羅縁誕生日

らごえに
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溺死 @_ne0__

困った。本当にいい物がない。 いや、プレゼント選びに慣れている者ならすぐに決めれるのだろうな。私にとってはどれを選んでいいのかさっぱりだ。 意味もなく店内をうろついた。もう諦めるか、そんな思いが脳裏を過る。いや、そんなことはとまた脳裏を過る。 ふと、ガラス細工の場所に目がいった。

2016-09-12 18:15:46
溺死 @_ne0__

世ではペーパークラフトと呼ばれるものだった。ガラスの中に閉じ込められた本物の花。その綺麗さに目を奪われた。 様々な花がある中、奴の髪の色にそっくりな色をした花を見つけた。ローダンセという花らしい。ガラスが光に反射してとても美しい。 これだ。やっと納得する物を見つけることができた。

2016-09-12 18:20:09
溺死 @_ne0__

その横には矢車菊という青い菊の花が閉じ込められた物が置いてあった。私は菊の花が好きだった。奴がお揃いで指輪をくれたのだ。なら、私もお揃いで。 矢車菊のガラス玉も手に取れば会計場所まで持って行った。少々値段は張ったがプレゼント包装もしてもらい、とても満足のいくものが手に入った。

2016-09-12 18:22:41
溺死 @_ne0__

お返しとは言い難いが、ケーキや料理も少し買った。どこかへ食事へ行こうかとも考えたが仕事で疲れているだろう、自宅でゆっくりしようと思ったのだ。 全てを買い終えたころには両手は荷物でいっぱいで足元に積もる雪に足を取られ帰ったのは夕方頃だった。 こんなに外にいたのは何年ぶりだろうか。

2016-09-12 18:29:21
溺死 @_ne0__

家に着いた時、しんと静まり返る部屋にまだ羅喉は帰ってきていないのだと思い少し気分が落ちる。 早く帰ってこぬか…、お前の誕生日になってしまうではないか。私にお返しというものをさせてはくれぬのか。 買ってきたものをすべて机に並べた。 今日、きっと帰ってくると信じて。

2016-09-12 18:31:48
溺死 @_ne0__

寝ずに待った。 時計の針は23時半を指していた。 少し、うつらうつらし始める。これはいけんとすぐに姿勢を正した。しかしまた船を漕ぎ始める。そんなことを何度か繰り返していた。もう、0時を少し過ぎていた。 帰ってこないのだろうか。何かあったのでは。いてもたってもいられなくなったきた。

2016-09-12 18:35:12
溺死 @_ne0__

連絡を入れよう、そう思った時がガチャリと玄関が開く音がした。すると外から頭に少し雪を積もらせた羅喉が入ったきたではないか。 「いやぁマジないわ、なんで俺が帰る時に雪降るかね」 ガサガサと音を立て上がってくる。 居間までくればきょとんとしている私と目が合った。

2016-09-12 18:37:23
溺死 @_ne0__

「あれ?起きてんじゃん。どうした?」 「お、まえ……」 「てか美味そーなに?どうしたほんと?」 「ふ、ふざけるな!」 思わず掴みかかった。はずだった。 バランスを崩してしまい胸に飛び込む形になってしまった。何の躊躇いもなく奴は抱き止めれば再度どうした?と聞いてくる。

2016-09-12 18:39:33
溺死 @_ne0__

「今の今まで…!どこに行っていたのだ!……2日ほどと言ったではないか……」 「縁…?心配してくれたのかよ」 「心配など!……していな、い……」 「はいはい、悪かったなー。ただいま」 ぎゅう、と強く抱きしめられた。 安心からか、涙が溢れ出てきた。隠そうと奴の胸に顔を埋める。

2016-09-12 18:42:46
溺死 @_ne0__

おかえり、と小さく漏らせば少し身を離す。 「てかなにこの、豪勢な料理」 「貴様自分の誕生日も忘れたか」 「あー。そういやもう日またいでた?」 「馬鹿め」 料理をつまみ食いしようもする羅喉の手を軽く叩いた。抗議の声が出たが着替えてこいと促す。 渋々自室へ着替えに行った。

