エリカ、ラーメン二郎へ行く

ガールズ&パンツァーの逸見エリカが二郎を食いに行った先は、立喰師と呼ばれる男がまさに「ゴト」を行っている現場だった。否応もなく巻き込まれるエリカ、そして形成される亜空間。エリカは一体どうなってしまうのか!?
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現場猫教授 @Dr_crowfake

「ついにやってきたわに!」逸見エリカは思わず噛んでしまった。そう。噛むほどに感動していたのだ。黒森峰女学園ではけして食べることの出来ない珍味、ラーメンという概念を超越したあの食物を出す――「ラーメン二郎」へと、足を運んでいたのだ。

2016-10-04 10:16:07
現場猫教授 @Dr_crowfake

こう見えてエリカはカロリーにはうるさい。ボクササイズを欠かさず行い、健康な肢体を保っている。しかしその反面で、時折羽目をはずしたくなるのも人情というものだ。そんな彼女がネットサーフィンで知ったのが二郎だった。炭水化物と油の塊と形容すべき不健康食品に、思わず彼女は魅せられてしまった

2016-10-04 10:21:41
現場猫教授 @Dr_crowfake

それからと言うものの、エリカは毎日ラーメン二郎の夢を見るようになった。あのピラミッド状のもやしを崩し、肉にかぶりつき、ようやく辿り着いた麺をすすり、汁を飲んで完食すれば、どれほどの快楽が味わえるであろうか。その誘惑に負け、エリカは聖グロとの交流戦がてらに二郎にやってきたのだが……

2016-10-04 10:24:52
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ニンニクヤサイマシマシアブラカラメ」カウンターにたどり着き、魔法の呪文を唱えようとしたエリカの横で、突然男がボソリと「麺が、泣いてるぜ」とつぶやいた。「はぁ?」と聞き返す店員の前で、男は「麺が泣いていると言ったんだ」と繰り返した。

2016-10-04 10:30:49
現場猫教授 @Dr_crowfake

「見ろよ、てんこもりの具を片付けている間に麺はすっかり汁を吸って伸びちまった。ラーメンってのは麺と出汁のハーモニーが命だ。それがすっかりだいなしじゃねえか」男は長講釈を垂れる。そのせいでエリカの注文も遅れそうだ。これでは自分の食欲を満たせないと感じたエリカは店員の加勢に入る。

2016-10-04 10:33:55
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ちょっとアンタ何なのよクレーマー?」「俺か……俺は人呼んで『ラーメンの麺悟郎』だ」客席からざわざわとした雰囲気が伝わってくる。「ラーメンの麺悟郎……実在していたのか!」「あの伝説の立喰師が二郎に……!」店員も表情を固くする。そしてエリカもまた。

2016-10-04 10:36:46
現場猫教授 @Dr_crowfake

立喰師とは食い物屋に入っては講釈をたれ、店員を煙に巻いては無銭飲食をする輩、無法無頼の存在であるが、それも時代の波に飲まれ廃れていき、今ではオカルト板で見かけたというスレが立つほど希少な存在だった。エリカは彼の「ゴト」――無銭飲食がどうなされるか、興味を持って一歩引いた。

2016-10-04 10:39:57
現場猫教授 @Dr_crowfake

エリカの態度をよそに、ラーメンの麺悟郎は語る。「ニンニクヤサイマシマシアブラカタメ……たしかにそう頼んじゃいたさ。だが、それはマシマシの上で、あくまで麺と出汁の調和が取れてなければならねぇ。手前はそれが出来てねぇ」「だから空に値しないっていうのか?」「そうは言わねぇ」「だったら」

2016-10-04 10:44:40
現場猫教授 @Dr_crowfake

「食うさ。だがそりゃアンタのためじゃねえ。泣いてる麺の供養だ」麺悟郎はエリカに向かって「アンタはそう思わないかい、姉ちゃん?」と問う。いきなり当事者とされたことでエリカは思わず頷いてしまった。麺悟郎は他の客にも水を向ける。堂々とした語り口に聞き惚れていた客たちは次々首肯した。

2016-10-04 10:48:31
現場猫教授 @Dr_crowfake

「すまねえ……俺がニンニクヤサイマシマシアブラカラメなんて頼まなきゃあ、お前をこんな姿にすることはなかったのによう……」すすり哭きながら麺悟郎は伸び切った麺をすすり上げる。その姿はまさしく友との永訣を惜しむ男のそれだった。麺悟郎の哀しみが店全体に伝染し、店員までが哭いている。

