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アザラシ提督 @yskmas_k_66
木こりが川のそばで木を切っていたところ、誤って斧を川に落としてしまった。哀れに思ったヘルメスは木こりが正直なのをよしとし、金・銀・鉄の斧を授けた。 このようなアーケイック期のギリシアにおける貴金属の贈与・流通・使用方法について、知るところを述べよ。 #歴史学力高い童話
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せっかくなので以前ツイートしたものを解説します。全部で20ツイートくらいだと思いますが、よろしくお願いします。 #歴史学力高い童話 twitter.com/yskmas_k_66/st…
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(1)まず「木こりが川のそばで……金・銀・鉄の斧を授けた」というのは、みなさんご存知、イソップ寓話の「金の斧・銀の斧」ですね。 pic.twitter.com/x08lVZhdKg
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(2)さて、イソップについてはWikipediaで調べていただければいいのですが、大事なのは彼が紀元前630〜600年くらいに生まれたということ。ギリシア史の歴史区分では、【アーケイック期】の人間であったということです。 ja.wikipedia.org/wiki/アイソーポス
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(3)古代ギリシアのことをご存じない、もしくは高校では地理Bや日本史Bを選択していたのでよく分からない…という方の為、古代ギリシアの時期区分についてツイートしておきましょう。
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(4) ミケーネ時代 前1600~前1200年頃 初期鉄器時代(暗黒時代) 前1200~前800年頃 アーケイック期(前古典期) 前800~前500年頃 古典期 前500~前338年 ヘレニズム期 前338~前31年 ローマ時代 前31~ こんな感じに覚えていただければOKです
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(4 補足) この時の日本列島はと申しますと、縄紋土器や弥生土器などをせっせと作っていた頃です。歴民博の時代区分とか、続縄紋時代や貝塚時代などに関して述べるとひたすら長くなるので割愛します。ごめんね。
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(5)さて、イソップですが「この人が本当に実在したかどうか」というのは少々厄介な問題です。イソップとはある一人の個人ではなく、寓話作家の集合名詞なのではないか…ということですね。
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(6)ただ、ヘロドトスやプラトンやディオゲネス・ラエルティオスなど、多くの古典史料に言及があることを考えると、まぁ、前600年くらいに活躍した人なんだろう、ってかんじでお茶を濁させてください。
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(7)ところで、「金の斧」ですが、イソップ寓話を記した写本の中でも最古に属する「アウグスブルク写本」に収録されたもので、ヘレニズム期初頭にまとめられたイソップの集成に連なるであろう、比較的古いものだと推測されます。 (中務哲郎訳『イソップ寓話集』360頁)
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(8)ちなみに、中務先生曰く、「金の斧」は当時流布していた「隣の爺」型の昔話がイソップの寓話に取り込まれたものであり、似たような昔話はスカンディナヴィアに、そして世界のあちこちに見られるとしています。 (中務哲郎『イソップ寓話の世界』193-8頁)
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(9)ともかく、「金の斧」とは、アーケイック期に遡ることが可能なくらい古い時代の人が作った/集めた、古めの話なんじゃないか…というものです。
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(10)と、いったところでいよいよ貴金属について説明しましょう。古代ギリシア世界において貴金属は食器や装飾品、副葬品に使われてきました。有名なのはシュリーマンがミケーネで発見した「アガメムノンのマスク」じゃないでしょうか。 pic.twitter.com/uSsce9Sapu
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(10 補足)アガメムノンのマスクなど、ミケーネ時代の金製品については周藤芳幸『古代ギリシア 地中海への展開』京都大学学術出版会 2006, 53-55頁をご参照ください。
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(11)エーゲ海以外に目を転じますと、ここ最近、「よみがえる黄金文明展」「ウクライナの至宝展」といった特別展が開催されたこともありますし、トラキアやスキュタイの黄金をご存知の方も多いんじゃないかと思います。 pic.twitter.com/XzrMyyzcVY
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(12)ところで、貴金属はギリシア世界にまんべんなくあったわけではありません。エーゲ海の一部の島、マケドニア、イベリア、そして前ツイートで申し上げましたトラキアなど、貴金属の入手経路は限られていました。
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(13)古代ギリシア人がどうやって・どのくらい貴金属を入手したのかは、正直よくわかりません。考古学からわかることはごくごく僅か、沈没船から貴金属が見つかることは稀ですし、古典文献や碑文も全体像を明らかにしません。
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(14)とりあえず、こういう状況であることを踏まえて上で、貴金属に関わりそうな史料をみていきましょう。主たるものはホメロスの『イリアス』、『オデュッセイア』です。
