女騎士・イン・デスレース#2 どこまでも続くレース◆2（終）
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減衰世界
@decay_world
＿蒸気車が唸りをあげて倒木を動かそうとする。どかさなければレースを続けることはできない。他の車は別の道を通っただろうか。 いや、道端にはすでに誰かが倒木をどかした痕跡が見える。先人も同じ困難にあったらしい。負けてはいられない。激しく叩きつける雨音で車内が騒がしくなる。 41
2016-09-04 18:54:05
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＿ゆっくりとアクセルを踏み、次第に引っ張る力を強めていく。しかし……。 「だ、ダメだっ」 セリマの取り乱した声。タイヤがぎゅるぎゅると空転する。ここは未舗装で、大雨によってぬかるんでいたのだ。倒木は動かない。モーラは目を閉じて考える。 （どうする……） 42
2016-09-04 18:58:37
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＿モーラは考える。 （みな全力で走っている……誰もが道の途中） 「倒木を持ち上げれば……」 できない注文だ。たくさんの魔法が選択肢として上がる。火球の呪文……は雨で使えない。筋力強化の呪文は？ 小柄なモーラは下敷きになってしまう危険性がある。 （本当にできない？） 43
2016-09-04 19:08:21
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＿火花がモーラの目の奥で散る！ 「成長の呪文だ！」 「何を成長させるんだ……？」 「ここは未舗装だから植物が成長できるんです。草木の芽の伸びる力は強いんです！ 草の芽に倒木を持ち上げてもらうんです！」 「よし……やってみるか！」 44
2016-09-04 19:11:58
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＿セリマの声に明るさが戻る。モーラは成長の呪文をセットする。スキュラを絡めとったときの様にうまくいくか心配もある。魔法のストックは残り少ない。元々大量に使う魔法でもなく、僅かに残っていた程度だ。 （それでも、今はわたしの力になってくれる……） 45
2016-09-04 19:15:20
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＿ゆっくりと、優雅な思考で魔法を構築する。 （焦り、不安、緊張……それらをねじ伏せるのは、いつだって集中力なんだ。いつものようにやればいい。それ……） 「伸びろ！」 掛け声とともに、道の上にあった草の種が芽吹く！ 46
2016-09-04 19:18:28
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＿森の小道には草の種が無数に存在している。それらは芽吹くことなくすり減るか、もし運よく発芽しても踏みしだかれて消えていくのが運命だ。けれども、今この瞬間は違っていた。 ゆっくりと、だが着実に、道の少ない栄養を吸収して草の種が倒木を持ち上げる！ 「やった……動いた！」 47
2016-09-04 19:22:08
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「急ぐぞ！」 倒木をどかし、二人はゴールへと向かい、無事完走することができた。順位的には芳しくなかったが、それでも二人の間には満足感があった。 「ところで……なんであなたたちが優勝しているのですか」 雨上がりの表彰台に立つのは、ザリガニ騎士団の三人の猛士！ 48
2016-09-04 19:26:23
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「グハハハ、大勝利だ」 「あんたたち、どうやって首位でゴールしたの」 「倒木あった。3人で頑張ってどかした。筋力で解決ダ」 腰を抜かすモーラ。 （ああ、それもいいな……） 誰もが道の途中。それぞれのやり方で進んでいる。 49
2016-09-04 19:32:19
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＿優勝カップを掲げる三人の猛士を見上げながら、モーラは目を細めた。彼らの頭上には、雨雲が去った後の、抜けるような青空が広がっていた。 50
2016-09-04 19:39:08
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【用語解説】 【交易路の舗装】 帝都は資源の乏しい土地である。灰土地域各地からの輸入に依存しているため、交易路の整備には心血を注いでいた。帝都―ニェス―ナィレン―火焔気球間の街道はセラミックプレートで舗装され、脇には大陸鉄道が並走する。交易路には宿場町がいくつも作られている
2016-09-04 19:43:31
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【次回予告】 旅客飛行船の墜落。失踪した音楽家の謎。青年は、山奥でぞっとするほどの美しい旋律を聞く……。4年前公開の物語を加筆修正しました 次回「遺失名工楽器」 全30ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-09-04 19:51:11