2016-09-12 18:46:13
溺死 @_ne0__

その間に雑貨屋で手に入れたプレゼントを用意する。いつもの部屋着に着替えてきた羅喉を居間に座らせれば、ぎこちなくそれを差し出す。 「?なにそれ、大麻?」 「馬鹿か!貴様へのプレゼントだ!受け取れ!」 半ば強引に押し付けた。 驚きながらも受け取れば箱を開け始める。

2016-09-12 18:48:09
溺死 @_ne0__

ガラス玉を見た時、奴の目が変わった。 「なにこれ、マジ綺麗じゃん」 光にかざし中の花を見つめる。 俺の色、と言って少し微笑む。 「…お前の色と似てたから。…そんなもので良かったら受け取ってくれ」 羅喉が私を見つめる、嬉しそうに無邪気に、うん、と頷いてくれた。

2016-09-12 18:50:31
溺死 @_ne0__

お前のは?お揃いじゃないの?と聞かれたため自分のも取り出し見せる。これもお前の色だねとまた笑って見せた。 その笑顔に思わず見とれている私がいて。 ガラス玉を二つ羅喉は手に取れば光がよく差し込む窓際に並べて置く。ここならもっと綺麗に見える、と。 まるで寄り添っているように見えた。

2016-09-12 18:53:16
溺死 @_ne0__

「さって、腹減ったー。お、ケーキもあんじゃん。食べていい?」 「羅喉、」 「ん?」 「…おめでとう」 「…おう。縁も、ありがとな。」 骨ばった手が私の頭を優しく撫でてくれた。嬉しくて少し鼻頭が熱くなる。また泣いてしまわぬように食べるぞ!と皿によそい始めた。

2016-09-12 18:56:24
溺死 @_ne0__

気持ちばかりの買ってきた料理を二人で口に運んでいれば、羅喉が皿とグラスを持って隣に座ってきた。 「せっかくだしお前の隣で食べる」 「なんだいきなり」 「いいじゃん今日俺の誕生日だよ?我儘聞けよな〜」 「…ふん、仕方ない」 二人で寄り添うように料理を口にする。

2016-09-12 18:58:30
溺死 @_ne0__

「なあ、縁。俺さぁ、今日帰る時に雪に降られてめっちゃ体冷えてんだよね」 「だからどうした。風呂に入れ」 「冷えな〜誕生日だし俺の言うこと聞けよな」 「またそれか」 「なぁ、このあと暖まるためにシよ?」 耳元で囁かれバッと身を引く。きっとすごく私の顔は赤いだろう。

2016-09-12 19:00:56
溺死 @_ne0__

「だめ?」 私は奴のこれに弱いのだ。 それに覆いかぶさるように誕生日という逃れられないものが伸し掛る。 うん、と頷くと同時に抱き込まれれば頬に口付けを落とされた。驚いて顔を見れば次は唇に落とされた。 ああ、これを待ってた。 自然の流れで羅喉に抱きつけば口付けは深くなっていった。

2016-09-12 19:04:06
溺死 @_ne0__

目が覚めれば、二人で抱き合って布団の中にいた。机の上は夜のまんまだ。ああ、あの後そのまま事に及んだのだな。 まだ眠っている羅喉の寝顔を見れば首あたりに口付けを落としまた胸の中に潜り込んだ。するとまた強く抱きしめ私の頭に口付けを落とす羅喉。…おの れ起きていたのか。

2016-09-12 19:08:35
溺死 @_ne0__

「縁、大胆」 「黙れ寝ろ」 また強く抱きしめて今度は口に口付けを落とせば眠りに落ちる。なんと幸せな時間であろうか。朝日にあたったガラス玉がふたつ、綺麗に交わり反射していた。 羅喉が居ない3日ほど寂しかったと認めよう。それほどまでに私は奴に惚れているのだ。どうしようもないほど。

2016-09-12 19:12:12