C嬢の場合

里村邦彦 @SaTMRa

なんでってオマエ。あの調子でひっついたらそりゃそうなるだろ。あいつ節操なしだから。そうは言われても納得できないものはできない。だいたいあれが小学五年生にすることか。変態だ変態。心配なのはイリヤのことで、ああそりゃ心配ない。無理矢理手籠めにしやしないさ。そこはきちんとしてるから。

里村邦彦 @SaTMRa

なんだきちんとしてるって。見るからに親しそうな相手から聞きこみを始めた、それも悪いのかもしれないが、照れ顔にしろ怒り出すにしろ、あるいは直球でのろけるにしろ、どいつもこいつも一線越えてて風紀が乱れすぎてるじゃないか。いったいここはどういう場所なんだ。私は家に帰らせてもらう！

里村邦彦 @SaTMRa

帰るといっても場所がなかった。というかだいたいここが家じゃないか。いまのアタマじゃイリヤに合わせる顔はないし、迂闊に歩いてるとどこかで見たような顔と出くわすし、いやいやそれどころか。あの様子だとママと似たようなおっぱい放り出してる人もそっち組だろうし。どう考えても反応に困る。

里村邦彦 @SaTMRa

気がつけば展望室にいた。ソファに身を投げ出す。カルデア、天文台、空を見る場所。けれど分厚いガラスのむこうは、厳重な装甲シャッターで閉ざされている。クロエにはひと目でわかるが、厳重な魔術的防護措置、それとクロエでも不明瞭な謎の措置。厳重な事だ。当然。何しろ世界は終わっているらしい。

里村邦彦 @SaTMRa

いつか見たような世界の終わり。終わった世界のその向こう、燃えて残った最後の一つ。どこかで聞いたような話だし、未だ立ち会ったことのない話でもある。不正規の英霊もどきであるクロエには、自分の結末を知る由もない。けれどどうにか察しがつくのは、たぶんイリヤは勝ったのだろうということ。

里村邦彦 @SaTMRa

何しろイリヤは英雄として喚ばれた。だとすれば、どこかで世界の一つでも、きっと救ってみせたのだろう。姉としては鼻が高い限り、なんだが喜んでいいのかどうか。英雄に成った、だから喚ばれた。喚ばれたここはどう考えても修羅場で、修羅場だし、風紀は紊乱だし。風紀が。風紀が風紀が。ああ、もう！

里村邦彦 @SaTMRa

よりにもよって自分がこっち側に回るとは。予想外にも程がある。カワイイは兵器、エロカワイイは凶器。それで場をかき回して好き放題やってるつもりだったのが、一発逆転で被害者側だ。どうなってんだこの世紀末アドバンスド人理継続保障機関。だいたい明日からどんな顔してマスターに会えばいいやら。

里村邦彦 @SaTMRa

クロ、といきなり呼ばれて背筋が跳ねた。たぶんギアの錆びきったオートマトンのような動きで振り向けば、例の人だ。例のあいつだ悩みの種だ。赤髪白服胸元を強調した黒ベルト。制服にしろ疑問抱きなさいよあの戦闘服も。契約したマスター、自称するところのぐだ子さん。ここをどうやって見つけたのか。

里村邦彦 @SaTMRa

マスターだからねと言われても、それで納得できるかは微妙なところだ。まあまあそんなに警戒しないで。警戒するわ！ 当たり前だ！ だって部屋入ってきてベッド潜り込んでキスしてきたのクロのほうからでわーわーわーわーわー！ いいから何の用！ 話をしに来たんだって。話って何の。

里村邦彦 @SaTMRa

イリヤのこと。ああ、そうじゃない。クロは、イリヤのお姉さんだね。大事に思ってるんだ。いま、すごく怖い目になった。隣いい？ いやどうこう言う前に座るし。嫌って言っても来るんでしょうに。礼儀だよ。それで。何。だから、イリヤのことを聞きたいの。双子みたいなものなんだよね。ふたりは。

里村邦彦 @SaTMRa

最初にこっちから言わないとダメかな。私も双子なんだよね。兄さんはもういないけど。ただ、双子だって実感はあんまりなくて。ねえクロ。イリヤがそこにいるって、どんな気分。そう言われてなぜか、背筋に寒気が走った。あなた、きょうだいがいたんでしょう。そうね。それで、なんで判らないの。

里村邦彦 @SaTMRa

クロの夢を見たんだ。"ぐだ子"はシャッター、その向こうの終わった空を見ているようだった。イリヤとずっと一緒にいたんだよね。マスターの見る夢。他人の記憶。まあそうだけど。でも私は少し特殊で。だから聞きたいんだ。"ぐだ子"は目線を落とした。私と兄さんに似てるからね。どういう意味だ。

里村邦彦 @SaTMRa

私は兄さんと同じものとして育ったから。家の方針と魔術の関係でね、いや、魔術はそれ以外からっきしなんだけど。類感呪術。まあそんなところ。そういうとこも似てるね。それでね。兄さんは私と兄さんが殺したんだけど。何を言われているのかわからなかった。まるでナンデモナイ事のような口ぶりで。

里村邦彦 @SaTMRa

マスター。あなたイカれてるわ。そう思う。だから聞きたい。何を。イリヤがそこにいて、怖いとか、嬉しいとか、楽しいとか、妬ましいとか、頼もしいとか、不安だとか。そういうのを。どうもこの女は本気だ。しかも害意がない。あのねえ。クロエは半眼で"ぐだ子"を睨んだ。言えるわけないでしょうが。

里村邦彦 @SaTMRa

言えないか。当たり前。一言で言い切れるようなら、あなただって聞きにこないでしょう。道理だね。だいたい。うん。マスターがやらかしてくれた事でそうとう混乱してるんだけど。うん。昨日のも今の激重な告白もよ！？ そうだね。そうだねじゃない！ かなり怒ってる。当たり前だ！ 怒ってくれてる？

里村邦彦 @SaTMRa

"ぐだ子"はだいぶ年上のはずだ。得体の知れないところもある。ただ首を傾げる素振りや、あるいは目や声やしぐさで伝わるもろもろのものは、どうにも年下のように見えた。そりゃね。ああ。思い出す。この怒りの正体。未来で抱いたもの、確定しない"未来の記憶"にある怒り。不甲斐ない妹への憤慨。

里村邦彦 @SaTMRa

教えてあげなきゃいけないわね。教えてあげられることもあると思うけど。黙って聞きなさい！ はい、と素直に頷いた。わかった。要するに苦手分野ね。そう。私は、クロのことが知りたいな。口説いてんじゃないの。ハイごめんなさい。ところでなんでクロ呼びなの。イリヤが言ってた。ああもうあいつは。

里村邦彦 @SaTMRa

それでさ。なに。キスしてく？ 黙れこの色情魔！