漫画史研究者・宮本大人氏による連続ツイート:「手塚治虫」以前の子供向け物語漫画

『MdN』『BRUTUS』『サライ』でのマンガ特集に対する発端にした連続ツイート。
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MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

23)浦沢が『BRUTUS』の対談でキーズ・リチャーズが「墓碑銘に過去の偉大なる遺産を後世に語り継いだ男って刻んでくれ」と言ったという話をしているが、手塚にもまたそういう側面があることは、戦前・戦中の漫画を見ていけばすぐにわかる。

2016-02-24 10:17:26
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24)手塚は自分以前の漫画を知る必要を強調することがある一方で、しかし、例えばそれらと比べて自分はここが新しかったと言うときには、そういう表現や主題は自分以前になかったのかを具体的に示すことはない。それはある意味では当然なので、研究者が検証しなければならない。

2016-02-24 10:17:42
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25)今まで私の書き物の中では紹介してきていないものをいくつかお見せして、「手塚以前」のイメージが少し変われば幸い。まずは「舞台的なマンガ表現」の典型として手塚自身も名前を挙げていた「のらくろ」の田河水泡から。

2016-02-24 10:18:00
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26)田河のもう一つの代表作「凸凹黒兵衛」。これは昭和9年、黒兵衛が家族の下を離れて都会の学校に行く回。幼馴染の女の子との涙の別れからのこの見開き。画面右上奥に見送る両親と幼馴染。近景の花といい素晴らしい構図。 pic.twitter.com/kYzQ4J4Qv7

2016-02-24 10:22:06
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27)コマ割りについてはいしかわじゅんが挙げる「スピード太郎」よりもっと奇抜でよく見るとそれなりに理にかなったコマ割りをしていた荒井一寿。これは『ドン太郎と左膳』というやはり昭和9年の作品。 pic.twitter.com/PXragVeMNa

2016-02-24 10:22:44
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28)コマ割りでもう一つ。こちら作者不詳の赤本「トッカン騎士」、昭和10年。内容は竜と剣と魔法の世界。ちなみに物語はぐだぐだ(笑)。 pic.twitter.com/YI97J3YXNc

2016-02-24 10:23:37
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28)コマ割りでもう一つ。こちら作者不詳の赤本「トッカン騎士」、昭和10年。内容は竜と剣と魔法の世界。ちなみに物語はぐだぐだ(笑)。 pic.twitter.com/lyC8pnDT7r

2016-02-24 10:24:10
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29)スピード感という点ではこちらを。平井房人の「エレちゃん先生の冒険」、これも昭和9年。フキダシはないが、いわゆる絵物語ではない。このスピード感、そして構図の巧みな変化。アップも効果的に使用。 pic.twitter.com/yFcFPptnJT

2016-02-24 10:25:49
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30)手塚登場の10年以上前、すでに日本では赤本漫画が東京と大阪で年間数百タイトル出版される最初の子供向け物語マンガのブームを迎えている。表現も主題も、今日知られていないだけで実に様々なものがある。そして、これを教育的な観点から問題視する議論もこのころすでに登場していた。

2016-02-24 10:26:15
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

31)その教育的な観点からの問題視と戦時のメディア統制が合流する形で昭和13=1938年に出版物の検閲を行っていた内務省警保局図書課というところから「児童読物改善二関スル指示要綱」が出版社に通達され、その後、赤本漫画が数十点発禁処分を受ける。

2016-02-24 10:26:30
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

32)この辺は私もいろいろ書いているので、詳しくは国会図書館サーチとかで著者名「宮本大人」で検索していただきたい。

2016-02-24 10:26:46
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

33)で、その後子供向け物語漫画の世界は表現、主題ともに大きな変容を経験していく。しかしそれは「鬼畜米英」的な戦意高揚的プロパガンダの方向ではなく、むしろまさに「教育的」な性格をもったものであり、かつ表現において写実性を増したものになっている。

2016-02-24 10:27:02
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

34)ある意味では「指示要綱」以降、日本の子供向け物語漫画はより洗練されていったと言える側面を持っている。有名な旭太郎(小熊秀雄)と大城のぼるのSF『火星探検』(昭和14年)もまさにこの時期の産物。

2016-02-24 10:27:20
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

35)例えばこれは文部省推薦児童図書に選ばれた『愉快な子熊』という芳賀たかしの昭和15年の作品。シートン動物記をモチーフにしていて動物の描写も格段に写実的になっている。背景も細密。 pic.twitter.com/gKKo7yqilC

2016-02-24 10:27:47
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MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

36)もう一つ大きな変化は、〈成長〉という主題がはっきり入ってくること。ここで同時代の児童文学も視野に入れる必要が出てくる。問題は、単に手塚神話の相対化にとどまらず、戦争と漫画の関係というより大きな文脈に広がっていく。

2016-02-24 10:28:21
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

37)今週末の白百合女子大学ではまさにこの「指示要綱」以降の変容を中心にお話ししたい。ご興味とお時間おありの方は、リンク先をご覧の上お申し込みいただければ。明日の17時で締め切りなのでお急ぎを。 d.hatena.ne.jp/hrhtm1970/2016…

2016-02-24 10:28:36
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

38)また、いずれも米沢嘉博記念図書館で行われる「マンガと戦争」展関連のトークイベント(3月18日の吉村和真さん、5月21日の西島大介さん)でもこうした戦時の漫画表現を話題の一つにしたい。 meiji.ac.jp/manga/yonezawa…

2016-02-24 10:28:53
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

39)以上、お付き合いいただきありがとうございました。2016年度は遂に執行部から解放されるので(早速何だか面倒そうな仕事を振られたり、マンガ学会の大会実行委員長をすることになったりしてますが)少し論文が書けたりするはず…!ツイッターは普段は「尿なう」とかで行きますが。

2016-02-24 10:29:19
MIYAMOTO,Hirohito @hrhtm2011

では調べ物に行ってきます。ごきげんよう。

2016-02-24 10:31:00