ケンペイ天狗「ジ・オールドマン・アンド・サンマ・オーヴァーロード」

アナ・イゴール @KNPITNG

◆忍殺風艦これ二次創作「ケンペイ天狗」◆　 togetter.com/li/679544 　#ケンペイ天狗 （実況・感想用タグは #knpitng をご利用下さい。)

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北方海域。ネオヨコスカを北へ出港し、赤く汚染された近海を超えて更に進んだ外海。かつては最高のサンマ漁場として賑わったこの海は、深海棲艦の出現以来一隻の船も近寄らない。……しかし、今日だけは違う。一隻の小型漁船が白い水飛沫を上げ、群青の荒海を切り裂き進んでいる。01 #ケンペイ天狗

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旧型ディーゼルエンジン特有の轟音を立てる小型漁船は塗装が色褪せ、ひと目で相当の年季を経たものだと分かる。そして、それは船の主であろう老漁師も同様だった。白い髪、深い皺の刻まれた顔、そして老いてなお弛まぬ修練により鍛え上げられた褐色の肉体。 02 #ケンペイ天狗

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「海に出るなぞ、何十年ぶりか！」吹き荒ぶ冷たい海風を、鋼めいた筋肉で弾き返しながら老漁師は叫んだ。舵輪を握る手に力がこもる。「もっと早くからこうしておれば良かったのだ！深海棲艦何するものぞ！」 03 #ケンペイ天狗

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「イサキ＝サン、焦ってはいけない」漁師見習いのハチローが集魚灯の手入れをしながら老漁師をたしなめる。ハチローの表情は分厚いサイバーサングラスに覆われ見えないが、その声は低く、冷静だ。「同感だ。深海棲艦を刺激しかねない」船べりに腰掛けていた黒髪の少女も頷く。 04 #ケンペイ天狗

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「分かっておる」イサキと呼ばれた老漁師は荒く鼻息をつくと、珍妙な二人の同乗者を交互に見た。一人は怪しい男。一人は艦娘。「協力ビズだ。ワシは船の操作を、ハチロー＝サンは肉体労働を、磯風＝サンは深海棲艦の撃退をやる。獲れたオーガニックサンマは山分け。そうだろう？」05 #ケンペイ天狗

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「ああ」磯風は頷くと、目を細めて進行方向を見た。「深海棲艦が少ないルートを選んではいるが、それでもいずれは遭遇は避けられないだろう」「大丈夫なのか？」ハチローが問う。「この磯風に任せておけ」磯風は自信に満ちた表情で笑う。「多少の無茶も、サンマのためだ」 06 #ケンペイ天狗

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【ジ・オールドマン・アンド・サンマ・オーヴァーロード】＃１ #ケンペイ天狗

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読者諸賢におかれては最早常識であろうが、ネオヨコスカにおいてオーガニック・サンマは同量の金と取引される。深海棲艦の出現以来、民間漁師による漁業は壊滅し、市場に出回る魚介類はプランクトン合成粉末を成形、味付けしたものが主流だ。 07 #ケンペイ天狗

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老漁師……イサキは舵輪を掴みながら昔に思いを馳せる。かつては船が重みで沈まんばかりにオーガニック・サンマを獲っていたイサキも、ここ30年は漁に出れず合成サンマしか食べていない。我慢できずに海へ出た漁師仲間達は、ひとりとして生きて帰っては来なかった。 08 #ケンペイ天狗

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イサキに漁への未練は無いはずだった。深海棲艦の拠点である北方海域に漁に出るなど、自殺行為と彼は十分理解していた。しかし、今度10歳の誕生日を迎える孫の、「オーガニック・サンマを食べたい」という言葉を聞いた時、イサキは衝動的に漁に出ることを決意していたのだ。 09 #ケンペイ天狗

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数十年ぶりだが漁船は問題なく動く。当然だ、整備を欠かしたことは一日たりとて無いのだから。イサキが唯一悩まなければならない問題は、漁に出るための仲間だった。一人で漁は出来ない。だがサンマのために深海棲艦の巣に飛び込む狂人などイサキ以外にいるのだろうか？ 10 #ケンペイ天狗

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―――結論として、狂人は二人ほど見つかった。……イサキは舵輪を掴んだまま後ろを振り返った。甲板には少女と男が一人ずつ。それぞれ、名を磯風とハチロー・トウゴと言う。特に艦娘である磯風が仲間に入ったのは、イサキにとって僥倖だった。 11 #ケンペイ天狗

