羅縁誕生日

らごえに
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溺死 @_ne0__

プレゼント選びなんて、したことなかった。 12月。 深々と雪が降る季節。完全に夏という季節を忘れてしまうような肌に痛い寒さが訪れていた。 私は夏があまり好きではないから、この季節は好きだ。しがな一日中寝ていられるし、炬燵という魔の利器もある。 冬が、大好きだった。

2016-09-10 09:20:06
溺死 @_ne0__

あいつに出会うまではの話だ。 あれはそうだな、ちょうど去年の冬だ。私は一人の男と出会い今の生活に至っている。 単刀直入に言ってしまえば、私はその男と交際をしている。今思えば気の迷いだったというか、生活的に困っていたからつい、甘い誘いに乗ってしまったが運の尽きだったというか…。

2016-09-10 09:22:51
溺死 @_ne0__

話すと長くなるが、ええい仕方ない。今回ばかりは話してやる。私の黒歴史をな。 そう、去年の冬。私はまだ一人暮らしをしていた。いつも行く隣町のコンビニがあるのだが、そこに奴はいた。 最初こそ気にもしていなかったが何度か顔を合わせるうちに少し会話をする仲にまでなった。

2016-09-10 09:25:26
溺死 @_ne0__

ああ、そうだな。奴の名前を言っていなかった。私も話すようになってから名前を知った。 「羅喉」という。星の名前らしい。 大層ご立派な名前だ。名は体を表すと言うがあいつには不釣り合いの言葉だな。 まぁよい。 打ち解けるようになったのはいいのだが、私の生活にとある支障がでてきた。

2016-09-10 09:28:07
溺死 @_ne0__

その一人暮らしをする住処を追い出されるという事案が発生したのだ。家賃の滞納とやらでな。 なぜ私が家賃なぞ払わねばならぬのか到底理解に苦しむが、大家とやらが今週中に払えなければ出て行ってもらうと私の部屋で一喝し、何やら難しい書類を何枚か置いていった。 全く、小さい犬ほどよく吠える。

2016-09-10 09:30:57
溺死 @_ne0__

別段慌てはしなかったが住処を無くすのは少々困ったことだ。とは言いつつも腹は減る。あのコンビニへ出向いたのだ。 やはり羅喉はいて、愛想悪く仕事をこなしていた。奴のところへ買うものを持っていけば「また来たのかよ、暇だなぁ」と悪態を吐かれた。 貴様ほど暇ではないのだよ。

2016-09-10 09:33:16
溺死 @_ne0__

「ここへ来るのも今日が最後かもしれんな」 「は?何?引っ越すの?」 「家を出て行けと言われた」 それを聞いた奴は小馬鹿にするように笑った。腹が立つ。レジ打ちを流れるようにこなしながら未だに笑っていた。 「で?どうすんだよ。新しい家は見つかったのか?」 「いいや」

2016-09-10 09:36:26
溺死 @_ne0__

袋に入れられたものを受け取って立ち去ろうとした。こんな奴に話した私が馬鹿だった。まぁ、今日でお別れなのだから寛大にも許してやろう。 「なら俺ん家住む?」 思わず振り返る。ニタニタと奴は笑っていた。 どういうことだ?と聞けばまた、同じことを言った。 「まぁ、一つ条件付き」

2016-09-10 09:39:05
溺死 @_ne0__

そこでその条件を断っていたら私はこいつと付き合うこともなかったのだろう。しかし運命とは決められているのかもしれない。 「住む代わりに俺がシたいときにヤらせて?」 少し頭の思考が止まった。 しかし家を無くし寝る場所をなくす恐怖からか私はそれに了承してしまったのだ。

2016-09-10 09:40:48
溺死 @_ne0__

そこから先は言わずもがなだ。 この羅喉という男の家に転がり込み、同居をし、初めてセックスというものをした。 乱暴に扱われるかと思ったが、存外奴は優しく触れ、抱いてきた。それも、不服ながらこいつに落ちた要因の一つなのかもしれない。 体を重ねるうちにいつしか私たちは意識をしていた。

2016-09-10 09:45:22
溺死 @_ne0__

体から入った関係ではあるが、お互いにお互いを意識していることを打ち明けたとき、交際に発展した。 そして、今に至る。 今は12月。 私たちの誕生日が近づいていた。 私が14日で、羅喉が18日。 いや、近づいているというよりは今日が私の誕生日だ。

2016-09-10 09:52:13
溺死 @_ne0__

日付を越えたとき寝具の上で羅喉に祝福の言葉ともにキスをされた。しばらくの間、唇を堪能されていると、ふと左の薬指になにか当たった感覚があった。 それと同時に口が離れたため左手に目をやれば一つのリングがはめられていた。 さすがに、驚いた。 「羅喉…これ、」 「誕生日おめでとう、縁」

2016-09-10 09:54:36
溺死 @_ne0__

羅喉も自分の指にはめたリングを見せてくれた。よく見れば刻印が彫ってあり私と羅喉のイニシャルだった。 こいつにこんな粋な計らいができることに腹も立ったが、正直、嬉しかった。 その日は奴にらしくないことばかりされた。不服だが、惚れ直した。 抱き合って寝るのがここまで幸せだったとはな。

