【R18G】怪我をした妖精さんを拾ったよ【絵付SS】
【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 026】 ついでではないけれど、妖精さんの、全身の包帯も交換して消毒をやり直す。顔をしかめながら、妖精さんは痛みに耐えていたけれど、傷口に貼り付いたガーゼを剥がす時と、折れた腕の添え木を括りつけ直すときに、妖精さんは小さなうめき声を洩らした。
2016-08-14 00:31:17【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 027】 冷えてしまったスープを、温め直さないままに妖精さんに渡すと、今度こそ彼女は落とさないようにしっかりミルクピッチャーを握り、ゆっくりとスープを飲み干した。 それを見届けて、僕は自分の食事に取り掛かる。僕の食事もすっかり冷えていたけれど。
2016-08-14 00:33:35【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 028】 僕が食事を終える頃には、妖精さんはすっかり寝息を立てていた。布団代わりのタオルハンカチを肩にかけてやって、僕は少し思案した後に、こっそりと買い物にでかけた。 -----*-----*-----*-----
2016-08-14 00:34:59【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 029】 少し長引いてしまった買い物から帰ると、既に妖精さんは目を覚ましていた。心細くて僕を探したのかもしれない、ハンカチを体に巻きつけて、タオルの上から降りて、ベッドシーツの上にちょこんと座っていた。僕の顔を見た途端、心底安堵した顔になる。
2016-08-14 00:37:07【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 030】 買ってきたのは、切らしていたお米と、妖精さんのための果物と野菜、それと―― 「お土産だよ」 言葉がわからないのか、僕が差し出した小さな紙袋に、妖精さんは困った顔で首を傾げる。 袋から中身を取り出すと、妖精さんの顔が驚きに染まった。
2016-08-14 00:38:48【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 031】 ギンガムチェックの小さなワンピース。ドール用に売られているものだ。首の後ろで紐を結ぶものだから腕の傷にも触らないし、背中が大きく空いているから翅を痛めることもないだろう。 遠慮するような、困ったような顔の妖精さんを、急かして立たせる。
2016-08-14 00:40:59【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 032】 「アリガ、ト……」 彼女の瞳の色と似た色のワンピースは、実に良く似合っていた。 妖精さんは照れくそうなしぐさで、初めての笑顔を見せてくれた。 pic.twitter.com/WdvZGZ5Vgg
2016-08-14 00:43:15【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 033】 それから少し時間がたって…、妖精さんの傷は少しずつ癒えてきた。傷跡は残ってしまったけれど、頬や胸元の傷は、ガーゼを外しても大丈夫なくらいになった。 ただ、もう右目は光を映すことはないだろうし、左腕の傷は一向に良くならなかった。
2016-08-15 23:22:41【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 034】 妖精さんは少しずつ笑うことが増えてきた。言葉がしっかり通じるわけじゃないから、喋ることは出来なかったけれど、単語をつなぎ合わせた、中学生の英語の時間みたいな会話で、僕たちは少しずつ理解しあえてきたと思う。
2016-08-15 23:25:47【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 036】 ――最後に右目が映したのは、銀色の光だった。 頬を斬りつけられて、その痛みで眠りから強制的に覚まされて、私は跳ね起きた。慌てて頬を抑えた手の隙間から流れ出した血が、私の腕を伝って滴ってあたりを汚していた。おかあさんの泣き声がする。
2016-08-15 23:28:56【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 037】 顔を上げたら、知らないおじさんがナイフを握っているのが見えた。どうして、私の家に…。ナイフの先端には血がついていた。 私は家を飛び出した。 家の外には、泣きじゃくるおかあさんがいた。慌てて私は、おかあさんに逃げようって言った。
2016-08-15 23:31:11【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 038】 おかあさんは動いた。逃げるためじゃなくて、その手に持ったけんをわたしにむけるために。 どうして。 おかあさんのなみだと、刃物が、つきのひかりでぎんいろにひかって。 みぎめがあつくなって、めのまえがまっくらになった。
