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NJSLYR / ニンジャスレイヤー @NJSLYR
【ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト】#2
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(あらすじ:ニンジャスレイヤーは岡山県にいた。峻厳なる山上のドラゴン・シュラインのさらに先、山を包む雷雲と相対し、取り出したるはドウグ社渾身のヌンチャク。これによってカラテで落雷を跳ね返す訓練を開始した)
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(一方、標高を下ったオンセン旅館「マサシの悟り」に宿をとったニンジャが一人。彼の名はアルビオン。かつてニンジャスレイヤーに兄を……ニンジャの兄を殺され、自らもニンジャとなってアマクダリ・セクトに所属するに至った男である)
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KABOOOOOM!壮絶な落雷がショウジ戸を黒白に光らせた。アルビオンはショウジ戸を引き開ける。「近いな」吉兆か。凶兆か。大粒の雪がハラハラと降りきていた。等間隔のボンボリ柱が柔らかい明かりでそれを照らす。アルビオンはフートンを振り返った。オイランの汗ばんだ背中が濡れて光った。
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KABOOOOOOM!再びの落雷。オイランが寝返りを打ち、息を吐いた。「雷が……」女は呟いた。「お前、名前は」アルビオンは尋ねた。女はか細い声で答えた。「ヌノメ」「ふうん」アルビオンはタタミに腰を下ろした。デジタル時計表示を見れば、午前3時。不意に彼は問うた。「お前、故郷は?」
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「……ドサンコ」「そんな遠方から、流れ流れて、この地か」「もとは湯治でした」ヌノメは答えた。「肺が弱くて。オンセンは効きました。だから帰ってもよかった。でも、帰ってどうするのか考えたら、急にどうでもよくなって」「それでオンセン・オイランか」「ここは静かで、平和です」「……そうか」
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ヌノメは乱れた髪を整え、室内のマシンを用いてチャを淹れる。アルビオンはそのさまを見守った。彼女が旅人の素性を訊いてくることはない。ぶしつけだからだ。アルビオンは自ら話しはじめた。「俺はネオサイタマから来た」「遠いところを。湯治ですか」「そう見えるか」「いいえ。……物騒なお話?」
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「人を殺しに来た。違うな。ニンジャを殺しに来たのだ」「そうですか」「……平気のようだな」「もう、平気です」ヌノメは静かに答えた。「あなたは私を殺しますか」「そうだな……」アルビオンは半眼になり、開いた手帳に書かれた棋譜を見ながら、ショーギ盤に駒を並べ始めた。「死にたくないか」
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「わかりません」「そうか」駒はショーギ盤でパチパチと音を立てる。「女を殺すのが好きなニンジャは随分居る。おれも似たようなものだ。無抵抗の相手を殺す、時にはわざわざ抵抗できないようにしてから殺す。そこそこ面白い」「……」「お前を生かすか殺すか、どうしたものかと考えている」
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アルビオンのニンジャ聴力はヌノメが唾を飲む音を捉える。駒を一つ。また一つ。アルビオンは横目でヌノメを見る。「己の生き死にはどうでもいい体だが、嘘だな。お前は恐れている」「それは……そうです」ヌノメは乾いた唇を舐めた。「痛みがあります」「そうだ。痛めつけて殺す。でなくば、つまらん」
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ヌノメは答えに詰まった。アルビオンは低く笑った。「恐怖からは自由でいられない。痛みからは自由でいられない。死にたがりとて、死ぬ間際は赤子めいて泣き叫ぶものよ」チャを飲み干し、ヌノメに突きつける。ヌノメは緊張した手つきでオカワリを淹れる。「……数日前にこの宿を利用した男が俺の敵だ」
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「数日前に?」「思い当たるか。教えねば殺す」「……」アルビオンはチャを受け取り、飲んだ。「ハハハ。くだらん。奴の向かった先はわかっている。ドラゴン・シュラインだ。俺は……そうだな。明日にでもここを発ち、奴に挑み、殺すのだ」「敵の名前は?」「フジキド・ケンジ。ニンジャスレイヤー」
