小説メモSS等

私的メモ含みます。
1
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

「クソッ…クソがッ…」って爪を噛む一条の目は腫れぼったくなっている、兵藤の杖が掠めた代償。幸い眼球は傷付いていないけれど、その心には大きな傷と激しい憎悪が燃えている。頭一つ抜けた幹部候補生だからこその代償、手入れが行き届いたその爪は彼の歯型で歪んでいた。

2016-10-06 02:53:50
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

そんな一条を見ていられないのは村上である、自分は兵藤に名前すら呼ばれない、興味すら持たれない。それがどれほど安全なことなのかと安心するも自分たちの失態が一条に被害をもたらすと思うと気が気でない、苛立つ一条の隣に腰掛ければその手を取ってやる。噛み付かれることも覚悟で。

2016-10-06 02:54:06
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

意外に一条の反応は大人しい。振り払う余裕も無いのか、面倒なのか定かではない。見様見真似で彼の愛用する爪やすりを掛ければ落ち着けという意味を込め「客前に出るんですからきちんと身なりは整えて下さい。」普段の彼の口煩い注意を述べる。一条は目を逸し「うるせぇよ…馬鹿が。」と呟いた。

2016-10-06 02:54:34
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

数日前から降り続く雨は何時迄も止まない、梅雨でも無いのにと安物のビニール傘を片手に今日もカイジは町を行く。どいつもこいつも俯いて、丸めた背中に疲れが見える。勿論自分はその社会の歯車よりも下方の人間であることは間違いは無い、何せ休日はギャンブルで時間を潰すのだから。

2016-10-06 02:48:13
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

雨で曇る町の景色、そこでも鮮やかに輝いているのは信号機のみ。進行を促す青いランプが点滅し、すぐにそれは赤へと変わる。至極気が滅入る。まるでこの先へと行くなと邪魔をされているようだと感じながらもカイジはその足を止める。左右の歩行者たちも同様に足を止め手のひらの端末を操作する

2016-10-06 02:48:31
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

閉鎖的空間が自身の不釣合いな状況を示すようで、少しばかり寂しさが心に落ちた。やっかみと焦燥が綯い交ぜになった心に苛立つ、それを拭い去るようにどいつもこいつもとポケットから煙草を取り出し唇に咥えライターを取り出そうとポケットを探るが火種が見当たらない。更に苛立つ。

2016-10-06 02:48:52
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

するとその時、突如横から火が差し出された。湿気と冷たい空気が頬を冷やしていたせいか、その温もりは何処か暖かいと感じてしまった、とても小さな火のはずなのに。しかし、自身に火を差し出す等心当たりがない。咄嗟に「有難う」と感謝の言葉を零し顔を上げたカイジはその瞳を見開いた。

2016-10-06 02:49:10
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

「アカギ……」 見慣れた笑顔がそこにあった、自身を小馬鹿にしたような何かを企んでいるような視線。袖が濡れることも厭わないとばかりに、その安物のライターを己へと突き出していた。霧が見せている幻なのだろうか、はたまた誰かと勘違いしているのだろうか……驚きの気持ちが思考を遮断させる。

2016-10-06 02:49:49
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

どのような状況でこうなっているのか解らない、しかし顔見知りに会えたのは僥倖なのかもしれないとカイジが口を開こうとした刹那だった。アカギの口角が一気に釣り上がる、それは悪魔的で、普段ギャンブルに興じる時に見せるものによく似ていた。疑問の声をあげる間もなかった。

2016-10-06 02:50:42
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

ライターがその火を灯したままゆったりと地面目掛けて落ちていく、同時にカイジの体は横断歩道に投げ出されるように宙を舞う。時が、雨の雫視界の端を掠めていく。ぼんやりとしていた時間は消費されていた、一度青に変わったそのランプは既に点滅、再度カイジの進行を防ぐように赤へと変化していた。

2016-10-06 02:51:07
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

「……アカッ……」 言葉を遮るクラクションの音、カイジの声はブレーキ音と雨音に重なってそのまま途切れた。辺りでは様々な声があがっている、救急をと叫ぶ声、ただただ恐怖に引きつる悲鳴。道路に横たわる愛しい姿は人の陰が群がり既に見えない。まるで蟻に喰われる蝶のようだと銀髪の青年は考えた

2016-10-06 02:51:39
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

「……くくッ…」 自分らしくないと喉の奥から笑いが溢れる。目的は既に完遂したのだ。自分とは違う男に笑う彼、どんどんと大きく膨らんでいった想いはもう止まらなかった。独占という名の毒、嫉妬という名の劇薬に狂っているという自覚は更に狂わされた。

2016-10-06 02:52:03
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

雨に混ざる赤を満足気に見つめれば、その場から踵を返す。幸い見えないように傘が自身の行為を隠してくれる…しかし日本の犯罪を狩る猟犬は優秀だ、何時己の手に冷たい罪を掛けるだろう。まぁいい、それも一興、狂った己に似合うだろう。「……別にあんたの幸せなんか望んでないから、俺は。」

2016-10-06 02:52:26
水無月@垢移動準備中 @minaduki_pinkfk

もう一度、動かなくなった彼を振り返り、一瞥したアカギの頬を雫が一筋零れ落ちた。

2016-10-06 02:52:43