☆丸山隆平【水面の月】

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蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

《丸山隆平》 【水面の月 1】 城下の湖にうつる月 本物と似ても似つかぬ だけど それでも月は月だ 決して 本物になれぬ 瞞しの月 偽物の月 水面の月 それは… まるで… pic.twitter.com/zCi5TkkGFt

2016-07-17 02:12:39
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【水面の月 2】 我が主 国王の命令にて またもや戦に赴く きっと 勝利をおさめ 戦利品として 新たな囲い者を 連れ帰るであろう 我が主の勝利の証 囲い者 その度に 奥方様のお心は傷つき 眠れぬ夜をお過ごしになる そして 俺の薬に頼るのだ 「眠らせておくれ」と…

2016-07-17 02:12:40
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【水面の月 3】 最初は軽く 眠りを誘うものであった だが次第に それでは眠りにつく事ができなくなり 眠りを誘うものから 深く眠れるものへ それでも我が主が お傍におられる時は 薬に頼らずとも 深くお眠りであった だが、それでも 奥方様のお心は 疲弊し壊れそうであった

2016-07-17 02:12:43
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【水面の月 4】 我が主が 城を留守にしたある夜 奥方様自ら 俺の元へ 足を運ばれた 眩しい光も 怪しい光も 射さぬ 俺の元へ そして奥方様はこうおっしゃった 「おまえのその唇で、その舌で、その手で、その指で、そして…おまえ自身で…私を慰めておくれ…」

2016-07-17 02:12:47
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【水面の月 5】 奥方様の命令 断れるわけなどない 『しかし…』 小さな抵抗を試みるが そんなものは無駄であった 「大丈夫…愛しい旦那様は戦へ…そして…また新しい女を連れ帰る…」 「決して私を蔑ろにはせぬが…旦那様のお心は他の女にむいておる」 肩を震わして声を殺して泣く

2016-07-17 02:12:50
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【水面の月 6】 俺の目の前にいるのは 愛しい男の心を独り占めできなくて 泣いている女… 『奥方様…私でよろしいのですか…?』 「そなたが…よい…の」 『かしこまりました』 泣いてる奥方様を抱き上げ 俺のベッドに下ろした 薬棚から桃色の薬を取り出す 「それは…?」

2016-07-17 02:12:54
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【水面の月 7】 『気持ちようなるのを、手伝う薬でございます』 「…」 『奥方様…大丈夫でございます お飲みください』 薬と水を渡した コクン… 迷う事無く飲みこんだ 「あっ…なんか…熱い…」 ご自分の頬に手をあてて 熱を感じてる 『そのまま…お体を楽になさって』

2016-07-17 02:13:48
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【水面の月 8】 『奥方様…』 後ろから抱きしめて 首に顔を埋めた 「あっ…あなた…」 するりとお召し物を脱がした 項が華奢な肩が露わになって そこに俺の舌を這わす 「んっ、やっ…あぁ」 ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ… 「あぁ…あなたぁ…」 『んっ、くっ…うっ…』

2016-07-17 02:13:54
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【水面の月 9】 髪を振り乱し 俺の腰に足を絡め 啼き喚く …お可哀想に こんなにも我が主の事を 恋焦がれて 愛しておられる 俺なら…傍において 片時も離したくない 「あ、あなた?」 『よい、何も言うな』 「…はい…あなた」 更に強く奥まで 気持ちようございますか?

2016-07-17 02:13:58
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【水面の月 10】 「…」 『…おやすみなさいませ』 俺の腕の中で 規則正しい寝息 可愛らしいお方 俺ならこのお方おひとりで 構わないのに 我が主は 何故あのように 何人も囲い者をお連れになるのか… 権力の象徴、か? 俺は柔らかい 奥方様の髪を梳く あぁ…欲しい…

2016-07-17 02:14:01
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【水面の月 11】 「…ん」 薬も切れて お目覚めになる ここにお出でになる時とは違って 物静かに恥じらい 多くを語らず 俺の顔も見ずに お着替えになる その佇まいは 悲しみにくれた ひとりの女ではない 戦場に赴く 主人の留守を守る 城主の妻 凛としておられる

2016-07-17 02:14:05
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【水面の月 12】 もう…触れる事もかなわぬ 俺を見下ろすその瞳に射貫かれて いっその事亡き者になってしまいたい 俺を楽にして欲しい 陽も射さぬ 風も通らぬ この閉された部屋から 連れ出してくれまいか 生きて出れなくても 構わまない 闇の者よ 俺と取り引きしまいか?

