本当に効く「免疫療法」の怖さ

免疫を動かす治療は未知の多い世界です。「生兵法はケガのもと」
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枇杷 @loquat_priest

オプジーボ(PD-1を特異的に阻害)とヤーボイ(CTLA-4を特異的に阻害)の併用とかいうのを見かけて、白目剥いてる。しつこいけどこれを再掲しておこう。twitter.com/loquat_priest/…

2016-07-16 18:48:16
枇杷 @loquat_priest

免疫について私たちがいま唯一正確に語れることは、「私たちはまだ免疫を自分たちに都合よく操れるほどには理解できてない」ってことですからな

2016-05-28 23:32:58

造血幹細胞移植の簡単な歴史と、免疫療法としての側面

枇杷 @loquat_priest

私たちヒトは、免疫を抑える治療については、ステロイドや各種の免疫抑制薬でそれなりの経験を持ってるけど、免疫を働かせる方の治療はごく限られた経験しか持ってない。その経験は主に、いわゆる骨髄移植(造血幹細胞移植)の歴史とともに蓄積されてきてる。

2016-07-16 19:04:28
枇杷 @loquat_priest

骨髄移植は当初、急性の放射線障害で血液をつくる力(造血能)を失ってしまった人に、造血を回復させる治療として行われた。このとき一時的に患者さんの救命に成功したことで、白血病などの難しい病気の治療として初期の骨髄移植が行われたが、これはほとんど成功しなかった。

2016-07-16 19:10:40
枇杷 @loquat_priest

その理由は、患者さんの免疫の働きで、提供者(ドナー)の細胞が攻撃されてしまい、造血の回復に至らなかったこと(拒絶)が主だった。運よく造血が回復(生着)しても、今度はドナーの免疫が患者さんの体を激しく攻撃する副作用(GVHD)が起こってしまい。当時はそれをコントロールできなかった。

2016-07-16 19:15:33
枇杷 @loquat_priest

骨髄移植が治療として成立するには、いわゆるヒトの白血球の「型」であるHLAを適合させることと、適切に免疫を抑えることが不可欠だった。 (Wikipedia「造血幹細胞移植」参照)

2016-07-16 19:21:23
枇杷 @loquat_priest

移植後の免疫反応であるGVHDを抑えるにあたって、最初はGVHDが出なければ出ないほどいいと考えられていたが、実はGVHDが出た方が移植の成績がいいことがわかった。免疫を抑えすぎると感染症を起こしやすくなることもあったが、GVHDが出た方が病気の再発が少なかったのだ。

2016-07-16 20:39:47
枇杷 @loquat_priest

これは、白血病などの腫瘍の細胞も「患者さんの体の一部」だったので、ドナーの免疫細胞が正常な細胞もろとも腫瘍細胞まで攻撃したためだとわかった。この効果をGVHDに対して「GVL効果」と呼ぶ

2016-07-16 20:44:04
枇杷 @loquat_priest

骨髄移植は、大量の抗がん剤と放射線で腫瘍を叩き殺すだけがその効果ではなくて、「他人の免疫によって腫瘍を攻撃する」という免疫療法の側面も持っている。もし、GVHDは起こさずにGVL効果だけを誘導することができれば。もっと移植の効果を高められるとみんな考えた。

2016-07-16 20:47:09
枇杷 @loquat_priest

残念なことに現在のところ、GVHDとGVL効果をうまく分離することは困難で、現在の移植の目標は「重症にならない程度に適度にGVHDを起こさせ、GVL効果も適度に引き出す」ように免疫の抑え方をうまく調節すること、になっている。

2016-07-16 20:49:40
枇杷 @loquat_priest

ここまでで何が言いたいかというと 『それなりの歴史を持つ「免疫療法」である骨髄移植でも、免疫を私たちの目的にかなうようにコントロールするのはとても難しくて、まだまだこれからの研究課題である』 ということ。

2016-07-16 20:58:28

免疫の仕組み全体にかかわるところを下手にいじると、こわいのです

枇杷 @loquat_priest

続けてお話を2つ。ここにまとめてもらった成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の治療として、唯一根治の可能性があるのがやっぱり移植。最近、この病気に対する新しい治療として抗CCR4抗体モガムリズマブ(以下、MOG)がある。togetter.com/li/922444

2016-07-16 21:03:30
枇杷 @loquat_priest

MOGの治療の標的となるCCR4は、ATLLの腫瘍細胞だけでなく、免疫の働きすぎを抑えるために重要な制御性T細胞(Treg)にもあって、MOGを投与した患者さんではTregがものすごく減って免疫がある意味「活性化」した状態になる。twitter.com/loquat_priest/…

