【深海機巧戦】

戦争の犠牲になるのは真なる事実である
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

中部海域の海の底。陽の光も届かない海底に眠る巨大な建造物。その頂上に備え付けられたコントロールルームから、1人の黒衣の男がモニター越しに果てなき海底を見つめていた。

2016-11-21 23:01:34
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

男がいるコントロールルームは、真っ暗な空間の中に青白い光の線がそこかしこに走る、なんとも幻想的な空間であった。 「コマンダー」自動扉が開き、装甲服を着た男が入室する。彼は黒衣の男を指揮官と呼んだ。

2016-11-21 23:03:23
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「南米の拝神派はどうなった」「奴らの拠点を制圧し、幹部らしきネームド深海棲艦を捕らえました。拷問にかけましたが、有益な情報は持っていません。恐らく拝神派とは繋がりのない模倣犯かと」「そうか」黒衣の男は身動き一つせず報告を聞いた。

2016-11-21 23:05:25
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「奴の処分はいかがいたしましょう」「情報を持たぬなら用はない。カーボナイト冷凍して燃料にでもしておけ」「わかりました」 装甲服の男が去ると、入れ替わるように白衣を着た、研究者然とした男がやってきた。 「コマンダー。お呼びですか?」「待っていたぞ」

2016-11-21 23:07:14
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黒衣の男は部屋の中央に聳えるマザーコンピューターを起動し、設計図のホログラムを表示した。「浄化装置の進捗はどうだ」 「問題ありません」研究者が答える。「浄化装置は既に98%完成しております。残るは最終調整のみです」「うむ、よし」 黒衣の男はフードの下に満足げな笑みを浮かべた。

2016-11-21 23:08:11
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「懸念があるとすれば、動力です。あれ程の大規模な装置をフル稼働させるためのエネルギーを如何に確保するか」「それなら心配はない。いい燃料が手に入ったところだ」黒衣の男は腕に装着した端末を確認した。

2016-11-21 23:09:26
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「南米のエセ拝神派、それから南西海域で鹵獲した艦娘が四、五百。ディープマリーンズからそちらへ運ぶよう手配しておこう。冷凍装置の予算はこちらから出す」「ありがとうございます」研究者は礼を言うと、黒衣の男と共に大きく表示された、ハワイ島のホログラフを見上げた。

2016-11-21 23:10:47
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「神だか鬼だか知らんが、下らん化石の愛好家共が面倒なことをしてくれた。だが漸く、計画が本格的に進む時が来た。本件は予定通り進めよ」「…カイゼル卿の仰せのままに」一礼して研究者は去っていく。黒衣の暗黒卿は再び、窓から果てしない海底に視線を戻した。

2016-11-21 23:11:35
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ハワイ島。かつて星を喰らう鬼との戦いで汚染されたこの地が、突如復活を遂げた。あまりにも唐突すぎる復活だった。ことの次第を確かめるべく、元帥・門川龍興は旧知の友、瑠奈花率いる雪花艦隊をハワイに派遣した。

2016-11-21 23:13:31
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そして今、瑠奈花はハワイ島に臨時設営された本営を背に、ハワイ島から水平線を見渡していた。その正面には、美しい蒼海には似つかわしくない鋼鉄の円柱が一本鎮座していた。 「あれが、高雄達の言っていた海艇砦…。なんと巨大な」「わはー。実物を見ると凄まじいですなあ」

2016-11-21 23:14:16
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ハワイ島を威圧するかの如く、海艇砦の方角から向かい風が吹き荒ぶ。瑠奈花と共に立つのは、雪花が誇る三勇士、吹雪・大井・比叡。そして見慣れぬ桃髪のツインテール。 「ほんとにアレに侵入できるとお思いですかあ?」「できると思うから君を呼んだのだ、漣よ」「んな無茶な」

2016-11-21 23:16:35
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漣。初期の瑠奈花と共に第二次深海大戦を戦った艦娘にして天才ハッカー。漣は電脳世界で本領を発揮する艦娘だ。 ラバウルの戦いで伊168が持ち帰ったメモリー端末には、深界のネットワークにアクセスするキーが残されていた。これを有効利用するべく白羽の矢が立ったのが、漣であった。

