【R18G】怪我をした妖精さんを拾ったよ【絵付SS】

龍のな@動物保護チャリティ作品集主催 @ry_nona

【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 076】 少しでも妖精さんのつらい気持ちを、別の感情に置き換えて欲しくて、僕は毎日甘いものを作った。そればっかりだけど…、他にできることが何があるのか僕にはわからなかったし、「甘いものを食べると辛い気持ちが和らぐ」って言葉もどこかで聞いたから。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 077】 何度かの失敗のあとに初めて上手に焼けたケーキを、妖精さんの目の前で盛り付けたとき、妖精さんは期待を隠せない表情でじっと見ていたし、完成したケーキに嬉しそうに笑ってくれたから。 と、そんなことを毎日繰り返していた。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 078】 夜になると暗い顔になってた妖精さんは、甘いものを食べて笑った日は、ほんの少しだけ窓の外の夕闇を気にする時間を減らしてくれた。うなされない日も増えてきた。 そんな毎日に、少しずつ傷が癒やす手伝いができてるんじゃないかと思えば嬉しかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 079】 そんなふうにやっと妖精さんは笑顔を取り戻してくれていたのに…、…やっぱり僕は馬鹿だったんだ。 妖精さんの表情にばかり気を取られていた。 妖精さんが身体の苦痛を隠してることに、気づいてやれなかったんだ―――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 080】 ――ニンゲンさんが私に甘い食べ物をたくさんくれる。私を喜ばせようとしてくれるのわかる。 だから、辛い顔はしたくない。素直に嬉しいって言いたいし、笑いたい。 だから、背中なんて痛くない…。 pic.twitter.com/Yxk99QKlkH

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 081】 痛くない、痛くないから、笑えるよ。大丈夫。 だけど… もしも、この痛みがバレたら。 私がおばさんにしたみたいに、ニンゲンさんも、私のことを殺すのかもしれない―――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 081】 ―――…僕はやっと気付いたんだ。僕に笑顔を見せて喜んでいる妖精さんが、僕が目を離した瞬間、密やかに苦痛に顔を歪めていたこと。それを一生懸命隠していたこと。 どうしてこれまで気付かなかったんだろう。こっそりと、背中を庇っていることに。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 082】 問い詰めても、妖精さんはなんでもないフリをするだろうから、僕は気付いてないフリを装った。そうやって妖精さんの様子をこっそりとうかがった。 苦痛を隠すのが難しくなっていたのか、すぐに痛がる場所はわかったんだ。 背中…いや、羽根だ…と。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 083】 羽根をよく見れば、怪我で裂けただけではなく、その傷口が広がっているようだった。先端には、ぱっと見ではわからないけれど、ポツポツと小さな穴が空いている。虫食いのような、もしくは焦げて溶けたかのような、縁の黒ずんだ穴が…。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 084】 ゆっくりと、妖精さんに、身体の不調を問う。 妖精さんは、すぐにぼろぼろ泣き出して、まるで拒むように僕の手を押しのけた。 その指先には薄く黒ずんだ染みがあったことを、僕は見逃さなかった。 pic.twitter.com/mnZYCYChmM

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 085】 ――― バレちゃった。ニンゲンさんにバレちゃった…。私のビョウキ。おばさんと同じビョウキ。羽根が溶けるビョウキ。 このビョウキになったらころさなきゃならない ビョウキの人をかばったほかの村の人、みんなおなじビョウキで死んじゃったから。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 086】 だからビョウキがわかったら、殺さなきゃならない。 みんなで殺して、なきがらを燃やして埋める。このビョウキは、神様に怒られた印だから治らないから。神様に怒られた人をかばったら、みんなにバチが当たって、みんなおなじビョウキになるんだって。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 087】 殺して燃やして、そうやって神様にごめんなさいすれば、神様は許してくれるんだって。 ビョウキのひとも、それで許してもらえて、天国に行けるんだって…。 …ニンゲンさん、隠しててごめんなさい。ごめんなさい。でも楽しかったです…。 ―――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 088】 僕達の間には毎日の習慣が増えた。 妖精さんの服を交換する時に、ついでに肌と羽根のシミをチェックする。 シミが広がるのを防げないかなと、消毒をしているけれど…。今のところ、消毒の成果は上がっている気がしなかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 089】 身体の末端や傷跡の周辺から皮膚が黒ずんで行く、ようだ。黒いシミの出来た部分はどうやら痛みがある。羽根の先端は黒ずんで、溶けたようになっている―― 医学書のページを必死に繰っても、でも素人である僕には正体がつかめなかった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 090】 人間に存在する病気と同じならば、治療法はなんとかなるかもしれない。 ただ、羽根にも症状が出ているから、妖精さんにしかならない病気かもしれない。人間の間では未知の病気かもしれない。 なんにしろ僕は病気に関しては素人だから判断がつかない。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 091】 せめて病院に行くことが出来たら…でも…。 無力感に苛まれながら、黒いシミを消毒するための用意をしていたら、僕の手に妖精さんの指が触れて、僕は動きを止めた。 その指は黒ずんでいて冷たい。シミの出来た部分は血の巡りが悪いのか冷たくなる。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 092】 シミのせいで痛むであろう指先を僕に触れさせながらも、妖精さんは小さく微笑んでいた。 「…ゴメンナサイ、アリガト…」 どうして謝るの。どうしてお礼なんて言うんだ。 pic.twitter.com/GkcSwrlCmF

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 093】 どうするべきなのか本当にわからなかった。 指先は黒い。胸元や腕の傷口の周辺も黒ずんでいた。明らかにここ数日でそのシミは広がっている。僕にはシミの正体がわからないけど、放置していいものであるはずもない。 ……僕は、どうしたらいい？――

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 094】 医者に診せることができたら、妖精さんを助けられるかもしれない。 医者に診せたら、あっけないくらいにすんなり治るものだったりするかもしれない。 でも。 妖精はこの世界では生きていてはいけない。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 095】 人知れず生きてきた、妖精という存在は、山を切り開き自然を開発していく過程で見つかった。 そして色んな人が色んな話をした。 慰謝や学者、環境保護や生物保護、人権保護などの団体の人。 その結果、妖精は見つけ次第施設に送られることになった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 096】 その施設は研究施設。 この世界では、人間以外の知的な生き物は存在してはいけないことに決まった。 人間とほぼ同じ身体の作りをしていて、人権のない存在。これほど実験動物に適した生き物がいるだろうか？ それが世界の共通のルールに決まった。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 097】 新開発の薬も、人間相手に大丈夫かどうか試さなくていい。サイズ以外の身体的な条件はほぼ同じ、妖精という存在がいるから。 それどころか、どれだけ非道な実験でも、妖精相手ならば誰も咎めないのだ。 生きたまま腹を切り裂いてもいい。妖精だから。

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 098】 医学ドキュメンタリー番組で、新開発の薬を試された上、身体への反応を見るために脳を開かれた妖精の映像を見たことがある。 番組解説のアナウンサーは、人間のこれからのための実験だと繰り返した。 pic.twitter.com/Iyu2iDJ9bz

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【 #怪我をした妖精さんを拾ったよ 099】 無理やり繁殖させられることを繰り返し、安定して供給されるようになった妖精さんたちは、人間社会のために非道な扱いを受けている。今も。人間のため、そのために生み出されて消費される命。 それが…妖精さんたちだ。