脳髄パフェ#1 甘くて冷たいものを食べよう◆2
_偶然訪れたカフェ『月面跳梁』。はたしてその内装は……感心するほど清潔感に満ち溢れていた。青白い照明は高価な光源装置を利用している。空調も背筋が寒くなるほど効いていた。これらの設備を回すには大きなエンジンが必要である。微かな振動。地下にあるであろう機関室の気配。 11
2016-10-14 20:17:16_店内を見渡しながらボックス席に座る。他の客は誰もいなかった。店内は白とグレーのモノトーンで統一されており、所々にアクセントの赤や緑がワンポイントで入っている。近代的で洒落た内装だ。メニューを見る。 『本日のオススメ【脳髄パフェ】』 「な、なんだこれは」 12
2016-10-14 20:21:52_ぬるり、とウェイトレスが席にやってくる。 「いかがなさいました?」 「いや、この脳髄パフェって……」 「それはわたくしレミウェが考案した、創作デザートでございます。店長兼店員兼パティシエのわたくしの自信作でございます」 そう言って恭しく礼をする。 13
2016-10-14 20:28:07_カルーは自分の知識と照らし合わせてみる。確かに、脳を食べる料理はある。だが、多くはゲテモノ料理の域を出ない。しかもデザートだというのだ。 (何故だろう、妙に気になる。まるで、このパフェが俺を待っていたようじゃないか) まさに、彼が切望した甘くて冷たいものだ。 14
2016-10-14 20:34:56「ちなみに、何の脳を使うんだ?」 レミウェは鎌のように笑って言う。 「あなたの脳を冷やして、クールにするパフェでございますよ」 (なんだ、脳髄というのは比喩か) 「クールにねぇ。お手並み拝見といこうかな」 「畏まりました。脳髄パフェ一つ、でございますね」 15
2016-10-14 20:40:27「ああ、頼むよ」 「では、失礼します」 次の瞬間、レミウェはカルーの頭を掴むと、何の造作もなくパカッと彼の頭を開いたのだ。 「え……?」 脳が外気に触れている感覚がする。レミウェはむんず、と脳をカルーの頭蓋から取り出した。 16
2016-10-14 20:45:39「では、しばらくお待ちくださいませ」 カルーの目に映ったのは、まるで肉塊か何かを持つように、カルーの脳を持ってキッチンへと去っていくレミウェの後ろ姿だった。 「ま、まて、俺の脳……」 立ち上がる。頭が軽い。ふらふらする。思考がまとまらない! 17
2016-10-14 20:50:23_脳のなくなった頭で何が起きているか考えを纏める。血は出ていない。心臓も動いている。ただ、脳だけを奪われた。 「これは……魔法使いだ」 魔法の力を持ち、その力でもって市民を容易く傷つけ、蹂躙し、何もかも奪っていく。それが魔法使い! 「魔法使いの餌にされたんだ」 18
2016-10-14 20:55:19_確かに、怒りの感情は消えた。弱音や愚痴も消えた。思考がみるみる冷えていく。冷たく、平らになっていく。 「いやだ……心がなくなっていく……」 あれだけ自分の心の小ささを感じていたのに。 「どれだけ心が小さくても、無いよりはましだ」 フラフラとキッチンに入る。 19
2016-10-14 21:00:32_やはり白く清潔感にあふれたキッチンだった。ただ、レミウェの姿はなく、耳が痛いほど静まり返っている。壁には大型冷蔵庫。 「ここにある気がする」 カルーのなくなったはずの脳が疼いた気がした。そして、冷蔵庫の扉に手をかける……。 20
2016-10-14 21:03:57【用語解説】 【冷蔵庫】 冷蔵技術は保存用として発展を遂げたが、冷蔵輸送技術が全く発展しなかったため便利な貯蔵庫の域を出なかった。理由は冷蔵庫を稼働させるには冷気の魔法を起動させる巨大なエンジンが必要であり、蒸気車に搭載すると荷物を入れるスペースが無くなってしまうからである
2016-10-14 21:09:51