2016-07-17 02:14:11
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【水面の月 13】 跪く俺を見下ろしていた奥方様 膝を着きふわりと俺を抱きしめた 「いつも…ありがたく思うてます…」 「そなたのお陰で、私は狂わないでいられる…」 『奥方様…』 「…私だけなく…主君にもよう仕えてくれて」 「いつか…ここから…」 その後の言葉は聞こえなかった

2016-07-17 02:14:18
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【水面の月 14】 部屋に戻られる 奥方様の後ろ姿 ここにはいつもお一人で いらっしゃる いつまで…続くのだろうか 明日の事など誰にもわからぬ 『奥方様…』 こちらを振り向かず 立ち止まった 『お望みならば…』 「…いえ、それには及びません…」

2016-07-22 10:51:55
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【水面の月 15】 俺はいつまで 身代わりをつとめれば よいのですか? 薬棚から 青い粒の薬を取り出した いつか 使う事があるのだろうか 使うとしたら いつ?誰に? 己のために調合したはずが いつの間にか 他の誰かに…と あらぬ事を考えてしまう そして 橙の粒の薬

2016-07-22 10:52:00
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【水面の月 16】 これは偶然の産物 本当にその効き目があるか まだ試しておらぬが おそらく… 本当ならば 使わないでおきたい 2つの薬を薬棚にしまった そして、その薬棚に 厳重に鍵をかけた そうしなければ衝動にかられて いつか誰かに使ってしまいそうだからだ

2016-07-22 10:52:05
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【水面の月 17】 朝を迎えて 早馬に乗った使いの者が 我が主の勝利の知らせを持ってきた 国王陛下にご報告のあと こちらにお戻りとか 奥方様はお出迎えのご用意で しばらくは俺の部屋に お出でにならないだろう その方がよいのだと わかっているが 胸の奥がちくりと痛む…

2016-07-22 10:52:08
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【水面の月 18】 翌朝 我が主はお帰りになった 俺は遠くで 迎えの歓喜の声を聞く 囲い者と同じ 表に出て祝う事ができぬ それでも 祝いの酒と膳 運んできた年寄りが ぽろりとこぼす “此度の勝利、陛下は事の他お喜びで、御主人様を攻めいった領土の領主にとの事だ”

2016-07-22 10:52:12
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【水面の月 19】 『…!』 “ご準備が整い次第、新しいお城に移るってさ!” “あたしらはどうなるんかね…” ブツブツ喋りながら出て行った 新しい城に移る… 〔絶好の機会だな〕 頭の中でこだまする 何が絶好の機会なんだ? 〔そんなの、わかってるだろ〕 違う!違う!

2016-07-22 10:52:15
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【水面の月 20】 〔何が違うのだ?〕 俺は… 〔まだ…従うのか?こんな、扱いなのに?〕 俺に…何をしろと? 〔わかってるはずだ〕 やめろ…やめてくれ… 痛い…頭が… 〔くっくっくっ…〕 〔怯える事はない 我はお前の心の中にいる〕 〔隠しておる本当の心だ〕

2016-07-22 10:52:19
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【水面の月 21】 〔あの美しい奥方を自分のものにしたいのであろう?〕 …違う…助けて差し上げたいだけだ 〔躊躇う事はない〕 〔さぁ…〕 違う…違う… 俺は…奥方様がお望みなら 身代わりのままでも…よい… よい…? 本当によいのか? ならば、この胸の痛みはなんだ?

2016-07-22 10:52:22
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【水面の月 22】 この腹の底にある澱は? どす黒く蠢く欲望は? どうしても消えぬ あの方への想いはっ! ………誰も受け止めてはくれぬ ………所詮俺は1人きりなのか 誰か 俺を愛してくれ 悪事を働かぬように 全てを受け入れて 全てをミセテクレ 誰か 助けてくれ…

2016-07-22 10:52:25
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【水面の月 23】 目の前の膳にも手をつけず 薬棚から頭の痛みに効く薬を 取り出し飲んだ ベッドに横たわりながら 痛みが引くのをまつ その間も色んな思いが巡る 俺の望みとは何だ? 本当はどうしたいのだ? 繰り返される己への問い 出せぬ答えを思い巡らし 深い眠りに堕ちた

2016-07-22 10:52:29
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【水面の月 24】 薬と眠りのおかげで 頭の痛みはなくなった 眠ってる間に 年寄りが来たのであろう 膳と酒がなくなっていた 俺はどれだけ眠っていたのだろうか 少し揺らぐ体を起こした 今が昼なのか夜なのか 喉が渇いた 〔覚悟は決めたか?〕 また声が聞こえる

2016-07-29 00:52:55
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【水面の月 25】 奥方様が俺を身代わりに求めるようになって 俺の頭の中の声が頻繁に囁くようになった いつの頃からこの城の 地下の部屋に住み 我が主の望む薬を調合していたのか まるで思い出せない だが それでも 何一つ不思議に思わなかった それが 俺の運命なのだと

2016-07-29 00:52:59