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「テレビの」ヌノメは呟いた。アルビオンは頷いた。「あの報道はここまで届いているか。凶悪犯罪者フジキド・ケンジ。ハハハ。くだらん。奴はニンジャであり、我らアマクダリ・セクトの敵だ」ヌノメは複雑な思いを隠して聞いている。このアルビオンは、何故そのようなクリティカルな事実を明かすのか。
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「奴は、おれの組織……アマクダリ・セクトの敵だ。だが、おれは組織にこの旅を明かしていない。戻ればケジメだ。いや、セプクか……どうだろうな……」駒を並べ終えた。小さな世界に、にらみ合う二つの城塞が出現した。アルビオンは一つ一つ駒を動かし、戦況を展開させてゆく。「奴は俺の兄を殺した」
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「その……組織に、お兄さんも?」「否」アルビオンは駒を動かす。「そのとき、おれはまだ十代だった。おれはオシイレ・クローゼットに隠れていた。兄貴はおれの存在を奴に語り、生きながらえようとした。死神に……同情にうったえようとしたわけだ。敵は命乞いを聞かなかった。兄貴を殺した」
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アルビオンは言葉を切り、ヌノメの反応を確かめた。もちろんヌノメは言葉を見つけられない。どう答えれば正解か、わかりようもないからだ。アルビオンはそれを多少愉快に思った。ヌノメの困惑、心の揺らぎが、再び彼の肉欲に火を灯した。「どんなお兄さんでしたか」ヌノメがおずおずと尋ねた。
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「屑だ」アルビオンは即答した。「組織の力を傘にきて、好き放題やってきた屑野郎だ……。死体の処理や見張り役をやらされた。飯を作るのも、飼っている奴らに餌をやるのも俺の仕事だった。俺は学校にも通えなかった。ロクにマンションの外へ出られなかった。ふざけた話だろう」ヌノメは眉をしかめた。
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「そしてある日、ニンジャスレイヤーが兄貴を殺した。それから、兄貴の組織を滅ぼした。……ま、それは少し経ってから知った話だ。おれは唐突に自由を手にした。そして、ニンジャになった」盤上のショーギが終結した。アルビオンはヌノメを手招きし、抱き寄せた。「何故……仇を討とうと?」「さあな」
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「でも、こうして岡山県まで……独りで……ケジメを覚悟して、そうまでして……」「ああ。程度は問題ではないのだろう。おれにとっては。是か否かだ」外の明かりがタタミとフートンを、ヌノメの白い胸を、浮き上がった鎖骨を照らす。夜が明けるにはまだかかる。「兄貴は……そうだな」彼は記憶を辿る。
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それは兄がソウカイヤの仕事を初めてこなした時だ。兄はZBRをキメまくってハイだった。玄関に現れるなり、スーツケースを開き、サイズのロクに合わないモンツキ・ハカマを床にぶちまけた。弟に用意した正装だった。兄は彼を写真屋に連れて行き、二人で写真を撮った。兄は独りで満足していた。
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「ヤブハチ。俺とお前はな。この世で唯一の肉親だ。わかるな。兄弟は助け合わなきゃいけない。安心しろヤブハチ。世界はクソだが、俺はニンジャだ。なんでもできる。俺がお前を守る。だから、お前は俺に仕えろ。それが家族だ」アルビオンは呂律の怪しい兄の言葉を、冷ややかに聞いていた。
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「ほら、笑え。ヤブハチ。笑えよ。写真はずっと残るんだ」兄はアルビオンの背中をどやした。アルビオンは目を細め、歯を見せて、ニイーッと笑った。ひどい写真になったが、兄は満足していた。結局あの写真が遺品になったか。たいていのニンジャは死ねば爆発して消える。兄もそれに倣った。
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ヌノメがゲホゲホと咳き込み、世界が戻ってきた。アルビオンは微かに震えた。白い背中を指でなぞると、ヌノメは嗚咽した。「殺すところだったな」アルビオンは呟いた。「死ぬのは嫌か」泣きながらヌノメは首を振った。否定とも肯定ともつかなかった。是非など決めきれぬままに事態は動いてゆくものだ。
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コメント

monae @monae 2016年6月6日
ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト #1 http://togetter.com/li/974475 ライズ・アゲンスト・ザ・テンペスト #3 http://togetter.com/li/983924
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