『ブレードランナー』の正しい訳し方

ちなみに公開当時の字幕は戸田奈津子氏ではなく岡枝慎二氏です。
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レイチェルの台詞を分析しましょう

It happens sometimes @ElementaryGard

カルト映画『ブレードランナー』で私にとって一番印象深いセリフは、絶体絶命のデッカードを救ったレイチェルが、後に彼の部屋でぽつんとこぼすところ。

2016-02-01 16:27:21
It happens sometimes @ElementaryGard

"Shakes? Me too. I get 'em bad. It's part of the business."(震えてるね?私もだ。たまらない。これも仕事だが)@kumi_kaoru

2016-02-01 16:31:04
It happens sometimes @ElementaryGard

レイチェルがつぶやく。"I'm not in the business. I am the business."(そうじゃないの。私はただの製品なのね)@kumi_kaoru

2016-02-01 16:32:37
It happens sometimes @ElementaryGard

I'm not in the business of offending you.(喧嘩を売ってるわけじゃないよ)と言います。それをちょっとひねったしゃれた台詞です。@kumi_kaoru pic.twitter.com/QuQYjXUso2

2016-02-01 16:37:05
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It happens sometimes @ElementaryGard

「レプリカント(人造人間)を生産している企業の一員のつもりでいたけれど、自分は社員ではなくて製品のほうだったのね」と述べている。@kumi_kaoru

2016-02-01 16:39:18

訂正です

It happens sometimes @ElementaryGard

"I am the business." は「私は標的なのね」と解すべきでした。謹んで訂正します。

2016-02-01 18:09:08
It happens sometimes @ElementaryGard

しばらく二人のあいだで会話が途切れ、レイチェルが再びつぶやく。"What if I go north. Disappear. Would you come after me? Hunt me?"(もし私が北に逃げたら…逃走したら、やっぱり追うの?私を)

2016-02-01 18:11:37
It happens sometimes @ElementaryGard

デッカードは逃走した人造人間を「機能停止」させるのが business(仕事)の男。レイチェルは社から失踪したのだから、デッカードにすれば追うべき獲物。それでレイチェルはつぶやく。"I am the business (of you)."(あなたの獲物よ私)と。

2016-02-01 18:14:52
It happens sometimes @ElementaryGard

"It's part of the business."(命の危険も仕事のうちでね) "I am not in the business. I am the business."(そうじゃなくて、私も今やあなたにとって仕事の標的だってことよ)

2016-02-01 18:17:15
It happens sometimes @ElementaryGard

"No. No, I wouldn't. I owe you one. But somebody would."(まさか。命の恩人だし。だが指名手配中だ)

2016-02-01 18:18:53

レプリカントの「寿命」をめぐる英語のうんちく語りに進む

It happens sometimes @ElementaryGard

『ブレードランナー』でハリソン・フォード刑事(刑事ですよね)が人造人間(ロイではなくレオンのほう)と素手でガチンコ勝負するとき、人造人間が "How long do I live?" と刑事に問いかける。暴力とともに。ここ、どうして現在時制かわかりますか。

2016-02-02 10:12:29
It happens sometimes @ElementaryGard

刑事はこう答える。"Four years."(四年)。人造人間たちはもともと4年で寿命がくるようにできているから、その事実を改めて述べる。

2016-02-02 10:14:00
It happens sometimes @ElementaryGard

"How long do I live?" の字幕は「俺の寿命は?」かな。吹き替えでは「どれだけ生きられる」だった覚えが。後者はほんとうはおかしいですよね。残り時間は?と聞いているようにも聞こえるから。

2016-02-02 10:19:19
It happens sometimes @ElementaryGard

この人造人間は "My birthday is April 10, 2017."(俺は2017年4月10日生まれ)と自分のデータを出してから "How long do I live?" と怒りをこめて問いかける。現在時制で問うてくる理由がわかりますか。すでに確定した数字だから。

2016-02-02 10:20:52
It happens sometimes @ElementaryGard

もし彼が「俺の残り時間はどのくらいだ」と聞く気なら "How long can I expect to live?" と聞くはずです。この expect が大事なところ。これがもしないと「あと何年確実に生きられる?」になってしまいます。

2016-02-02 10:23:16
It happens sometimes @ElementaryGard

ひとの命は、仮にDNAに寿命がデジタルに設定されていたとしても、それよりずっと早くに亡くなることは珍しくないし、反対に設定(があるとして)よりも長く生きることも珍しくない。むしろそのほうが圧倒的に多いはずです。そういう誤差というか不確定要素を意識して expect to live

2016-02-02 10:25:31
It happens sometimes @ElementaryGard

仮に "How long can I live?" だと、聞かれた側は "God knows."(神のみぞ知る)つまり「知るか」とつっこみたくなる、きっと。

2016-02-02 10:33:26
It happens sometimes @ElementaryGard

"How long do you live?" はまさに「寿命=デジタルに定められた設定」としての質問です。さりげなく怖い台詞ですね。

2016-02-02 10:46:06
It happens sometimes @ElementaryGard

で、ふっと連想したのが映画『アマデウス』のなかで、皇帝がモーツァルトに "When do you marry?" と聞く場面。ちなみにモーの横には婚約者がいる。結婚はもう確定事項と認識して、現在時制で質問する皇帝。「結婚はいつ?」よりも「式はいつだね」と訳す。

2016-02-02 10:48:23
It happens sometimes @ElementaryGard

もし皇帝が「そなた、いつごろ結婚したいと思っているね」と聞く気なら "When do you expect to marry?" これはすでに婚約者がいるか、近い将来にそういう相手を見つけたいと思っている相手に使う。つまり可能性がそれなりにある場合。

2016-02-02 10:57:00
It happens sometimes @ElementaryGard

子どもに「いつ結婚したい?」と聞くのなら "When do you think you will get married?" がいい。do you think を必ず入れて、will を使う。もし入れないと「いつ結婚が実現するか?」と響く。そんなの God knows なのに。

2016-02-02 11:01:45