2016-07-16 21:23:14
枇杷 @loquat_priest

さて話を進める前に、ちょこっとだけ免疫のお話。「制御性T細胞(Treg)」と「CCR4」という2つのキーワードを知らないと、なんのこっちゃ??になるので。まずこちらをお読みください。 制御性T細胞は何をつたえているのか osaka-u.ac.jp/ja/news/snapsh…

2016-01-25 23:07:54
枇杷 @loquat_priest

MOG治療の後で移植を行うと、急性GVHDが64%も起こって、そのおよそ半分が最重症となり、移植関連死亡が50%にも及んで、移植後1年の生存率が20%と惨憺たる成績だったことが最近報告された。BBMT 2016 May 21, ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27220263

2016-07-16 21:38:17
枇杷 @loquat_priest

「免疫が活性化」とか言うといいことのように聞こえるが、単純にブレーキを失った免疫の活性化はただの暴走で、私たちが経験を積み重ねてコントロールしてきたGVHDが制御不能となって、患者さんに牙を剥いて襲いかかるようになってしまったということ。

2016-07-16 21:43:29
枇杷 @loquat_priest

もうひとつのお話。Tregをブレーキと表現したが、CD28という分子をある抗体で刺激すると、アクセルを踏んだようにT細胞を強く活性化でき、動物実験で期待されていたところが、いざヒトに応用するところの最初で大事故が起きたことがあった。twitter.com/loquat_priest/…

2016-07-16 22:00:35
枇杷 @loquat_priest

実際に2006年、CD28アゴニスト抗体のPIで起こった事故(TGN1412事件)では、実薬を投与された被験者6人がサイトカインストームで全員ICU送りになった(第1報英文sciencemag.org/content/311/57…、日本語レビューyakuji.co.jp/entry5237.html)。

2015-01-27 11:45:19
枇杷 @loquat_priest

やや専門的な文章ながら、よくまとめられたこの事件の経緯についてのレビューがこちら。immunotox.org/immunotoxlette…

2016-07-16 22:03:07
枇杷 @loquat_priest

注目すべきは以下のくだり。 「今回の重篤な副作用の発生に関する原因調査によれば,投与量の誤り,処方または希釈の誤り,他の不純物の作用,前臨床試験の不備(アカゲザルとカニクイザルをモデル動物として使用)などの不適当な適用は無かったことが確認され,問題は見出されていない。」

2016-07-16 22:07:41
枇杷 @loquat_priest

この事故から、再発を防ぐために得るべき教訓はいくつかあったものの、「主な科学的手続きに問題がなくても、重い副作用を生じる可能性がある」という事実をこの種の医薬品の開発に携わる人々は突きつけられることになったということ。

2016-07-16 22:13:51

お伝えしたいこと

枇杷 @loquat_priest

この話を書き始めてから、オプジーボとヤーボイの併用そのものは安全に行い得るという指摘をいただきました(感謝)。それでも、枇杷はこの後のツイートで述べることはいくら強調してもしすぎることはないだろうと考えます。twitter.com/vc_neco/status…

2016-07-16 22:17:36
ねこまた見習い💙стою з україною💛 @vc_neco

@loquat_priest 悪性黒色腫(BRAF wild)ではCheckMate067試験でニボルマブとイピリムマブ併用群がニボルマブ単剤群とイピリムマブ単剤群どちらに対しても勝ってます。N Engl J Med 2015;373:23-34 肺癌はphase3中だったかと。

2016-07-16 20:10:38
枇杷 @loquat_priest

ひとつ表現の修正を。「オプジーボとヤーボイの併用は安全に行い得る」ですが、「得る」で留保のニュアンスをつけたつもりが「できる」に読み取れますので直します。「併用はある程度安全に行える可能性がある」に置き換えてお読みください。

2016-07-16 22:58:14
枇杷 @loquat_priest

私たちヒトは、免疫を積極的に働かせる、活性化するということについて、ごくわずかの経験しか持ち合わせていないし、ほんの少ししか理解していません。免疫のある部分を操作した結果いったい何が起こりうるのか、まだ誰にも正確に予測することはできません。

2016-07-16 22:23:07
枇杷 @loquat_priest

「免疫の活性化」がおそらく強力な武器だということには間違いありませんが、この武器は恐ろしい諸刃の剣になりうるものだし、厳重な監視のもと、細心の注意を払って使われるべきものです。

2016-07-16 22:25:10