ケンペイ天狗「ウォッチ・アフター・ブルー・フィッシュ」

◆忍殺風艦これ二次創作◆ 世界全土を深海棲艦が覆いつくしたマッポーの時代。 ブラック提督達が跋扈する暗黒都市ネオヨコスカを舞台に、天狗面を被った狂気の復讐者が駆ける! ※本エピソードは@orphechin =サンの #マイアミ鎮守府 物理書籍に寄稿したエピソードのツイッター用加筆修正版となります。備えよう。 続きを読む
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アナ・イゴール @KNPITNG

【ウォッチ・アフター・ブルー・フィッシュ 01】 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:31:30
アナ・イゴール @KNPITNG

闇夜を爆発音が引き裂いた。水平線の先、飛行場姫から噴き上がる炎が夜空を焦がし、赤い海をギラギラと照らしだす。耳をつんざく間断なき砲声、僅かな隙間も艦娘達の怒声と悲鳴で埋められる。一つ砲声が上がる度に、一つ悲鳴が消える。それは、さながら現世に表出したジゴク。 01 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:33:41
アナ・イゴール @KNPITNG

ああ、これは夢だ。マズダ少将は鼻孔を灼くような硝煙と血の臭いを感じながら断定した。眼前で映写される悪夢は彼の忌まわしい記憶、アイアンボトムサウンド。そして目の前に見える背中は過去の彼自身、マズダ大佐。提督用防護アーマーは既に破損し、額からの出血が瞼を舐めている。2 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:36:56
アナ・イゴール @KNPITNG

戦況は、悪い。ジゴクの底ほどに。「提督!私に行かせて下さい! 」燻されるような赤い大気の中で青い魚が跳ねる。それが風に波打った秘書艦の髪であることに気づくためにマズダ大佐は僅かな時間を要した。彼が迎えた初めての艦娘。「五月雨!?」「私が単騎で出ます!」 03 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:39:10
アナ・イゴール @KNPITNG

「なにを……」マズダ大佐は一瞬五月雨の言葉の意味を図りかね、彼女の宝石めいたアクアマリンの瞳を見つめる。 今対峙している敵の名は飛行場姫、数多の三式弾を受け燃え盛りながらも未だ強大な威容を誇る悪鬼だ。単騎の突破など自殺行為でしかない。 04 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:41:31
アナ・イゴール @KNPITNG

そこまで考えを巡らし、マズダは五月雨の意図に気がついた。飛行姫相手に単騎の突破など自殺行為。だが、言い換えるならば自殺行為でもなければ、奴に傷を与えることは出来ないのだ。つまりは、特攻。……捨て艦。 05 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:43:43
アナ・イゴール @KNPITNG

「馬鹿め、死ぬ気か」マズダ大佐は震える手で五月雨の手を握った。「……はい」五月雨はそれを強く握り返す。「お前は、俺に捨て艦をしろと言うのか」マズダを見返す瞳は、僅かに潤んでいた。「飛行場姫を討てる機会は今しか……、今やらなきゃ、皆の犠牲が無駄になります」 06 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:45:42
アナ・イゴール @KNPITNG

それは、あの夜以来何度も繰り返してきた悪夢。退却だ。マズダ"少将"はマズダ"大佐"に向かって呻く。退却させろ。しかし夢の中、届くはずもない。「すまない……」マズダ大佐は苦しげに呟くと、五月雨の小さな手に絡んでいた指をほどき、告げた。「―――進軍だ」 07 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:47:51
アナ・イゴール @KNPITNG

「……はい、了解です!」目元を一瞬だけ歪めた五月雨は、歯を食いしばり、最後にマズダ大佐に向かって微笑む。「提督!私、ドジだけど、これだけは、最期だけは……!ドジりませんから!」そして、青髪の艦娘は身を翻す。 08 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:50:04
アナ・イゴール @KNPITNG

燻されるような赤い大気の中で、ふたたび青い魚が跳ねた。 09 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:52:06
アナ・イゴール @KNPITNG

「退却だ……退却しろ……」「おい!艦隊が帰投したぞ!」分厚いマホガニー製の机に突っ伏していたマズダ少将は、頭上から降ってきた秘書艦の声で目を覚ました。「提督?」「……」マズダが薄く目を開けると共に戦場の炎が、血の臭いが急激に薄らいでいく。 10 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:56:37
アナ・イゴール @KNPITNG