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このような決死隊に参加しておきながら、磯風は野良の艦娘ではない。むしろ彼女には敬愛する提督がいるのだ。事の経緯は単純だ。磯風は秘書艦に任命された。喜び張り切る彼女は提督に手料理を振る舞った。結果、鎮守府はしばし休止することになった。提督は全治一ヶ月であった。 12 #ケンペイ天狗

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突然の提督の入院。その原因が磯風の料理であることに疑問の余地は無かった。しかし、磯風には自分の料理の何が悪いのかが全く分からなかった。……困難を極めた分析作業の末、彼女は料理の素材が悪かったのだと結論付けた。そして、最高の食材を手に入れる旅に出たのだ。 13 #ケンペイ天狗

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「世界一美味い食材、オーガニック・サンマ。これなら間違いなく提督も喜んでくれるだろう」船べりに腰掛けたまま、磯風は想い人を心中に浮かべ、頬を薄紅色に染めた。「磯風＝サンにそれだけ思われてるなんて、その提督も幸せものだな」イサキの言葉に磯風はますます頬を染める。14 #ケンペイ天狗

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一方でハチローは不思議な男だった。漁師見習いを自称するにも関わらず死体めいて白い肌、極厚のサイバーサングラス。いかにもヨタモノ然としているが、体躯は鋼めいて鍛え上げられ、赤黒い血管が浮き出ている。言葉数も少ないが実直だ。あるいは元軍人かとイサキは疑ったほどだ。15 #ケンペイ天狗

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「ハチロー＝サンはどうしてサンマが欲しいんだ？カネか？」イサキは妙な親近感を覚え、ハチローに話しかける。「言いたくないならいいけどよ」「……人に食べさせたいからだ」「ほーう」イサキがニヤリと笑い、小指を立てる。下品なジェスチャーだ。「誰だい？コレか？」「いや」16 #ケンペイ天狗

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……その時、右舷の海面が不意に盛り上がった。「何だ？」顔を向けたイサキの視線が、海面越しに光る２つの目と交錯する。「アイエッ！？」「敵艦！1時方向！」すわ、深海棲艦か！イサキが叫ぶのが早いか、磯風は船べりから飛び降り海面に力強く着水する！船内に緊張が満ちる！ 17 #ケンペイ天狗

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「ロキューーーーッ！！！」SPLAASSH!!巨大な水柱を立てながら、深海スラングと共に一隻の深海棲艦が海面を破って現れる！「見たことあるぞ！駆逐ロ級だ！」「問題ない、一隻限りのはぐれだ！」「ロキューッ！」ロ級の５インチ連装砲を潜り抜けながら磯風が海面を滑る！18 #ケンペイ天狗

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「イヤーッ！」「グワーッ！？」KBAM！全速前進を続けたまま、磯風がロ級に加速度の乗った砲撃を叩き込む！「イヤーッ！」更にすれ違いざまに裏拳めいた肘打ち！「ロキュグワーッ！」後頭部破壊！同じ駆逐艦を物ともせぬカラテ！「ロ、ロキューッ！」だが、殺しきれていない！19 #ケンペイ天狗

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「ロ……ロキュイヤーッ！」煙を吹き上げるロ級が、漁船へと進行方向を変える！アブナイ！正面衝突を狙ったヤバレカバレだ！「ウミノオトコナメッコラー！」イサキが漁師スラングを叫びながら緊急回避舵輪を回す！「揺れるぞ！伏せてろハチロー＝サン！」 20 #ケンペイ天狗

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「イヤーッ！」だがハチローはイサキの言葉を無視するようにやおら舳先へと飛び出す！右手には投げ銛！「バカ！スゴイ・バカ！」イサキの罵声を背中に受けながらハチローは銛をロ級に向けて構え、投げつける！「イヤーッ！」銛は弾丸めいてロ級の目を貫通！「ロキュアバーッ！？」21 #ケンペイ天狗

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「ハチロー＝サン、感謝する」予想だにしない一撃にロ級が怯んだ瞬間、愉悦すらこもった声が響く。ロ級は最早、振り向くことさえ許されなかった。「私の料理道！邪魔しないでもらおう！」磯風は僅かな笑みさえ浮かべながら、ロ級の後頭部に突きつけた連装砲の引き金を引いた。22 #ケンペイ天狗

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【ジ・オールドマン・アンド・サンマ・オーヴァーロード】＃１ 終わり。＃２へ続く。 （本エピソードはこの三連休で完結予定） #ケンペイ天狗