・・さくらんぼ・・

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・・さくらんぼ・・ 1． （クソ喰らえ） そこら辺にあるもん蹴飛ばしながら歩く。 ちらちらと向けられる視線がなおさら俺を苛立たせる。 「何やねん！言いたいことあるなら言え！」 虚勢を張っただけの空しい怒鳴り声が響いた。 pic.twitter.com/eViwc6r0U2

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2． ＊＊ ヘッドホン被って大音量で音楽を流す。 （話しかけんな、こっち見んな、俺に触れんな） 何にイラついとるんかもわからんようになって 殺気だった肌がピリピリ痛む。 （何もかんも壊れてまえばええのに、） 俯いて歩き出したときだった。 「！！」

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3． 腕を掴まれて勢いよく引っ張られる。 「っんやねんお前！」 力任せに振りほどくとソイツはよろめいて離れた。 （オンナ？） まっすぐな視線を俺に向ける。まだあどけなさが残ったその顔。 「何してくれとんねん！クソガキ！」 ひるむことなく強い目で睨み返してくる。

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4． 「殺すぞ！」 怒鳴った瞬間、ガキは俺の頭から乱暴にヘッドホンを奪った。 おもむろに腕を伸ばして指さした先には…信号？ 「せやから何やねんて！」 今度は行き交う車を指す。 「んぁっ？！」 ブチッ！ 「おまっ！！」

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5． コードを思い切り引きちぎると、プイッと顔を背けてソイツは走って行った。 「待てやコラァ！」 追いかけようとして足を止める。信号…赤やった？ それがあいつとの出会い。

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6． ＊＊＊ 数日後いつもみたいに町をブラついとったときやった。 あん時のガキ。 学校帰りか。 にしては女子高生特有の浮かれ感がない。 周囲には我関せず、って顔で通りを進む。鞄にぶら下がった“オンナのコ”っぽいなんかが不釣り合いにさえ見えた。 ちょっと怖がらせたろか、

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7． それとももっとひどい目に遭わせたろか。 後ろからつける。人通りがなくなったところで声をかけた。 「ちょっと待てや」 止まらへん。 「待てゆーとんねんコラ」 無視して歩き続けるソイツにカッとなった。 「お前なめとんのか！」

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8． 肩を掴んで振り向かせると、目を丸くして心底驚いた顔をした。 「ええ度胸しとんのな」 「こないだのヘッドホン、どう落とし前つけてくれんねん」 低い声でボソボソ呟くと、眉をひそめて首を傾げる。 「ついてきてもらおか」 pic.twitter.com/HIjpEY8RWS

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9． ＊＊＊ 「どうかしましたか？」 「！」 巡回中のポリ。俺らの様子を見て近づいてきた。 「大丈夫ですか」 「何がや」 誰彼かまわず睨みつけるのは癖になっとった。一歩前に出るガキ。 チッ、 しくった。もうどーでもええわ。 あ…？

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⒑ ニコッと笑って敬礼するクソガキ。 「あれ…二人は知り合い？」 予想外の展開に戸惑うポリ。 「！！」 コクッと頷いたかと思うと、俺に笑顔を向けて腕を組んだ。 「この辺、夜になると物騒ですから気を付けてくださいね」 手柄を逃したポリ公は微妙に残念そうに去って行った。

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11． ＊＊ 「放せ！」 からまれた手を振りほどく。 「どういうつもりや」 「、」 「お前何考えとんねん？」 「…」 （……？） こいつの視線…。 いぶかしく思っていると、細い指先で俺の顎を少し持ち上げた。 「なんやねん！触んな！」 大声で怒鳴る。

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12． あ、という形でそいつの口が動いてピンときた。 コイツ… 聴こえてへんの？

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13． （……） 何や急に冷めてもうて。舌打ちして立ち去ろうとしたときソイツが腕を掴んだ。 「んあ？」 鞄の中をごそごそあさって紙袋に入った何かを差し出す。 「、」 真新しいヘッドホンと コードを引きちぎるジェスチャー。 クソガキは頭を下げた。

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14． （ごめんなさい） pic.twitter.com/BZzM6GhZUM

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15． ＊＊ 「…、」 ガキからヘッドホンをひったくる （！！） 「んぁ～これ使えへんわ」 あの日コイツがやったようにコードを引きちぎって、足元に棄てた。 pic.twitter.com/EqPw3CKxOE

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16. ＊＊＊ 「お前…、」 パチンコを出たところにあの日のクソガキが立っとった。 「何か用か」 （、） 何食わぬ顔でまた紙袋を差し出す。 「ぁあ？！」 初めて会ったときと同じ、まっすぐな目。 それは俺の凄みが聞こえてへんとかそういうんちゃうくて。

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17. 半ば投げつけるように俺に胸に袋を押し当てると、背を向けて走って行った。 「…、」 『チンピラさんの』 紙袋に書かれた丸っこい文字。そのすぐわきにさくらんぼマーク。 そんまま放り捨てようとして手を止めた。

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18. そーいや、あのガキの鞄にぶら下がっとたんもさくらんぼやったな。 紙袋を開ける。 “コードレス”のヘッドホンが入っていた。

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19. ＊＊ （なんやねん、アイツ） このまま使うのも癪やし、黙って捨てんのもおもんない。 （チッ、） 袋を脇に抱えて歩き出す。 （………） つけられとる。 誰や。 一人でブラブラしとると、おもしろ思わん輩が寄ってくる。 意味はない。

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20. 俺もそいつらもうっぷん晴らしをしたいだけ。 ヤるもヤラレるもどっちでもええ。 何でもええ。 どうでもええ。 潰れた工場に入った。

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21. ＊＊＊ 「何や、」 振り返ってガン飛ばす。 「お前どこのもんや」 「答えなアカンの？」 「エラい威勢ええのぉ」 砂利を踏む音。 何人おんねん。 囲まれた。 pic.twitter.com/VtpQVa19qp

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22. ＊＊ （ヤバいのかもな） 殴られ蹴られしとるうち、ガードすんのも面倒になった。 「助け呼ぶかぁ？」 「ペッッ、」 唾を吐いたときだった。 「お前何してん！」 後ろのほうから怒鳴り声がする。 と同時にツンと鼻を刺す刺激臭。

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23. （アイツ、） 鞄に揺れるさくらんぼ。ガキはコンビニの袋いっぱいに入った液体を男らにぶちまけた。 俺のポケットから落ちたライターを拾う。 「！！」 片手で火を灯すと、もう一方の手で新しい瓶の蓋を開けた。 「やめろっ！引け！」 蜘蛛の子散らしたみたいに逃げ去る。

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24. 姿が見えなくなると、ガキは放心したようにペタンと座り込んだ。 「貸せ！！」 ガキの手からライターを奪う。 「お前、何撒いてん！」 足元に転がった小瓶。 “ネイルリムーバー” マジ…か。 pic.twitter.com/nz1VgR0zsF

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25. ＊＊ （これをこうやって…、） 小瓶の液体を袋に移すジェスチャー。 さくらんぼのノートにペンを走らす。 （さっきね、100均で買いだめしてたんだ） 「、」 （うまくいったね！） 「…お前。何しに来てん」 あ、ハッとした顔でヘッドホンを差し出す。