【超越】

最悪の事態は起こりうる。常に対案を用意せよ
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

吹雪は問答無用で続けた。まるで白雪が苦悶の表情を浮かべているのを愉しんでいるかのようにも見えた。白雪はついに観念し、叫んだ 「本当に知らないの!途中までは調べていたけど、怪しいところはなかった!だから断念した!本当よ!」

2016-06-21 22:40:36
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

やがて吹雪は白雪を解放した。倒れ込み、鼻から血を流しながら苦しそうに咳き込む白雪に目もくれず、吹雪は身を翻す。白雪はなんとか意識を保ち、叫んだ 「今すぐやめなさい。こんなことをしてタダでは済まないわ…」「そんなことはわかってる。でもこれは必要なことだから」

2016-06-21 22:41:41
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「歴史を変えることの危険性を貴方はわかっていない!」 吹雪は無視して歩き出す。次の目的が決まったのだ 「いずれバタフライ・エフェクトが起こるわ。貴方の身勝手な行動が未来を悪い方向に向かわせるのよ!」 「大丈夫。未来はこれ以上悪くならない」

2016-06-21 22:43:46
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

この吹雪は、一体どんな未来から来たのか。気になるところではあるが、今はそんなことは気にしていられない 「この時代の吹雪ちゃんを返して。そして早く自分の時代に帰って!」 「帰るよ。目的を果たしたらね」 そう言い残し、吹雪の姿は消えた

2016-06-21 22:44:51
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「ん…」 濁った水のような匂いで、島風は目を覚ました。ここは何処だろう。確かめようとして島風は違和感を感じた。身体が動かない 「あれ…なにこれ…」 うっすらと視界が戻ってきた。手術台のようななにか。そこに島風は寝かされ、拘束されていたのだ

2016-06-21 22:48:30
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島風は身体を捩った。だが思うように動かなく、拘束も全く緩まない。深海棲艦に捕まったのだろうか。そういえば艦娘を捕まえて人体実験をするような危険な深海棲艦もいると聞いたことがある。意識を失う前の記憶がはっきりしないが、とにかくここにいてはまずい

2016-06-21 22:49:22
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「島風さん」 頭上から声が聞こえた。見上げるとそこには見知った顔が。萩風だ 「萩風ちゃん!貴方も捕まったの?」「違うわ。私が貴方を捕まえたの」「え?」 島風は身を乗り出そうとした。当然動くことは叶わなかったが

2016-06-21 22:50:03
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「どういうことなの、萩風ちゃん…」 「いきなりで驚きましたよね…でもごめんなさい」 萩風は島風の隣に座り、島風の顔を撫でた。「私は病気なんです」 「病気?どういう…」 「私の身体、変なんですよ」

2016-06-21 22:51:28
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萩風は服の袖を捲る。島風は目を丸くした。萩風の肌は真っ白だった。まるで深海棲艦のように。 「萩風ちゃん、これ…」 「驚いた?私の身体はどんどん劣化していってるの。もうだいぶ前から。止まらないのよ」 「それと私を捕まえるのと…どんな関係があるの」 島風は恐る恐る聞いた

2016-06-21 22:52:29
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「ここはね、捨てられた研究所なの。私はここで身体を治す薬を開発する」 萩風は棚に積んである箱の中から様々な書類と、注射器を取り出す。島風はゾッとした 「貴方には薬の実験台になってもらう」 血の気が引いていくのを感じた。まさか本当に人体実験をやらかしてくるとは!

2016-06-21 22:53:48
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「あなたを選んだのにはちゃんと理由があるんだよ。まず、丈夫な身体を持ってること。実験に耐えられるように」 彼女は自分のことをどこまで知っているのだろう。島風は今だけ、自身の身体のことを呪った 「あとは…あなたが孤立してるって噂を聞いたから。人知れずいなくなってもバレないように」

2016-06-21 22:55:50
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

その宛は外れたけど、と萩風は補足した。島風が仲間の輪から外れ、孤立していたのは過去の話である 「とにかく、あなたには私のために協力してもらうから。もう偽りの姿で周りを誤魔化したくないから」萩風の姿が見る見るうちに変化していく。服は朽ち、髪は白化し、冷たい瞳が島風を見下ろした

2016-06-21 22:56:53
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「私達、“友達”でしょ?」

2016-06-21 22:57:12
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瑠奈花は高雄に作戦の指揮を任せ、比叡を連れて横須賀へやってきた。理由は単純、留守番を任せていた白雪から連絡が入ったのだ。((吹雪は横須賀にいる))((よからぬことを考えている。あの子を止めてくれ))

2016-06-21 22:58:31
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「俄には信じ難いですよね」比叡が訝しむ。吹雪は第311大隊の控えメンバーとして作戦に参加し、フライトリバティーに搭乗していた それが、突如として宿毛湾に戻ったかと思えば、今度は横須賀に現れた。どう考えても不自然な軌跡としか言いようがない。

2016-06-21 22:59:07
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2人は公文書館を訪れた。白雪によれば、吹雪は何らかの情報を探っていたとのこと。横須賀に来て情報といえばその辺の酒場に屯している情報屋気取りか、この公文書館くらいのものだ。 「さあ、吹雪を探すぞ」2人は歩き出したが、すぐに止まった 「その必要はなさそうですね」

2016-06-21 23:00:46
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比叡が指差した先に、彼女はいた 「吹雪!」「司令官?」 瑠奈花はどこか見慣れた外套を羽織った吹雪に駆け寄った。ちょうど書館から出てくるところだった 「どうしてここに…」「それはこっちの台詞だぞ。こんなところで何をしている」「それは」 吹雪は後ずさった。何かを隠しているのだろうか

2016-06-21 23:02:46
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「本当に吹雪か?」「え?」「思い返せば、最近の君は様子がおかしい」 瑠奈花は吹雪に詰め寄る。「何かあったのか?」 吹雪は目を閉じ、俯いた。何を考えているのか、瑠奈花と比叡には推し量れなかったが、やがて吹雪は顔を上げ、2人を決断的に見つめた 「貴方たちに、伝えたいことが」

2016-06-21 23:03:25
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

瑠奈花と比叡は絶句した。吹雪の姿が少しずつ変わっていく。まるで成長しているかのように。背丈が、髪が伸び、そして、右目に大きな傷が現れる 「君はいったい…」「私は吹雪。未来から来た」 吹雪を名乗る少女は、警戒する瑠奈花と比叡に構わず、2人の肩に手を置いた 「見て欲しいものがある」

2016-06-21 23:04:02
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

次の瞬間、そこにいたはずの3人の姿は忽然と消えていた

2016-06-21 23:04:16
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

汚染された海。破壊し尽くされた軍港。無惨にも倒壊した、かつて横須賀鎮守府であったであろうモノの残骸。決して晴れない雲に覆われた空と、人類の領空を跋扈する深海の飛行機。その光景は、一種の地獄めいていた

2016-06-21 23:05:30
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「これが未来です。この世界は滅びに進んでいる。歴史が道を誤った」吹雪は淡々と言い放った。 「変えなければなりません。すべてを」

2016-06-21 23:05:56
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【交錯する禁断の糸】第2話-超越-終わり。第3話に続く

2016-06-21 23:07:20