ストレイトロード:ルート140(18周目)
- Rista_Bakeya
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140文字で描く練習、865。卒論。 その後の人生で役に立っても立たなくても、自分を象徴するものの一つかもしれない。
2016-02-02 19:03:58山に住み着いた怪物が麓の街を荒らす。よくある話に巻き込まれた藍は地元の子供達と怪物退治の作戦を練っていた。「問題はどうやってあの鬼を追い払うか」いつしか話題は山への立ち入りを許さない偏屈な地主をやり込める方法に移っていた。「いつから鬼退治が目的に」「その方が人受けよさそうだから」
2016-02-03 20:13:02今朝の新聞に面白い記事があったという。「あなたが見てないなんて絶対嘘よ」藍は私の手から新聞を奪い取って紙面をめくり、ある記事を突きつけた。「ここ」私が注目せず読み飛ばした対談に、覚えのある人名が刻まれていた。背筋が凍えた。「知り合いじゃない?」彼女は名前より所属に注目したようだ。
2016-02-04 19:49:51床を突き上げる衝撃と地鳴りが私達から眠気を奪った。外の様子が気になり小屋から出ようとした私を藍が呼び止めた。「動いちゃダメ」直後、踏まなかった一歩分のその先で、植木鉢の割れる音がした。「ほら、ろくなことない」藍の許可を得て外を見た。軒下に並んでいた氷柱の大半が地面に刺さっていた。
2016-02-05 20:16:44私が駆けつけた警官に事情を説明する間、藍は後ろから私の腕を力任せに掴んでいた。自分を侮辱した相手が連行されるまでは善良な子供を演じたが、事が決着するや文句が溢れた。「黙っているしかないなんて悔しい」よく我慢できました。彼女へ言う代わりに腕をさすった。恐らく手形が残っているだろう。
2016-02-06 20:06:25「君が風の魔女!会えて嬉しいよ」今日訪れた町は勇敢が尊ばれる土地らしい。人々はメディアから聞いた武勇伝を好意的に解釈していた。逃げ隠れは不要と安堵していると、藍を歓迎した雑貨屋の店主が私を見て言った。「だがお付きの人はどうも頼りない」藍は笑った。「鍛え直すのにいい場所知らない?」
2016-02-07 19:11:44長時間に及ぶ検査で疲れた藍が一瞬で寝ついた後、研究員の一人が私を呼び出した。彼は藍の様々な逸話を教えてくれた。内面も表に出る顔も、私が道中で見てきた彼女と変わりなく、どんな話も容易に想像できる。「だが解らない」視線が私に情報を求めていた。「何故、我々を利用しても頼りはしないのか」
2016-02-08 20:30:20両親の招集を聞いた藍は一晩揉めた末、次の目的地を一旦諦めた。引き返す道中では終始不満そうだったが、自宅の塀を見て態度を軟化させた。「いつの間に模様替えしたの?」庭の様子が前と違うらしい。出迎えた藍の両親に尋ねると、彼らは庭師の一人を名指しした。藍が好きそうな花を集めていたという。
2016-02-09 19:05:08その日の朝は藍の悲鳴から始まった。隣室から壁越しに聞く限り、櫛がうまく髪を通らないらしい。数十分後、不機嫌な顔で客室から出てきた藍は、私を見るなり澄まし顔を作った。「早く行きましょ」私は彼女の荷物を回収するついでに浴室を覗いた。洗面台に散らかった抜け毛が壮絶な闘いを物語っていた。
2016-02-10 20:01:29140文字は毎回(リクエスト回以外でも)テーマを先に決めていて、もちろん今日もそうだった。 当初はゼファールの方に何か起きるネタを考えていたけど、なんか単純に悲しくなる話しか浮かばなくて…結局方針を変えた。
2016-02-10 20:05:46笛のような物悲しい音色は間違いなく谷底から聞こえてくる。車窓から崖を見下ろしても音源は見えないが、やはり今のご時世では悪い想像が先に浮かんでしまう。「でも気になる」藍の一言を受けて私は窓を開けた。問題の音色が強い風と一緒に車内へ飛び込むと、藍が唸った。「これ、鳴き声じゃなさそう」
2016-02-11 21:49:47丘の上から見渡す広い農場は酷い有り様だった。ただし近隣の村で拾った噂とは違う意味で。「野菜が食い荒らされたって聞いたんだけど」爪痕はなく、あるのは枯れた葉ばかり。藍がその一枚を摘んだ。「灰色…この辺に火山なんか」「初めからそんな色だ」農場主が言った。「誰かが変な種まいてったのさ」
2016-02-12 18:56:53一台のトラックが複数の車に足止めされ、後続車の私達までも道を塞がれた。そして銃を抱えた男達がトラックの荷台を囲んだ。私は後退を試みた。が、「このままじゃ先に行けない」苛立った藍が勝手に警笛を鳴らし、幸いにも彼らは逃げた。その時希少生物の剥製を博物館へ輸送中だったことは後で知った。
2016-02-13 21:39:42藍は髪の結い方こそ常に一定だが、結んだきりで過ごすことはほぼない。しかも毎回髪留めを替えている。長いハイウェイを三日かけて走破した時も、風呂と洗濯は諦めてくれたが頭を飾る色は日替わりだった。各地でさりげなく買い集められた髪飾りが今日も、助手席の裏に置いた箱の中で出番を待っている。
2016-02-14 19:53:32