「なんだ提督。オヌシ寝ておったのか?」「……利根か。戻ったなら無駄口を叩かず報告をしろ」秘書艦の呆れたような声、しかしマズダはその言葉にまるで取り合わず、周囲を見回す。 11 #ケンペイ天狗

2015-02-22 20:58:54
アナ・イゴール @KNPITNG

贅を凝らした和紙の壁紙、紅茶めいて赤い絹の絨毯、そして不如帰のショドー、フクスケ。悪夢は消えた。いつも通りの彼の執務室だ、……秘書艦として立つ利根も含めて。あの青髪の駆逐艦はもういない。 12 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:00:51
アナ・イゴール @KNPITNG

「どうした?早く報告をしろ」マズダはスチールめいて無関心な、冷たい声色を崩すことなく利根を促した。しかし利根は恨めしげに自分を睨んだまま黙っている。「どうした?」それはマズダにとって些か予想外の表情だった。 13 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:02:59
アナ・イゴール @KNPITNG

マズダは高純度オーガニックワインを手元のグラスに注ぎながら利根を観察する。思えば軽口のキレが鈍かった。些か顔色も悪い。「お前達の恨みを買った覚えはいくらでもあるが、それも報告されねば分からん」「……那智と球磨が死んだぞ。オヌシの言うとおり、サーモン海域で」 14 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:05:11
アナ・イゴール @KNPITNG

「そうか。それで、戦果は?」「!」「レ級と戦ったのだろう?沈めたのか?」苦々しげに口を開いた利根と対照的に、スチールめいた無関心さのまま、マズダはグラスに口をつけた。利根の奥歯がギリ、と音を立てる。 15 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:07:21
アナ・イゴール @KNPITNG

実際マズダの無慈悲な振る舞いはポーズではない、本当に心の底から艦娘の犠牲に興味が無いのだ……。「レ級は小破どまり。だがヲ級改は大破にまで追い込んだぞ」利根は半ば諦めたように苦笑すると、吐き捨てる。 16 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:09:32
アナ・イゴール @KNPITNG

「オヌシお得意の捨て艦の成果じゃ。満足か?」「重巡と軽巡一隻ずつの犠牲にしては十分な成果だろう。バンザイと言ったところだ」マズダはグラスの中身を半分ほど飲むとマホガニー製の机の上に降ろした。その瞬間。 17 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:11:43
アナ・イゴール @KNPITNG

「たわけが!」グラスが机の上から突如姿を消し、一瞬遅れてグラスの砕ける音が執務室に響く。利根が怒りの声と共に机上のグラスを払いのけたのだ。マズダはグラスの行方を目で追う。砕けたグラスから流れ出たワインが、血痕めいたシミとなって絨毯に広がっていく。 18 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:13:53
アナ・イゴール @KNPITNG

「グラスも絨毯も高かったんだがな」マズダはため息をつくと引き出しから煙草を取り出し、火をつける。センコめいた炎と共に燻すような煙が部屋の中に広がり、利根は僅かに顔をしかめた。 19 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:16:01
アナ・イゴール @KNPITNG

捨て艦を始めて以来、マズダにとって利根からの怒りの視線はチャメシ・インシデントである。どちらにせよ艦娘が提督に逆らうことは出来ない。そしてそれ以上に、マズダと利根は男女の仲だ。所詮これも痴話喧嘩めいた感傷に過ぎない。 20 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:18:11
アナ・イゴール @KNPITNG

「退却、退却と夢の中で言うことは出来ても、それを吾輩達に言うことは出来んのじゃな……」「出来ないな」無表情を崩さず、マズダ少将は煙草を灰皿で押し消すと、おもむろに立ち上がった。利根はビクリと身体を震わせる。マズダの渇いた眼が利根に注がれていたのだ。 21 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:20:21
アナ・イゴール @KNPITNG

「待っ……」「艦娘が提督に抵抗するな」マズダはそのまま利根の腕を掴むと、豪奢なダブルベッドへと強引に押しやる。「オヌシは変わってしまった!」利根は潤んだ瞳でマズダを睨む。だが抵抗の素振りは無い。 22 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:22:31
アナ・イゴール @KNPITNG

「そうだな」マズダは渇いた眼だけで自嘲めいて笑った。「俺は変わって、今の立場を手に入れたんだ」 23 #ケンペイ天狗

2015-02-22 21:24:41
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