140ssログ8月

やまたに@極めのネタばれをします @mw_snc

あんたの知り合いは多くていけない。そんなことを言いながら隣に座ってくるものだから、宗三は笑った。なんですか、いきなり。誰も彼も馴れ馴れしい。独占欲と嫉妬が入り乱れた表情は、実は執着が見えて嫌いではない。今は誰もが知り合いでしょうに。言えば余計にむくれるだろうけれど。(薬宗)

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おかしい。青江は首をかしげる。石切丸が三条派で固まると青江が少し寂しいように、数珠丸がくれば石切丸もそうなると思ったのだ。青江、私も見ておくれ、なんて言うかと。それなのに。遠くにはくすくす楽しそうに笑い合うふたり。この偵察力が恨めしい。なんで僕が、面白くないんだ。(石かり)

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あにじゃ、あにじゃ。風邪、というものを引いたという弟がいつも通りそう連呼する。赤い頬も、蕩けた瞳もいつも通り。あにじゃ、俺の側にずっといてくれ。俺だけ見ていて。ああ、いつも通りじゃなかった。こんな我儘を言うなんて。ずっと、お前は風邪を引いてればいいのに。(髭膝)

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暑い。弟が畳で呻く。まだ昼だというのに、もう諦めて浴衣一枚で転がって。暑い。そのことだけを繰り返すのだから、少し面白くない。暑い。その音を唇で塞いでしまう。兄者。うん。余計に、暑くなる。僕の弟は、すっかり夏にとられてしまった。ああ、なんて面白くない。(髭膝)

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珍しいね、と青江は口にする。大らかな大太刀は、あまり妬くことがないのだけれど。大典太くんはねぇ、言いながら腕の中に閉じ込められる。霊力のある刀だから君も気になるんじゃないかって。それだけで恋はしないよ。でも、切欠にはなるだろう。それは前例があるかなぁ、君のことだけど。（石かり）

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傘は二つ。気が利くだろう、と迎えに来た青江が言う。遠征帰りに降られるなんて運が悪いね。 その表情は傘で見えない。手を伸ばせば、袖が濡れてしまうとたしなめられる。触れることもできない。ありがとう。そう言いながら石切丸は思う。傘は一つでよかったのに、そういう気は利かない子。(石かり)

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濡れた髪を手拭いで拭かれる。まったく、急に雨が降るとは。ぶつくさ文句を言いながら。兄者、寒くはないか。あとで熱い茶を持とう。今にもぱたぱたと動き回りそうな手を髭切は掴んだ。お前もびしょ濡れだよ。そうやって、有無を言わさず手拭いを奪うことを、弟は本当は知っているのだ。(髭膝)

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雨が降るから、そんな言い訳を宗三はする。雨が降るから思い出す。雨が降るから部屋にいたい。雨が降るからあなたといたい。本当はもう、遠い過去のことは雨くらいじゃ揺るがないくせに。でも、優しく髪を撫でる手が嬉しくて、今日もまた嘘を吐く。薬研、雨が止むまでここにいて。(薬宗)

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修業という制度が出来てから、薬研の手当ては自分に向かうことがひどく増えた。お前ら、強くなったなぁ。弟たちに笑ってみせる瞳の奥に、揺らぐ炎を小夜は知っている。握りしめた拳の強さも。だから。もし、同時だったらあなたが先でいいよ。そう呟く。その代わり、兄様を守ってね、と。(薬宗+小夜)

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石切丸は笑うと幼い顔をする。驚いても、怒っても。そのくせ仕草はまるで人の親のようで。撫でる手のひらは温かい。青江、と呼ぶ声は案外低くて、それに甘い。そして、こちらを映す瞳は雷光がごとく貫く。なに考えてるんだい。不思議そうな声に青江はくすりと微笑んだ。君のことだよ。（石かり）

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まだ修業に行けない。ぐずる短刀ごと宗三は布団に潜る。近い内にいけますよ。今がいい。時折、彼は弟より駄々っ子だ。早く強くなりたいのに。その矜持こそ子どものようだと思いながら、宗三は両手でその右手を取った。まだ、四日も会えない覚悟が決まっていないので丁度いいです。本当のこと。(薬宗)

