杉江松恋氏による「ホームズ短篇についてのメモ」

杉江松恋氏いわく―― 「弘前読書会の『シャーロック・ホームズの冒険』レポート http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20160529/1464477623 が上げられる記念に、再読したホームズ短篇60作についての自分のメモをツイートの形で置いておこうと思います。ネタばらしなしなので、お手すきのときにでも読んでください。」 「ミステリーを読んでいて原点に帰りたくなったとき、何度でもホームズを読むといいと思います。原石のような形で技巧が埋め込まれており、それに学ぶと現代のミステリーがまた新鮮に見えてきます。読み継がれるのには意味があるのです。 https://twitter.com/from41tohomania/status/737097413928714241
72
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

48/60「三破風館」(事件簿)。老婦人の家にある何かを手にいれようとして家財道具を一式買い取ろうとする者が現れる、という謎の設定がおもしろい。解決は予想を上回るものではないが犯人像など目新しい点もある。犯人の行動が費用対効果の合わない、もしくは非合理的なものであるのは興を削ぐ。

2016-05-30 09:56:34
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

49/60「白面の兵士」(事件簿)。誤解に基づく差別表現があることで有名。それ以外の部分を見ると、「最後の挨拶」以降たびたび出てきた叙述形式の異なる作品で、ホームズが語り手となる。ワトスンの著述能力を認め、彼の手がかりの伏せ方におもしろさの秘密がある、などと語るのがおもしろい。

2016-05-30 10:05:25
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

今35/60となっている「ウィステリア荘」が実際は38/60だと気づきましたが、戻って修正しなおすのも面倒なので、このままいきます。次は50ではなくて53。

2016-05-30 10:13:26
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

53/60「ライオンのたてがみ」(事件簿)。山中峯太郎版では最終話。またホームズの語りで、衆人環視の密室といってもいい奇抜なトリックが使われている。一発ネタではあるのだが、ホームズがある偽の手がかりに騙されて間違いかける、といった回り道や、冤罪の問題などあって小説としては重厚。

2016-05-30 10:18:09
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

54/60「隠居した画材屋」(事件簿)。あるトリックが使われているが、それよりも目を引くのは犯人の異常性で、こうした犯罪者は過去のホームズ譚にはあまり出てこなかった。それはもしかすると19世紀小説あった物語に20世紀の要素が入ってきた結果なのかもしれない。あとワトスンがお気の毒。

2016-05-30 10:22:37
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

55/60「ヴェールの依頼人」(事件簿)。とある事件の関係者の、孤独な生きぶりに心をつかまれる。焼き直しが多いにも関わらずホームズ譚が読者を最後まで退屈させないのはこうした人間ドラマの魅力もあるからだ。過去の事件について、ある証言の矛盾から新たな選択肢が生まれてくるところがいい。

2016-05-30 10:26:18
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

56/60「ショスコム荘」(事件簿)。本当の意味での最終話。1927年の発表だった。『事件簿』自体がアンコール演奏みたいなものなので、特にフィナーレらしい部分はない。犯人の心性のうちに生命の尊厳を顧みない無感動さのようなものが現れており、過去の作品と比べても若干の違和を感じる。

2016-05-30 10:31:58
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

ホームズ短篇レビュー、以上で56作すべて終わりです。ツイートだったので遡って読むのが面倒くさかったかもしれません。そのうち残りの4作である長篇についても書きますが、いつになるかはわかりません。悪しからずご了承ください。まとめはそのうちやるつもりだけど、誰かやってくれると嬉しいな。

2016-05-30 10:33:33
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

弘前読書会でも言いましたが、ホームズ譚には連作形式の短篇ミステリーがどのように成長していったかという過程を読む魅力があります。一度使った手でも次に使うときには別の要素と組み合わせたりして新しい作品にしていく。そうした技芸が楽しめますし、隣接する作品同士の関係を考えるのもいい。

2016-05-30 10:43:51
杉江松恋@11/12秋季例大祭こ02b @from41tohomania

ミステリーを読んでいて原点に帰りたくなったとき、何度でもホームズを読むといいと思います。原石のような形で技巧が埋め込まれており、それに学ぶと現代のミステリーがまた新鮮に見えてきます。読み継がれるのには意味があるのです。

2016-05-30 10:44:52