯で覆い、薄めた高速修復材にひたしている。「よし、もう治った」磯風が包帯を解くと、もはやそこには傷一つ無い。「無理はいけないぞ、磯風＝サン」「深海棲艦相手に銛で戦う人間には言われたくないな、ハチロー＝サン？」「ヌゥーッ」 14 #ケンペイ天狗

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「漁場にはまだつかないのか？」ソックスを履き直しながら磯風はイサキへ問いかける。「もう少しだ。漁は夜を徹して行う」イサキは答えると、船のスピードを緩めた。そしてニ本の釣り竿を取り出すと、磯風とハチローに渡す。「その前に腹ごなしだ。夜までに釣れなきゃ、飯抜きだ」15 #ケンペイ天狗

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「ム……」「ハイ」戸惑う磯風と対象的に、ハチローは手慣れた様子で釣り竿を組み立てていく。「慣れているのだな？」「……昔、よくやっていたらしい」「らしい？」「記憶が不確かでな。貸してくれ」首を傾げる磯風から釣り竿を受け取ると、ハチローは無表情のまま組み立てる。 16 #ケンペイ天狗

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やがて船は止まり、三人は横並びになって船べりから釣り糸を垂らしていた。深海棲艦の気配は無い。イサキは熟練の漁師らしく次々とホッケやダーツ、ソードフィッシュを釣り上げていく。ハチローもスズキとタナカを一匹ずつ釣り上げた。「ム……」磯風は口をへの字に曲げる。 17 #ケンペイ天狗

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「オヌシの提督は釣りも教えてくれないのか？」「司令は私に食べ物に触れるなと言う」「そうか」「少し料理が苦手だからと言って……私は秘書艦なのに」「そうか」ハチローは養殖プランクトンのネリを針先につける。「も、勿論司令は立派な方だ！私は敬愛している……」「そうか」18 #ケンペイ天狗

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「ぐ、少し喋りすぎた……ハチロー＝サンは司令に少し雰囲気が似ているな。性格も見た目も全然違うが、どこか提督らしい」「……。ヌ、磯風＝サン、竿を上げろ」「ム？」磯風は竿を上げる。糸の先には跳ねまわる小ぶりなタナカ。「おお！」磯風は糸を巻くと、暴れるタナカを掴む。19 #ケンペイ天狗

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「タナカはスズキの幼体、食べ方はだいたいスシだ。汚染海域の外ならどこでも釣れる、これからは遠征帰りにでも釣るがよかろう。」「料理の練習なら付き合うぜ！漁師メシだ！」食べきれぬほどに魚を釣り上げたイサキが豪快に笑った。「提督の鼻を明かしてやろうじゃねえか！」 20 #ケンペイ天狗

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「二人共……、恩に着る！」バケツ一杯の魚を持ち、磯風が船室に入っていく。「先にキッチンに行っているぞ！」「おう、下ごしらえして待っててくれや！」やや浮かれた足取りの磯風の後ろ姿を見送ると、イサキはハチローに向き直った。「意外と面倒見の良いところもあるんだな」 21 #ケンペイ天狗

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「ム……」「ハチロー＝サンは若く見えるが、あれくらいの子供がいるのか？その子供がサンマを食べさせたい相手か？」「いや……」ハチローは釣り竿を片付けながら、首を横に振った。「部下だ」「部下？部下のために命がけのサンマ漁か？」「大事な部下だった。娘のような」 22 #ケンペイ天狗

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静かな船の上ということもあってか、この男にしては珍しく、まともにイサキの質問に答えた。「秋刀魚が好物だった。オーガニックではない、成形物しか食べれなかったが」「だったって……、お前さん、まさか」「命日が、10月25日。丁度この船がネオヨコスカに帰る頃だろう」 23 #ケンペイ天狗