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(15)まず、『イリアス』を捲ってみると、グラウコスとディオメデスが青銅の鎧と黄金の鎧を交換する場面(Il. 6.215-236.)、アガメムノンがアキレウスと和解すべく黄金を贈ろうとする場面(Il. 9.119-24; 135-40; 23.238-48)なんてのがあります。
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(16)これは文化人類学でいうところの「贈与」の事例だと考えられています。このような慣行はアーケイック期、ひいては古典期においても存続しました。 (フィンレイ, M.I.『オデュッセウスの世界』112-21頁; 橋場弦『賄賂とアテナイ民主政』32-58頁)
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(17)このほか、パトロクロスの葬送競技では銀製のクラテール(混酒器)や黄金半タラントンが賞品になりました(Il. 740-51.)。 (半タラントンってどんぐらいだったっけ…最低でも10kgくらいだろうか…。)
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(17 補足)このようにギリシア世界においては、競技祭で高額賞金が振る舞われることがしばしばありました(cf. Athenaeus 521e-522d; CIG ii 2758) どんな顕彰が行われたかについては桜井万里子・橋場弦編『古代オリンピック』149-51頁もご覧下さい。
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(18)他方で、ヘシオドスの『仕事と日』はどうでしょうか。貴金属のやりとりがあったかは分かりませんが、農民の間にも交換や贈与の慣行があったようです(354-6)
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(19)王様たちによる貴金属の「所有」についてですが、例えば、トロイアのプリアモス王は10タラントン(だいたい300kg)の黄金を持っていました(Il. 24.232-5.)。 (さて困った。20ツイートを越えてしまいそうだ…。)
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(20)オデュッセウスも黄金や銀のクラテール(混酒器)を所有していたようですし(Od. 24.274-285.)、その妻ぺネロペイアも銀と象牙を家具の一部に加工して使っていたようです(Od. 19.56.)。
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コメント

巫俊(ふしゅん) @fushunia 2015年12月22日
ホメロスが記述している、青銅の鎧と黄金の鎧を交換する場面ってのが興味深いですね。
巫俊(ふしゅん) @fushunia 2015年12月22日
ちょっと違うかもしれませんが、「講談社選書メチエ『アイヌの世界』によると、北海道の日高地方の黄金が平泉の金色堂で使用されているが、その日高地方から日本の貴族が使用する高級品の「銅椀」が出土している」という例がありまして、金を集めてくるのに、同じように光る銅(青銅も新品は青くない)製品を利用して交易したことが考えられるそうです。イベリアなどから運んでくるなら、現地人に銅を見せて騙す?こともありそうな気がしました(^^)
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2015年12月22日
fushunia コメントありがとうございます(・∀・) 実はこの鎧の交換なのですが、ちょっと続きがあります。交換するにせよ一方は牛百頭分の価値のある黄金の鎧、かたや牛九頭分の青銅の鎧、友好のためとはいえ決して等価交換ではありません。ではなぜ交換してしまったのかというと、ホメロスは「大神ゼウスが彼を狂わせたのだ」と説明しています(ホメロス『イリアス』234-6)。
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2015年12月22日
fushunia それから、古代世界にも当然といえば当然ですが贋金がありました(cf. アリストファネス『アカルナイの人々』517; ルキアノス『歴史はいかに記述すべきか』10)。金属の価値を偽って相手を騙そうとする人は古代ギリシアにも存在していたようです。 ちなみに、かの哲学者ディオゲネスも貨幣の悪鋳に手を染めた…なんて史料もあります(ディオゲネス・ラエルティオス6.20-21; これの分析が山川偉也『哲学者ディオゲネス』講談社学術文庫 2008, 第3章および4章です)。
16TONS@最近ゲームやってねえ @moonintears16t 2015年12月22日
その時代に金の斧銀の斧をもらっても、木こりすげえ困ったろうな。ツイートを見るだにその斧もまた貴重な美術品なのだろう。おいそれと鋳潰すこともできない、買ってくれる人も限られる。
nekosencho @Neko_Sencho 2015年12月22日
かわりにこのきれいなジャイアンをあげましょう
Kawai_Yusuke @fiddler_K 2015年12月22日
そっかイソップの寓話か
Kawai_Yusuke @fiddler_K 2015年12月22日
そっかイソップの寓話ってことは紀元前のお話か
いでこ @00antousora 2015年12月23日
そのイソップ寓話が日本に渡って来た結果… 少し前 「かわりにこのきれいなジャイアンをあげましょう」 ↓ 今 「ヒジリサワ↓ショウノスケ↑ダー!!家宝にすっぺぇっへぇ」
ポメ@ぽめ @pome777 2015年12月23日
こういう考察大好きwww
清水 @simizu6 2015年12月23日
想定外の歴史学力が高さ
tenpurasoba @tenpurasoba4 2015年12月23日
大喜切から面白い読み物に発展してます。こういうの大好きです!
あき @AM0071 2015年12月23日
イソップさんがそんなに昔の人だったとは知りませんでした。
Mill=O=Wisp @millowisp 2015年12月23日
幼少期に読んだ「イソップ絵本」の挿絵は概ね中世っぽい雰囲気で描かれている印象があるが、時代背景を考えると古代ベースで描く必要があることになるな
アザラシ提督 @yskmas_k_66 2015年12月23日
AM0071 そうなんです。わりと古い人なのです(・∀・) 「紀元前564年に亡くなった」という記述がありますから(『スーダ』「Αἴσωπος」の項目; エウセビオス『年代記』564年)、中国で孔子が生まれる約10年前に亡くなったことになります。
nito @projectbreeder 2015年12月27日
こういう歴史学が好きです
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