幽霊屋敷の仮定決闘#4(終)

盗賊のシェルヒと、幽霊屋敷で出会った幽霊ルーミ。二人は魔法仕掛けの残酷な運命に必死で抗います #1はこちら http://togetter.com/li/884905 #2はこちら http://togetter.com/li/885319 #3はこちら http://togetter.com/li/885931 続きを読む
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大鏡が割れる。殺人鬼が残した魔法の法則が破壊される。騎士と令嬢は口づけを交わしながら、崩落した炎の天井に押しつぶされ消えた。ルーミの姿もまた、炎となって消えていく。館はいつまでも炎上した。夜空を照らし、全ての呪縛を灰にした。そして、何もかもが終わった。 114

2015-10-13 17:18:18
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――幽霊屋敷の仮定決闘 エピローグ

2015-10-13 17:20:04
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この事件を境にシェルヒの生活が変わることは無かった。彼は相変わらず盗賊の使い走りだったし、巨万の富を手に入れることも、至上の名誉を受けることもなかった。それで彼が不満だということも、もうなかった。彼は幽霊屋敷の事件を境に……少しだけ、満足することを覚えた。 115

2015-10-13 17:21:13
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街から外れた宿場町跡。廃墟となりひとの行き来も無くなった場所に盗賊団は根城を作る。井戸もあるし、盗んだ家畜を囲う設備もあった。かつて侵入者を威嚇した板の壁は、いまや盗賊団の安寧を守る役目を担う。盗賊団狩りに備えて地下脱出路も備えたリッチな拠点だ。 116

2015-10-13 17:23:51
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朝の仕事、家畜の世話を終えて、少しだけ年を取ったシェルヒは顔を洗っていた。鏡を覗くと、幾分かましになった表情が見えた。恐れや不満の無い、一人の人間の顔だ。シェルヒは笑って、井戸端から裏庭へと回る。もう一つの日課……命じられたものでもない、彼自身の仕事がある。 117

2015-10-13 17:26:28
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裏庭の隅に、小さな石碑が立っていた。荒削りの表面に、弔われた者の名前が彫ってある。 「おはよう、ルーミ」  シェルヒはそう言って、ポケットから酒瓶を出した。石碑の前に置かれたコップに注ぎ、祈りを込める。ルーミはとうの昔に浄化された。シェルヒは今も祈りを続ける。 118

2015-10-13 17:28:28
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一羽の烏が酒にありつこうと、シェルヒを見下ろしていた。烏は、一瞬シェルヒの影が女性の形に変わった気がした。烏は不思議に思わない。影は優しくシェルヒの足首を撫でて、元に戻る。それも幻覚かもしれない。死霊とは妄執と後悔の結晶だ。 119

2015-10-13 17:31:35
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その影に、もはや何の不安も敵意もなく……安らぎと慈愛だけが感じられたのだから。 120

2015-10-13 17:33:47
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――幽霊屋敷の仮定決闘 (了)

2015-10-13 17:34:06