「ロータス戦記1:ストームダンサー」より「第1章:火」 【1:ユキコ】

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ダイハードテイルズ広報局 @dhtls

(短刀……どこだ…)ユキコは己の武器を探した。視界はほぼ無いに等しい。闇雲に手を伸ばし、泥や落葉の中に武器が落ちていないか探し求める。何も、見えない。……再び死の闇が近づいてきた。十年もの間、彼女は自分が誰で、何者なのかを隠し続けてきた。それが今、終わりを迎えようとしていたのだ。

2016-09-21 23:37:08
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死の闇は両腕を大きく広げ、ユキコを迎え入れようとしていた。これでもう、恐れるものは何もないよと囁きながら。彼女と再びきょうだいとなるために。この世界を……死にゆく島々と、毒で満たされた空を捨て、彼方へと旅立たせるために。彼女を地に横たえ、ようやくの長い眠りにつかせるために。

2016-09-21 23:39:20
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(……次に目を開けたらきっと、安全で暖かい家にいる。毛布にくるまりながら。そして部屋の中には、父様のキセルから立ち上る、青黒い煙が……)ユキコは、ゆっくりと目を閉じた。

2016-09-21 23:41:23
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白い獣は、嘴を大きく開き、大音声で唸った。それは竜巻じみた鋭く激しい音となり、光と記憶を飲みこんでいった。……あとには、闇だけが残された。

2016-09-21 23:42:23
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【2:〈戦神〉ハチマンの啓示】

2016-09-21 23:43:46
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それより2週間前の、うだるように蒸し暑い朝のこと。帝都カイゲンよりシマ列島を支配するセイイ・タイショーグン、すなわちヨリトモ・ノ・ミヤは、己の寝所から出で、退屈そうにひとつ欠伸をしてから、こう宣言した。「余は、グリフォンを所望する」

2016-09-21 23:46:30