ケンペイ天狗「ウォッチ・アフター・ブルー・フィッシュ」

アナ・イゴール @KNPITNG

―――そしてそこで考えを打ち切ると、マズダは笑った。「退却しろ、五月雨」 68 #ケンペイ天狗

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「え……？」五月雨が、目の前に死神がいることすら忘れ、振り返る。「退却しろ。命令だ」マズダは笑みを崩さず、繰り返した。「そんな！でも！」「いいんだ。……退却だ。お前は、生きてくれ」マズダは何度でも繰り返した。何か、とてつもなく大きな空白を埋めるように。 69 #ケンペイ天狗

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「……は、い」やがて、大粒の涙が、アクアマリンめいて蒼く、丸い目から溢れ落ちた。 70 #ケンペイ天狗

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「……何の真似だ」再び静寂が戻った部屋で、ケンペイ天狗は床にアグラで座り込んだマズダを見下ろしていた。「いや、どうも、この世にブッダは本当にいるらしい」マズダは静かに、自嘲するように笑う。「最期に、一番大きな悔いをやり直させてもらった」 71 #ケンペイ天狗

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「なあケンペイ天狗＝サン。お前も昔提督だったんだろ？沈んじまったあの娘達は、俺達を恨みも、後悔もしてないのかもしれないな……」ケンペイ天狗は答えない。「だとすれば、俺達は死んでいったあいつらにどう答えてやれば良いんだろうな？」 72 #ケンペイ天狗

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「ハイクを詠め」「ハイクは要らねえ。ただもう一つだけ聞かせてくれ」マズダは気絶し倒れた利根を起こさぬよう、静かに髪を撫でる。「利根を殺すのか？」ケンペイ天狗は死刑執行人めいて、チョップを振り上げた。「艦娘は殺さぬ。殺すのは貴様だけだ」 73 #ケンペイ天狗

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「そうか。それは良かった」マズダは笑い、五月雨が去っていった扉を見た。廊下の奥で、青い魚が一度、跳ねたように見えた。 74 #ケンペイ天狗

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（【ウォッチ・アフター・ブルー・フィッシュ】終わり）　#ケンペイ天狗