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やぶって捨てられた紙を宗三は拾う。中身は他愛ない、よく知った字の稚拙な恋の歌たちだ。そこに朱墨で採点がされていて、それも見覚えのある弟のもので。なにしてるんですか、ふたりで。これは文句を言わなければ。あなたからの恋文なら、一番に見るのは僕がいいのに。（薬宗）

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くやしいのは、恋敵に教えを請う状況で。薬研、その字あまりは野暮ったいよ。本丸一小さな短刀は捻り出した恋文にひたすら赤で訂正をしていく。刀に、雅なんていらんと思ってたんだ。それなら恋もいらないね。違いねぇ、と最高の一作を差し出すために薬研はまた筆を執る。（薬宗）

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そとに出よう。誘いに宗三は頷いた。どこまで行くんですか。そう尋ねても、庭にしか勝手に出られないのだけれど。この景趣では紫陽花が見頃だろうか。考えるその手を薬研は引いて、唯一の門のところまで。大将に許可はもらったぜ。にかっと笑う彼はやけに楽しそうだった。（薬宗）

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うなずいてくれ。薬研は祈る。どれだけ頭を下げても良かった。大将、二刻ほどでいいんだ。外を見るのが好きなやつだから、道端に咲く花や野良猫にばかり目をやるやつだから。薬研、素直にデートしたいと言えばいいのに。あっけらかんと許可をくれるその人が、薬研はこの世で二番目に大切だ。（薬宗）

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ののはな、飛ぶ鳥、つむじ風。外は好きだ。宗三、楽しいか。不安そうな顔に笑って頷けば、ぱぁっと子供のように喜んで。そしてすぐに、きりっとした表情を装って。繋ぐ手、笑顔、合わせる歩調。なによりもあなたが好きです。彼はきっと、そこまで気付いていないだろうけれど。（薬宗）

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ひそやかな計画は、ここまでうまく言っていた。外れの四阿、夕暮れの帰る間際。なぁ、これ受け取ってくれ。ようやく納得の出来になった恋文を渡せば、彼は読まずに袖にしまう。今、あなたの声で聞かせてください。想定外に真っ白の脳内は、ただ好きだとしか唇に指令を送らなかった。（薬宗）

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ちらりと横目で見た子供は、まだ拗ねている。外に連れてって、恋文を送って、いい感じの雰囲気になって。はいはい。俺に惚れ直す、まで練ったのに。たまに彼は、すごく駄目だ。意味のないことを言う。これ以上惚れ直しては、僕の心臓が持ちませんよ。言ってなんてやらないけれど。（薬宗）

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ことばも行動も、想いを全部伝えるにはとても足りなくて。それでもわかって欲しいと文やら逢引やら尽くしてみるのに、宗三はいつだっていらないと満足そうに微笑んで。もっと、もっとなんだ。もっとやりたい。この胸を切り開いて差し出せばわかるのか。いらないなんて言えないものを。（薬宗）

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くだらないと宗三は笑う。なんでもかんでも持っていないものすら与えようとするから跳ね返すのだ。あなたが言える言葉で、あなたが出来る行為で、あなたの考える範囲で。他人の残り香なんて欲しくないのだから。なら、俺の心臓は。宗三は笑みを深くする。くれるというなら、いただきますよ。（薬宗）

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忘れないで、随分とひどいことをと自分でも思う。でも、忘れないで。もしお前が折れるなら、その最後の最後でも僕のことを呟いて。お前が長く在るのなら、朝起きてまず思い出して、夢の中まで僕と出会って。そんな独占欲丸出しの懇願に、弟はあっさりと頷いて笑うのだ。（髭膝）

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忘れてくれ、と願った。お前はいつだって僕のことばかりだから、忘れた方が楽になると。兄者は、ひどいことを仰る。傷ついた瞳から雫ひとつぽたりと落ちて、僕はますます忘れて欲しいと思ってしまう。忘れたら、もうお前が泣くことはないだろうから。忘れたら、笑えもしないぞ、兄者。（髭膝）

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忘れない。その言葉に、嘘はない。誰も彼も、弟でさえ、覚えてないと責めるけれども。忘れない。百年、千年離れようと、僕に弟がいることを、君が愛しいということを。また数百年後に会えたとしても、僕はちゃんと覚えてるよ。まぁ、名前はたくさんあるから忘れてしまうかもしれないけれど。（髭膝）