2016-11-21 23:17:34
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「そりゃあハッキングには自信はあるし、まさか電子回路における0と1の集合体の中にあの不気味なバケモノがいるとは信じてませんけどねえ…」 バケモノ…とは、先日のハワイの戦いで顕現した星喰らいの鬼、深海星鬼。その威容は、すべての地上の生命を脅かした。

2016-11-21 23:18:14
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深海星鬼によって汚染された海と、その突然の復活。因果関係を感じても仕方のないことである。「嫌な予感しかしないでしょ!明らかに関連がありそうじゃん!地の文=サンだけだよ気にかけてくれるのは!」「地の…誰ですって?」吹雪は思わず尋ねた。「いや、なんでもないっす」

2016-11-21 23:19:44
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「うーん、現実とフィクションがごっちゃになってますね」比叡はあくまでも冷静だった。 「まあそれはともかく、大丈夫だよ漣ちゃん。深海星鬼は多分、関係ないはず」「むー…なんでそんなことわかるのさ、ふぶちん」「…感じるから」

2016-11-21 23:20:31
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「感じる?」「あの男の邪悪な気配。忘れもしない、背筋が凍るほどの、冷たい闇の感情。ですよね、司令官」「ああ…」 瑠奈花は吹雪の言葉に力強く頷いた。「深海軍の現総司令官。暗黒卿ダース・カイゼル。この裏には間違いなく奴がいる」

2016-11-21 23:21:57
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瑠奈花はライトセイバーを握り締めた。瑠奈花自身の手で新しく作り上げた、蒼い光刃の剣を。 「ちょうどいい機会だ。ここで奴を人類の前に引きずり出してやる」 瑠奈花はこの戦いに十分過ぎる程の意気込みを見せていた。フォースがあの暗黒卿の到来を告げているからだ。

2016-11-21 23:23:06
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「提督。ご無沙汰しておりました」白と赤の袴を着た女性が瑠奈花の後ろから声を掛けた。 「赤城か。この局面によく来てくれた」「当然です。私も雪花艦隊の一員なのですから」 赤城は軽く一礼すると、威風堂々聳え立つ海艇砦を仰いだ。

2016-11-21 23:23:45
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「作戦はもう決まっていますか?」「ええ、このおチビさんが決戦の狼煙よ」大井が漣の頭を乱暴に撫でた。 「変なプレッシャー与えないでくださいよもう」漣はデータパッドのホログラム液晶を操作しながらハワイ島に設置した本営に戻った。瑠奈花達の通信機から漣の溜息が聞こえてくる。

2016-11-21 23:24:49
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

「漣が海艇砦のシールドを切る。それが完了するまでは守りに徹するように。兵を配備しておけ」「了解!」吹雪以外の3人はそれぞれの持ち場へ散っていった。 「ラバウルの時とは違い、今回の相手は無人ではありません。恐らく向こうも、本隊の到着を待っています」

2016-11-21 23:25:32
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「そう、今は互いに動き出す時を待っている状態」 堅牢な防御性能を持つ海艇砦相手では、それを解除するまでは手が出せない。そして敵も、本隊の到着前に武装を浪費することは避けたい。戦うべき相手が目の前にいるにも関わらず互いに動けない、もどかしい状態が続いていた。

2016-11-21 23:25:54
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「今は待つのだ、吹雪。呉の提督曰く、果報は寝て待て、だ」「わかっています…が」 吹雪の表情には不安が現れている。「嫌な、というわけではないけど、なんだか変な予感がします。この戦いが終わったら、何かが変わってしまうような」「変わる、か…」

2016-11-21 23:27:17
雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ハワイ島の周りに、比叡達が率いる艦娘の軍団が結集し始めた。ラバウルでの報告を鑑みて、もしもの事態に備えて武器の類は隠している。 「変わる、或いは私が変えることになるかもしれん」「司令官が、ですか?」「吹雪よ、これはまたとないチャンスなのだ」

2016-11-21 23:27:59
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「禁忌を取り払い、深海の民との共存を謳っていながら、今の今まで大した変化はもたらせていない。常識を覆すというのは考えるまでもなく難しいのだ。だがこの戦いでもし、あの暗黒卿が姿を現すなら、深界の存在を白昼の下に晒す絶好の機会となる」

2016-11-21 23:29:16
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