ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

遥か頭上を高速で雲が流れている。空は灰色だ。黄金の立方体は距離感の無い高度で冷たい光を投げている。ピリピリと音が響き、微かな稲妻の筋が閃いた。ニンジャスレイヤーはヌンチャクを構えた。「スウーッ……ハアーッ」チャドーの呼吸。その背からドラゴンが飛翔する如く、白い煙が立ち上る……。

2016-05-12 23:13:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRA-TOOOOM!「グワーッ!」ニンジャスレイヤーに落雷した!彼の視界は白く染まり、暗転した。よろめき、踏みとどまる。足元から全方向にビリビリと稲妻の余波が逃げていく。さながらそれは地に落ちた幼い神話のトカゲめいて。ニンジャスレイヤーは膝をついた。焦げた装束が血によって蘇る。

2016-05-12 23:15:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「スウーッ……」ニンジャスレイヤーはよろめきながら立ち上がった。「……ハアーッ……」命がある。雲間が光り、威圧するように雷鳴が鳴った。これは必要なダメージだ。今の落雷で呼吸を掴んだ。否、掴まねばならない。立て続けに落雷を受ければ、ニンジャスレイヤーは死ぬであろう。「スウーッ……」

2016-05-12 23:23:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(((フジキド!心せよ。次に落雷を受ければ犬死にだ)))ナラクに余計の言葉はなかった。「ハアーッ……」ニンジャスレイヤーは目を見開いた。充血した目元から血の涙が溢れた。血液は体熱に焼かれ、白煙に混じった。ニンジャスレイヤーはヌンチャクを握りしめる。ドロロロロ……雲が光る!

2016-05-12 23:26:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

混濁しかかった意識が徐々に晴れる中、ドウグ社のグランドマスターたるサブロ老人の言葉が浮かび、染み入った。(ヌンチャク。一方はブレーサーと同様、ドリームランド埋立地地中深くより掘り出された産業レリック鋼を素材としております。雷であっても、決して溶かされる事はありません)

2016-05-12 23:33:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

産業レリック鋼は、もとは埋め立てられた廃棄物である。有害物質によって腐食した金属が自重によって徐々に圧縮され、様々な奇跡的・複合的な要因をもって、奇怪な鉱石に変じる。電子戦争以前の微かな記憶を宿す、滅びの鉄である。(ナノカーボンの鎖が、もう一方と繋ぎます。こちらは、木です)

2016-05-12 23:41:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

材料となる木はサブロが用意したものではない。フジの樹海に、変性した黒檀が生える地点がある。ニンジャスレイヤーはマスターヴォーパルから地図を購入し、自ら求めて入手した。サブロは言われるがままにそれを用いたのだ。(削り、磨く過程で、私は木の呻きを聞きました。恐ろしい声を)

2016-05-12 23:49:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サブロ老人は黒い表面を撫でた。(木でありながら、鋼のように重い。ナノカーボンの鎖と、この木が、雷を遮る助けとなりましょう)老人の声には静かな熱が篭っていた。(ご武運を)

2016-05-12 23:57:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは虚空にヌンチャクを繰り出した!記憶の断片は白い熱と共に吹き払われた。一瞬遅れて破裂音が骨を揺らした。ニンジャスレイヤーは死んでいなかった。彼は黒檀の柄を持ち、産業鉄の柄を振り回した。産業鉄の柄は白金色に染まった。稲妻を吸い、捕らえ、輝いていた。

2016-05-13 00:02:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは腕のスナップを効かせ、ヌンチャクを振った。KABOOOOOM!十数メートル離れた地点に隆起した岩が爆ぜて砕けた。ニンジャスレイヤーは目を見開いた。(((慢心すべからず。来るぞ!)))「イヤーッ!」KABOOOOOOOM!

2016-05-13 00:04:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーに雷は見えない。聞こえてもいない。ニンジャ第六感が、全身の皮膚感覚がかろうじて掴む予兆だけが頼りだ。それは人が朝の軒先で雨の兆しを感じ取るのにも似ている。兆しの感覚にすがりつき、たぐり寄せ、身体を動かす。すると、そのコンマ数秒後に、稲妻が来たる。

2016-05-13 00:07:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」KABOOOOOOOOM!……「イヤーッ!」KABOOOOOOOOOM!……不意にニンジャスレイヤーは倒れこみ、へばりつくように匍匐した。KRA-TOOOOOOM! タタミ数枚離れた地点に積まれた石に、落雷した。「スウーッ……ハアーッ……」体力の限界である……!

2016-05-13 00:12:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは寝返りを打って仰向けになり、大の字に手足を投げ出した。KABOOOOOM!ZZZZOOOOOOOM!見上げる厚い雲の内外に稲妻が荒れ狂い、降り来る雨が、焼け焦げた身体を冷やした。ニンジャスレイヤーは目を閉じた。

2016-05-13 00:15:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

岡山県。大型オンセンハウス、「マサシの悟り」。オープンテラスに配置されたカラカサと長椅子のひとつ、闇に溶けこむように腰を下ろし、濃いマッチャを呷る者あり。もとより湯治客の数は少ないが、彼はそれら市民とはアトモスフィアを異にしていた。

2016-05-13 00:25:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

着流しの下、胸板や手足にはサラシが巻かれ、黒い覆面めいた布で鼻から下を覆っている。目元だけでも、幾つもの古傷を認める事ができた。岡山県のオンセンには外から多種多様な人間が訪れる。詮索する者はない。否、詮索しようものなら命に関わる。非ニンジャの本能的な恐怖がそれを知らせるだろう。

2016-05-13 00:29:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルビオンは冷たい風を感じた。こんな遠方であっても、0と1の風は流れる。「……」マッチャの表面にさざなみが走り、湯呑みがミシミシと音を立てる。アルビオンに同行者は無い。彼は独自に敵の足取りを追い、この地にたどり着いた。「あの……ダンゴドスエ」ナカイ・オイランが震える声をかけた。

2016-05-13 00:33:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルビオンは女を見た。オイランは盆を落としかけた。アルビオンは素早く盆を手で支え、己の横に置いた。四角い焼き物の皿の上に、ダンゴが二串乗っている。彼は覆面を引き下ろし、一粒ずつ咀嚼する。場合によっては、これは最後のダンゴの味だ。「……」オイランは震えながら立ちすくんでいる。

2016-05-13 00:37:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルビオンはダンゴの串を掴み、一度に咀嚼した。「アイエエエ」オイランが微かに呻き声を漏らした。アルビオンは目を離さない。長椅子から立ち上がる。オイランの首を掴み、その唇をいきなり荒々しく吸った。オイランは恐怖と高揚に朦朧となった。アルビオンは彼女を引きずるように自室へ連れて行く。

2016-05-13 00:41:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト】#1 終わり。#2 に続く

2016-05-13 00:42:03