☆丸山隆平【水面の月】

1
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 26】 でも記憶の底にいる子供の俺は まだ今よりマシで 森の奥の小屋で 老夫婦とともに 隠れるように生きてた 曖昧で途切れ途切れの記憶 俺の母親は?父親は? 思い出してはいけない気がする 何故だか… ぼんやりと思い巡らしていたら 足音が聞こえた…我が主の…

2016-07-29 00:53:02
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 27】 〈祝杯だ、我が友よ〉 酔ってかなり上機嫌なご様子 俺は跪いて 『此度の勝利、おめでとうございます』 と、うやうやしく頭を下げた 〈祝ってくれ〉 と、俺にグラスを渡し、酒を注ぐ 『畏れ多い事にございます』 〈うむ、今日は機嫌がよいのだ〉

2016-07-29 00:53:06
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 28】 そう言って グラスを軽くぶつける 『いただきます…』 ごくごくと喉を鳴らして グラスの酒を飲みほす主 俺はひとくち こくりと飲んだ 〈ところで、〉 『はい』 〈苦しまず眠るように逝ける薬はできるか?〉 どきりと胸が鳴る 『それは…』 〈無理か?〉

2016-07-29 00:53:08
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 29】 『それは…調合してみないと…』 〈うむ、そうか〉 〈ならば、早速とりかかってくれ〉 『はい…』 〈あっ、今日はよいぞ そなたも祝ってくれ〉 〈存分に食べて飲め〉 年寄りが料理を運んできた 〈邪魔したな〉 『いえ…』 くるりと踵をかえされた

2016-07-29 00:53:12
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 30】 我が主が部屋をお出になられたのを 確認してから薬棚の鍵を開けた 我が主さま… お望みの薬は 実はもうここにあるんです… あなたさまが お望みになられる前に すでに調合済みなんです あなたさまは どなたに何のために お使いになられるおつもりですか?

2016-07-29 00:53:15
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 31】 あなたさまの 胸の奥の野望のためですか? 邪魔な者を始末するためですか? 誰が邪魔者なんですか? 〔おまえが邪魔者だったら?〕 また…声がする… 俺が邪魔者? まさか! 我が主には俺は必要なはずだ 邪魔なわけない 〔本当にそうか?〕

2016-07-29 00:53:19
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 32】 頭の中の声は 俺の不安を煽る 〔ほら躊躇う事などないではないか〕 〔知られたんだよ、奥方との事が!〕 えっ…? 〔だから邪魔なんだ、お前が〕 知られた…? いや、そんな事はあるまい 〔奥方も殺されるかもな〕 いやっ、そんな… 頭を何度も振った

2016-07-29 00:53:22
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 33】 微かな疑念が湧き上がる いや、知られたとしても 我が主は奥方様は殺しはしないだろう たとえ俺は殺しても ……とりあえず 目の前の膳に手をのばした 何にせよ 食べて 何があっても 動じない心と体が必要だ そのためにも しっかり食べておかないと…

2016-07-29 13:02:21
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 34】 どうすればよいのか 決まらないまま 数日が過ぎた 我が主が新しい城に 移る日が近づいてる おそらくその前に 我が主が部屋に来る 鍵のかかった薬棚 あそこにお望みのものが 遠くから足音が聞こえる 自信に満ちた 勇猛果敢な武将の足音 我が主の足音だ

2016-07-29 13:02:24
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 35】 跪いてお出迎えする 〈邪魔するぞ〉 〈頼んでおいた薬の進み具合はどうだ?〉 『今、少し…』 〈そうか〉 〈明日、ここを出発して新しい城に向かう〉 『はい』 〈時をずらして、今日の夕闇に紛れて、そなたも出発せい〉 〈後ほど共の者が来る 用意しておくように〉

2016-07-29 13:02:26
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 36】 『はい…かしこまりました』 〈…私から…離れるでないぞ〉 足音を立てて 我が主は部屋を後にした 新しい城に 俺の居場所はあるのか? また 陽も当たらぬ 風も通らぬ 地下に隠れ住むのか 解き放ってはくれないのか …いや 離れては奥方様に 会えなくなる

2016-07-29 13:02:29
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 37】 〈私の飼ってる鳥の中で、唯一無二の鳥〉 〈そして1番危険な鳥〉 〈いつか籠を壊して、私の寝首をかきに来るかもしれぬ〉 〈…それでも手放す事ができぬ〉 〈かの鳥の命を止める事も、空に放す事も…〉 〈新しい城でも鳥籠に閉じ込めておきたい〉 〈私の鳥よ…離れるな〉

