女騎士・イン・デスレース#1 地を駆ける蒸気車◆1

高額賞金を求めて、二人の女騎士が蒸気車レースに挑む! 大陸を横断し、砂漠、荒野、川辺、そして密林を行く! そして、二人はかけがえのない何かを手に入れる……はず! 全50ツイート予定 最初↓ 続きを読む
1
減衰世界 @decay_world

_女騎士・イン・デスレース#1 地を駆ける蒸気車◆1

2016-08-31 19:28:25
減衰世界 @decay_world

_蒸気車が森の小道を疾走する。砂利道のせいで車の中は猛烈に揺れていた。女騎士のモーラは車の助手席でびくびく怯えている。 「あのう……セリマさん、少し速度を落とした方が……」  運転席には、やはり女騎士で長身のセリマ。 「なに言ってんの、レースなのよ、競争なの!」 1

2016-08-31 19:34:54
減衰世界 @decay_world

_そう、彼女たちは蒸気車レースの真っ最中だった。灰土地域を横断する過酷なレース。東の果て砂漠からスタートする。ゴールは聖河の南側、灰土地域南部森林地帯。  そう、いまレースは終盤に差し掛かろうとしていた。嵐のように蒸気車が駆け抜け、極彩色の鳥が逃げていく。 2

2016-08-31 19:39:34
減衰世界 @decay_world

_体格のいい女騎士セリマと、背が低くシートに座るとアクセルに足が届かない女騎士モーラ。二人はこの過酷なレースに飛び込んだ走者の一組だ。 「アクシデントたくさんあったけど、無事にゴールできそうですね。何位なんだろうなぁ……」 「オッ!」  血走った眼を剥くセリマ! 3

2016-08-31 19:44:35
減衰世界 @decay_world

_一匹のイノシシ……グレイボアが森の道を塞いでいる! 「ぎゃあああ! ブレーキ!ブレーキです!」 「止まれるか! 勝負だ! イノシシ!」 「ええーっ!?」  蒸気車はそのままイノシシを跳ね飛ばす! へこむフロント! バランスを崩し蛇行する蒸気車! 「アアアーッ!」 4

2016-08-31 19:49:44
減衰世界 @decay_world

_神秘の合金スムートで作られた車体は頑丈だった。フレームは歪むことなく、蒸気車は元通り進む。モーラは後ろを振り返る。イノシシの死体。森の中から素早く数人のハーピィが現れ、肉の取り合いが始まった。 「まさか、蒸気車に轢かせるために道に追い込んで……!」 5

2016-08-31 19:55:27
減衰世界 @decay_world

「モーラ! 遅れたら私たちはハーピィの餌だ! 気合い入れていくぞ!」 「は、はひぃ……!」  砂利を跳ね飛ばして蒸気車が猛スピードで駆ける。デスレースは終盤を迎え、さらに過熱していた……。 6

2016-08-31 20:01:15
減衰世界 @decay_world

――  発端は、賞金200ポンドの見出しの広告だった。 「やべぇ! 俺たちの稼ぎの1年分だぜ!」  興奮する騎士団員たち。野営地が一つのレース参加者募集に湧きたっていた。参加資格は蒸気車の持参だ。これはかなり厳しい条件である。 7

2016-08-31 20:06:50
減衰世界 @decay_world

_蒸気車は先の文明、旧エシエドール帝国が開発した技術で、旧帝国崩壊後は技術が断絶し新しい蒸気車は作られていない。旧帝国の技術は確かだ。台数自体はある。ただ、ほとんどの蒸気車が帝都にあり、持ち出しは禁じられていた。この騎士団……ザリガニ騎士団は3台の蒸気車を所有している。 8

2016-08-31 20:15:40
減衰世界 @decay_world

_ザリガニ騎士団は早速3台の車をエントリーさせた。蒸気車には最低二人のドライバーを乗せなければならない。つまりザリガニ騎士団からは最低6人のドライバーが選ばれるということだ。 (わたしには関係ない)  モーラは最初そう思っていた。 (アクセルに足が届かないし) 9

2016-08-31 20:20:52
減衰世界 @decay_world

_けれども、面倒そうな皆の顔を見たとき、モーラはいてもたってもいられなくなってしまった。 (みんなのために、立候補しなくちゃ)  アクセルに細工をすることを提案し名乗り出る。 (わたしはみんなのために役立たなくちゃ)  モーラはそう思っていたのだ。 10

2016-08-31 20:30:58
減衰世界 @decay_world

_女騎士・イン・デスレース#1 地を駆ける蒸気車 ◆1終わり ◆2へつづく

2016-08-31 20:31:21
減衰世界 @decay_world

【用語解説】 【スムート】 先の超文明である灰積世を創造した神が、灰積世を豊かにするために創造した金属。結局豊かになりすぎたスムートハーピィの文明は、神々との決戦に挑み、全て灰燼に帰して消滅した。スムートの特性は脆い代わりに高品質というものだが、合金によって弱点は完璧に埋められる

2016-08-31 20:43:12