2016-09-10 09:57:34
溺死 @_ne0__

早朝、物音で目が覚めた。 隣を見れば羅喉がいない。少し上体を起こして辺りを見渡した。するとタンスがあるところでコートに袖を通していた。 「…どこかへ行くのか」 「あー起こした?ちょっと2日くらい家開けるわ」 「仕事…?」 「まぁそんなもん。そんじゃ行ってくるわ」

2016-09-12 17:26:33
溺死 @_ne0__

どうすることもできず玄関から出て行く奴の背中を見送ることしかできなかった。昨日の甘い時間はこのためだったのだろうか…。 少し窓の外を見た。深々と雪が降っている。どうか、事故の無いようにと願いながらまた眠りについた。まだ少し布団から感じられる羅喉の体温を身に沁みさせながら。

2016-09-12 17:28:48
溺死 @_ne0__

起きたのは夕方頃だった。空腹を覚え目が覚めたのだ。いつもなら気怠げにテレビを見ている奴の姿があるのに、そこにはなかった。いや、無いのはたまにある。でも夜中には帰ってくるのだ。…今日は……帰ってこない。別に、寂しいわけで無い、ただ、物足りないだけだ。…寂しい、など。

2016-09-12 17:33:43
溺死 @_ne0__

小さく息を吐けば腹を満たそうと冷蔵庫を漁った。昨日、私の誕生日を祝ったときに食した料理の余りが少し残っていた。 食べる分だけ出せばテレビをつけ冷蔵庫の中で冷え切ったそれを口に運んだ。昨日はあれだけ美味いと感じたはずなのだがな、今はそうとは思わん。…なぜだろうな。

2016-09-12 17:37:33
溺死 @_ne0__

くだらん番組を見ていたら夜になっていた。風呂を済ませてまた布団に潜る。 ふと壁に掛けてあるカレンダーに目を移した。18日のところに派手に「羅喉様の誕生日」と書き込まれていた。 今すぐにでも黒で塗りつぶしてやりたいがそこをずっと見つめていた。そうか、…あと3日で奴の誕生日か…。

2016-09-12 17:43:42
溺死 @_ne0__

それまでに奴は帰ってくるだろうか。 2日ほどと言っていたが。 奴からもらった指輪を見つめる。どこでサイズを測ったかわからんがぴったりだ。その縁をそっと撫でる。 私も、何か奴にあげねば、。 奴は何をあげれば喜ぶ?プレゼントなど生まれてこの方誰かにあげたことなど無いのだ。

2016-09-12 17:46:19
溺死 @_ne0__

徐に携帯でプレゼントのことを調べてみたが柄に合わないものばかりで携帯を閉じる。わからん、どうしたらよい。何をあげれば、奴は喜ぶ。 そうこうしているうちに眠気が来たのだろう、眠りに落ちていた。奴がいない、初めての夜。隣がとても寒いと感じた。 まだ雪は降っていた。

2016-09-12 17:48:59
溺死 @_ne0__

また昼頃目が覚めた。 考えるのは奴へのプレゼントのことばかりだ。服でもあげようかと思ったがこれ以上タンスを満杯にするのもあれだ。ならばなにかアクセサリーでもと思ったが奴の好みはよくわからん。 なぜ私がここまで悩まねばならぬのだ、欲しいものを聞いておけばよかった。

2016-09-12 17:50:42
溺死 @_ne0__

明後日には奴の誕生日がくる。 それまでには準備をしなくては。…それより奴は帰ってくるのか?予定なら帰ってくるのは今日のはずだ。だが連絡一つ無い。帰ってこないのだろうか。仕事も忙しいだろうし、連絡を取るには気が引けた。 プレゼントのことで悩んでいれば1日経っていたなど、笑い話だな。

2016-09-12 17:53:20
溺死 @_ne0__

結局何もできず夜になってしまった。羅喉からは連絡は来ず、今日も帰ってこないようだ。 考えるのをやめ、テレビをつければ天気予報が流れていた。明日は晴れるらしい。明日は17日。そろそろプレゼントを決めねばならないと危機感に陥る。 億劫ではあるが、明日外にでも出向いてみるか…。

2016-09-12 17:56:03
溺死 @_ne0__

17日になった。昼間に目を覚ませば久しぶりに外着に袖を通す。何日外に出ていなかっただろうか。雪が積もっているだろうからと何年か前に買ったブーツを履いて外に出た。 寒い。肌が少し痛い。ニット帽を深く被り街へ繰り出す。人目がかなり怖い。 向かったのは前、奴と一度行った雑貨屋だ。

2016-09-12 18:00:48
溺死 @_ne0__

道はなんとなく覚えていた。 とても大きな雑貨屋だったから行けばすぐにわかった。恐る恐る入り口をくぐれば雑貨屋特有の香りが鼻をついた。 広い店内をゆっくり見回す。奴にあったプレゼントを探した。マグカップを手に取ってみたり、変なぬいぐるみを見てみたり。しかしなかなか良い物がない。

2016-09-12 18:10:24