2016-10-04 10:52:23
現場猫教授 @Dr_crowfake

エリカは目前で怒っているゴトの雰囲気に飲み込まれないようにするのが精一杯だった。打てば必中守りは固く、進む姿は乱れなしを教えとするに沈み流戦車道を収めた彼女も、ことすると麺悟郎の放つ哀しみのオーラに引き込まれそうになる。状況を打開せねばゴトは完成してしまうだろう。だがどう止める?

2016-10-04 10:55:22
現場猫教授 @Dr_crowfake

エリカの中では「ゴトを最後までみたい」という心情と、「無銭飲食を止めたい」という正義感と、「なんでもいいから早く二郎を食わせろ」との3つの感情が渦巻いていた。互いに相克し合う渦巻きの只中でエリカが動きを撮れないでいると、玄関から新しい客が入ってきた。

2016-10-04 10:58:59
現場猫教授 @Dr_crowfake

「店員さ~ん、ニンニクヤサイマシマシアブラカラメ1丁お願いしますわ」エリカはその顔に見覚えがあった。大洗女子学園あんこうさんチームの射手、五十鈴華だ。彼女の上品な雰囲気とは全く正反対のブルータルな注文にエリカは驚いたが、店員も、客も、麺悟郎も驚いた。

2016-10-04 11:01:00
現場猫教授 @Dr_crowfake

「お嬢ちゃん、そんな食い方じゃ、麺を泣かせることになるぜ……」「いえ、私はそんな可哀想なことはしませんことよ」華は席に付き、呆然としていた店員に催促する。店員は我に返って注文を受け付けた。そして――恐るべきことに、華はピラミッドより堆い野菜類を片付け、麺が伸びる前に完食したのだ。

2016-10-04 11:04:01
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ラーメンの麺悟郎さん、でしたっけ」「ど、どうしてその名を」華はまるで旧知であるかのように立喰師に向かって優雅に告げる。「麺を泣かせてはいけない。その気持ちはお察ししますわ。でも、二郎はいわゆるラーメンではありませんの。二郎というラーメンに良く煮た全く別物の食べ物でしてよ」

2016-10-04 11:07:00
現場猫教授 @Dr_crowfake

「だから、ラーメンの食べ方に縛られる必要はないですし、ラーメンでないことを悔やむ必要もないのですわ。あなたのゴトは、最初から破綻してましたのよ」華の言葉に、麺悟郎は肩を落とし、完全敗北を認める。「俺が、間違っていた……代金は、払う」「はい!」華はにっこり笑った。

2016-10-04 11:10:11
現場猫教授 @Dr_crowfake

ラーメンの麺悟郎を叩き出した後で、華は無料券を店員から受け取った。そして、エリカに向かって告げる。「エリカさんも一緒にどうですか? 幸い、2人分ありますし」「ご相伴に預からせてもらいます」エリカは麺悟郎の事を見事に粉砕した華の力強い食いっぷりと論理に驚嘆していた。そして察する。

2016-10-04 11:12:49
現場猫教授 @Dr_crowfake

――五十鈴華は、麺悟郎のゴトを失敗させることで、タダ飯にありついたということを。華自体もまた、立喰師であるということを。エリカは戦慄を禁じえず、箸を進める手も休みがちになる。エリカの二郎初体験は、期せずして社会の闇を覗き込むものになった。伸びた麺が、やけに胸に重苦しかった。

2016-10-04 11:16:36
現場猫教授 @Dr_crowfake

「エリカ、ラーメン二郎へと行く」――完――

2016-10-04 11:17:25
現場猫教授 @Dr_crowfake

「エリカ、ラーメン二郎へ行く」の構成は、こちらのSSからお借りしたものです。ガルパンと立喰師列伝が好きなら面白いのでぜひ読んで下さい>pixiv.net/novel/show.php…

2016-10-04 11:18:52
現場猫教授 @Dr_crowfake

あと二郎といえば暴力ちゃんさんのハーモニー×二郎ネタがドチャクソ面白いのでこちらも>pixiv.net/novel/show.php…

2016-10-04 11:20:30