古代ギリシアの猫について
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(18)紀元前5世紀のギリシア中部のボイオティア地方に目を移しましょう。この地において、猫は名産のひとつだったようです。喜劇のセリフの一つですが、ボイオティア人が名産物をアレコレと列挙するもののひとつに猫があります(Ar. Ach. 879)。
2016-02-27 23:36:46(20)例えば、アリストテレスは『動物誌』という著作の中でさまざまな動物を観察しましたが、そのなかに猫の記述もあります。そこでは猫の交尾の仕方や、猫の寿命は6歳くらいだとかを記録しています(Arist. HA 540a10; 580a24)。
2016-02-27 23:40:38(21)この他にも、 ・オス猫がメス猫の子どもを奪い取って食べてしまう習性がある(Hdt. 2.66) ・猫は夜行性であり、雌は生涯に28匹の子猫を産み、猫の瞳の大きさは月の満ち欠けと連動して大きくなったり小さくなったりする(Plut. Mor. 376e-f)
2016-02-27 23:42:27(22)
・猫は臭いを嫌うので、トイレの際は砂を掘ってそこにする(Ael. NA 6.27)
…といった観察記録があります。
※ツイート(22)ですが、変な翻訳をしていたので、ちょっと訂正します。
(23)エジプトの猫崇拝はすでに述べましたが、それはギリシアの人々にとって少なからず奇妙なものに映りました。ある喜劇作家はエジプト人をからかうような文章を残しています。中には「エジプト人と違って、われわれは猫の皮を剥ぐ」という一文も出てきます(Ath. 299f-300b)
2016-02-27 23:45:37(23 補足)そういえば、「猫忠」という落語には、"親の皮を使って作られた三味線"があることを知って、その所有者に近づいた化け猫が登場します。古代世界でも猫の皮が楽器に使われたかは分かりませんが、奢侈品か何かに使われたのでしょう。
2016-02-27 23:46:29(24)ところで、夏目漱石の『吾輩は猫である』に「書生ってヤツは猫を煮て食べてしまう」なんて一節がありますが、ひょっとしたら古代の人も猫を食べていたかもしれません…(Plut. Mor. 959e)
2016-02-27 23:47:23(25)鼠に限らず猫は色んなものを食べるわけですが、なんと人の死体も食べさせられたという記述もあります。謀反によってペルシア王アルタクセルクセスを殺した宦官のバゴアスが、王の死体を猫に食べさせたというものです(Ael. VH 6.8)
2016-02-27 23:50:02(26)これ以上は猫がかわいそうですから、ヘンなものを食べさせられたり、食べられてしまう話はこのくらいにしましょう。ところで、もしも猫が夢に出てきた場合、それは姦夫を示すと古代の占師アルテミドロスは述べます。猫は鳥(=女性)を盗んでしまうからです(Artem. 3.11)
2016-02-27 23:50:48(27)また、紀元後6世紀のお話ですが、ペットの鳥(ヤマウズラ πέρδιξ)を家猫に食べられてしまった人もいたようです(Anth.Gr. 7.205; Suda οἰκογενής)
2016-02-27 23:51:30(28)そろそろまとめましょうか。ここまで色々な古典文献を眺めてきましたが、ギリシア古典において猫は、なんと申しますか、決して優遇された存在ではありませんでした。そもそも言及された例がすごく少ないですし。
2016-02-27 23:53:04(29)ただ、プルタルコスの『モラリア』に「多くの者は、山猫や家猫や猿やライオン(!?)などを育て、可愛がっている」云々という一節があります。猫が好きな人はやっぱり古代にもいたようです(Plut. Mor. 482c)
2016-02-27 23:53:58(30)最後に猫つながりということで、あの「トムとジェリー」シリーズにも古代ギリシアが舞台のものがあります。まぁ、ここでもトムはジェリーにコテンパンにやられてしまうわけですが…。 pic.twitter.com/svKlZFamXo
2016-02-27 23:54:50図版出典: Wikimedia Commons「It's Greek to Me-ow!」
【参考文献】 ・國方栄二「古代ギリシアのペット(1)」『西洋古典叢書月報』(73) 6-7頁 2008 ・平岩米吉『猫の歴史と奇話』池田書店 1985 ・吉村作治(編)『古代エジプトを知る事典』東京堂出版 2005
2016-02-27 23:57:30【追記・古典文献略号】
Ael. NA: アイリアノス『動物の特性について』
Ael. VH: アイリアノス『ギリシア奇談集』
Anth. Gr.: 『ギリシア詞華集』
Ar. Ach.: アリストファネス『アカルナイの人々』
Arist. HA: アリストテレス『動物誌』
Artem.: アルテミドロス『夢判断の書』
Ath.: アテナイオス『食卓の賢人たち』
Babrius: バブリオス
Diod.: ディオドロス『歴史叢書』
Hdt.: ヘロドトス『歴史』
Luc. J Tr: ルキアノス『悲劇役者ゼウス』
Plut. Mor.: プルタルコス『モラリア』
Strabo: ストラボン『地理誌』
Suda: 『スーダ』
あ、そうだそうだ。この記事ですが13000PVありがとうございますm(_ _)m togetter.com/li/943718
2016-03-06 22:43:17せっかくなのでこの際に、ちょっと追加で「補論」を述べておきましょう。厳密に言えば古代ギリシアのお話ではありませんし、長くなりすぎるかなと思って使わなかったネタですが、まぁ、お蔵入りするのもなんですし。
2016-03-06 22:45:16(31) インターネットで話題となったものに「猫の盾」というものがあります。「エジプト人にとって猫は神獣だったので、猫を盾にして攻め込んできたペルシア人に対して手出しできずに敗れてしまった」というものです。
2016-03-06 22:50:04(32) 実はこれ、根拠のない話ではなく、ちゃんと古代語の史料に書かれてある元ネタがあります。紀元後2世紀のマケドニア人のポリュアイノスという人が書いた『戦術書』の7巻9章、ペルシア王カンビュセス2世の事績を記した箇所にそれらしきことが述べられています。
2016-03-06 22:51:45(32 補足) ちなみにですが、猫好きで有名だった作家の大佛次郎も『猫のいる日々』所収の「猫のこと」というエッセイでこの話を取り上げています。それも"歴史にあった事実である"と強調して。 amazon.co.jp/dp/4198938741/…
2016-03-06 22:53:47