2016-08-15 23:33:25【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 037】 いきがきれる。わたしははしっていた。 むらのひとたちがおいかけてくる。ナイフやいしをもって。 だれかにきりつけられて、はねはずたずたで、もうとべない。 きのぼうでなぐられたうでがあつい。 ひっしにはしった。はしった。はしった…――
2016-08-15 23:35:11【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 041】 夜中に、突然の悲鳴で目を覚ます。慌てて、妖精さんのタオルで出来たベッドを見る。妖精さんが体を起こしているのが、影でわかった。 「どうしたの?」 声をかけても返事はない。不安になって、僕は枕もとの明かりをつけた。
2016-08-15 23:37:44【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 042】 妖精さんはガタガタと震えていた。涙でいっぱいになった目はゆらゆらとゆらめいて、焦点が合っていない。 声をかけても届かなくて、僕はただ、妖精さんの小さな手を握ることしかできなかった。 pic.twitter.com/JjY4YvkHzE
2016-08-15 23:39:41【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 043】 僕は妖精さんの為に、出来ることをたくさんした。 服も買い揃えたし、妖精さんの傷を治せるように、健康的な料理を作る勉強もしたし、医学書も新たに読んだ。 妖精さんを楽しませるためのことも色々と試みてみた。 ――だけど、彼女の左手は…もう…
2016-08-15 23:43:01【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 044】 傷跡は丸く穴が空いて、ぽっかりと口を開けた傷口から、絶えず膿が溢れだしていた。骨の状態はわからない。腕はひどい色になっていびつに腫れあがり、骨がまっすぐになっているのかどうかもわからないからだ。 とにかく尋常じゃなく悪化していた。
2016-08-15 23:45:37【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 045】 消毒のたびに、妖精さんは苦痛に呻き、涙を流していた。…こんなふうに消毒液を浸した脱脂綿で傷口に触れることにどれだけ意味があるのか。妖精さんの苦しみを、ただ長引かせているだけじゃないのか? pic.twitter.com/Lp72YKKu98
2016-08-15 23:48:29【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 046】 迷い、正解であろう答えを打ち消して、僕は逃げていた。 けど、もう、迷っていられる時間は残されていない。炎症からか、彼女は高熱を出すようになった。 ――左腕を切断する。 妖精さんを生かすためには、もう、それしか方法は残っていなかった。
2016-08-15 23:51:07【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 047】 僕だけじゃくて妖精さんもちゃんとわかってるのだろう。 もう誤魔化せる時間は終わったんだ。残酷でも、この選択肢を選ばなかったら、最悪な結末を迎えてしまう。 でも、言葉が伝わらない相手に、腕を切断する、…なんて、どう伝えたらいいのだろう?
2016-08-17 00:24:10【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 048】 ただなぜか、妖精さんには伝わっていたみたいだった。僕がトレイに道具を揃えている間に、しっかりと覚悟を固めていたみたいだった。 さっきまで着ていたワンピースを脱いで、拾って間もなくの時みたいに、全裸にタオルを巻きつけて待っていた。
2016-08-17 00:26:28【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 049】 用具を置いたトレーを妖精さんの脇に置く。妖精さんの白い肩が震える。カチリと刃物のぶつかる音がする。 消毒用品と、使い捨てメス、はんだごて。 ――腕を切り落として、傷口を焼いて止血する。 自分がこれからすることの残酷さに目眩がした。
2016-08-17 00:29:15【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 050】 妖精さんを安心してやりたくて、指先で頭を撫でる。見上げてきた妖精さんの目には涙が溜まっていた。指先に震えが伝わる。安心してほしい、なんて無理な話なんだ。 それよりも、早く終わらせたほうが、いっそ妖精さんのためになるんだろう。
2016-08-17 00:31:32【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 051】 僕は思い切ってメスを取った。 妖精さんが目を閉じる。目の縁に溜まっていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。 僕は、妖精さんの腕を取って押さえつけて、そこにメスを思い切り押し当てた。 妖精さんが、止めた息を強く漏らすような悲鳴を上げた。
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