2016-07-29 13:02:33
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 38】 我が主の仰せのとおり 夕闇に紛れて 新しい城へ やはり そこでも 地下の部屋 見えない鎖に繋がれてる 久しぶりに 外の空気に触れたせいか 俺の何かがズレた …出たい 別の者になって 静かに暮らしたい 奥方様をさらい 2人で生きてゆきたい 叶わぬ願い

2016-07-29 13:02:36
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 39】 それは叶わぬ願い ならば自らこの命を絶ってしまうか 青い粒 我が主が望んでる 眠るように逝ける薬 これを飲んでしまえば 全てを終える事ができる 〔飲むのか?〕 〔自らおわらせるのか?〕 嫌だ… 俺だって人らしく 生きてみたい 〔ならば…〕

2016-07-29 13:02:39
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 40】 闇が訪れのを待ち 我が主の私室へ 狭い廊下を通る その廊下は俺の部屋と 我が主の私室を繋ぐ 俺と我が主と奥方様しか 知らない廊下 その部屋で我が主を待つ 私室に繋がる寝室では 奥方様の啼き声が響いている 今宵は身代わりはいらないようだ 心の蔵が早い

2016-07-29 13:02:42
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 41】 私室から漏れる灯りに 気づいたのか 素肌に羽織物だけで 現れた我が主 〈このような時間に…何故?〉 『恐れ多くもお望みのお薬が出来上がりましたのでお持ちしました』 〈おぉ!〉 『こちらにございます』 俺は青い粒を差し出した ごくん、と喉がなった

2016-07-29 13:02:45
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 42】 『今回は少々苦労いたしました』 『ご主人様…私を労ってはいただけますか?』 〈おぉ、それはもちろんである 褒美は何がよいか?〉 『いりませぬ…何も…ただ…』 〈ただ?〉 『一緒に祝杯を…』 〈そんな事か!構わぬぞ〉 『ありがとうございます』

2016-07-29 13:02:49
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 43】 『では今お持ちしますので…』 俺は用意していた酒を グラスについだ 『新しい城に、新しい領土に、そしてご主人様にさらなる栄光と繁栄を!』 恐れ多くも我が主と乾杯した …なんの疑いのなく飲み干される我が主 大丈夫ですよ なんのお苦しみもなく逝けますよ

2016-07-29 13:03:25
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 44】 〈くっ…〉 小さく声を漏らして お倒れになった その美しい彫刻のようなお体 俺が地下の部屋に隠して差し上げます 誰にもみつからないように そこで朽ち果ててくださいませ まだ温かさが残るお体を 背負い俺の部屋へ ひんやりと冷たいベッドに寝かした

2016-07-29 13:03:32
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 45】 …おやすみなさい 俺は部屋の扉を閉めた

2016-07-29 13:03:43
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 46】 廊下を通り 私室に戻り 寝室に向かった そこには 安らかな寝息で お眠りになられてる奥方様 俺は跨り 橙の粒を口に含み 奥方様にキスをする 橙の粒が奥方様の喉を通って 飲み込まれるように 「うっ、」 お目が覚めてしまったようだ… 「かっ、うぅ…」

2016-07-29 13:03:51
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 47】 「だ、誰?」 「あっ…」 『奥方様…俺です』 「な、何を、飲ませたの?あの人はどこ?」 怯えた目で俺を見ないでください 『大丈夫です…我が主はお苦しみにはならずに逝かれました』 「えっ?」 奥方様の首筋に顔を埋めた 「あっ、何を…」 奥方様が

2016-07-29 13:03:58
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 48】 口をぱくぱくさせてる こんなに早く効くとは… 『申し訳ございません お声が出なくなるお薬を飲んでいただきました』 「(……)」 『あなた様の啼き声が聞けなくなるのは寂しいですが、仕方の無い事でございました』 『お傍にいていただくのに、お声は不必要かと…』

2016-07-29 13:04:04
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 49】 『ご心配なく…』 『あとは俺が万事うまく務めます』 「(………)」 被り物に隠されてた顔… 奥方様を見つめる冷たい瞳… それは我が主と同じ顔、同じ瞳 奥方様 あなたがお喋りにならなければよいのですよ… pic.twitter.com/sOM7DwOqKK

2016-07-29 13:04:28
拡大
蒼いの∞妄想部屋(月の間) @daikyury

【水面の月 50】 俺は欲しい物を手に入れた 怖いものなど何もない これからは俺が我が主となって生きてゆく もう誰も俺を止める事はならぬ さぁ、宴の始まりだ pic.twitter.com/KjHNA3yE8f

2016-07-29 13:04:30
拡大