脳髄パフェ#2 甘味の向こうへ◆1

売れもしないチケットを売ろうとしている。歌手の幼馴染のためにチケットを売る男。疲れた心を休ませようとあるカフェを訪れる。そこで目にしたのは、「脳髄パフェ」というメニューだった。 全50ツイート予定 最初↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_脳髄パフェ#2 甘味の向こうへ◆1

2016-10-16 20:19:28
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「苦しみを、辛さを、欲望を……わたくしは全て甘味に変えることができます」  鎌のように笑ってカルーの頬を撫でる。カルーは視線をそらして下を見た。巨大な光の粒の銀河が、暗黒の宇宙に渦巻いている。風で飛ばされそうだ。渡り鳥の群れが何食わぬ顔で飛びすぎていく。 31

2016-10-16 20:22:27
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_そして何か岩山のようなものが猛スピードで飛来する。それは巨大な冷蔵庫の塊だった。絡み合うパイプ、銀色の無機質な扉。冷気を彗星の尾のように纏い現れたそれは、レミウェとカルーの目の前に急停止した。  暴風に翻弄されるカルー。レミウェは静かに冷蔵庫の扉に手をかける。 32

2016-10-16 20:28:01
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「あなたの脳に染み付いた毒、目をそらさずに御覧なさい」  そう言って冷蔵庫をゆっくりと開くレミウェ。そこから漏れ出した言葉は、確かにカルーの声だった。 『あいつの歌はそれほど大したものじゃないのに、いつまで夢を見ているんだ』  カルーはぶるぶると震えて冷蔵庫の中を見た。 33

2016-10-16 20:33:19
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_溢れんばかりの巨大な脳が詰まっている。表面から露のように蜜が滲んでいた。レミウェがそれをスプーンですくい、味見をする。 「素晴らしい甘みですよ。最高のシロップですね」 「もう素材は手に入ったんだろう……」  カルーは目を伏せた。 34

2016-10-16 20:37:34
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「俺は醜くていい、小さくていいんだ……俺を追い詰めないでくれ。俺は魔法使いじゃない。小さな人間には苦しみを甘味に変えることができないんだ」 「甘味は作れなくともすることがあるでしょう。パフェを食べるんですよ」 「パフェ? パフェって……」 「お客様、注文をお忘れですか?」 35

2016-10-16 20:43:32
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_レミウェは大きく冷蔵庫の扉を開け放つ! そこから甘い香りと、冷たい冷気が零れ落ちる。レミウェは笑った。 「わたくしはパティシェ。料理を作るのが仕事です。そして、料理を食べるのは……お客様の仕事です。お客様が料理を食べなくて誰が食べるんです?」 36

2016-10-16 20:50:45
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_どこからともなくグラスを取り出したレミウェは、スプーンで冷蔵庫の中の巨大な脳をすくう。そしてペタペタとグラスに盛り付ける。幼稚園児の工作のように無造作な手つきだったが、出来上がりは完璧なパフェになっていた。無いはずの果物やフレークまで完璧に。 37

2016-10-16 20:55:07
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_パフェを空中に置き、一度カルーを持ち上げて下ろすレミウェ。彼はいつの間にか椅子に座ってテーブルの上のパフェを眺めていた。ごくりと喉を鳴らす。魔法使いの作った料理だ。何が起こるか分からない。それでも。 「そこまで言うなら、楽しませてもらうぞ」  意を決しパフェを食べる。 38

2016-10-16 21:00:24
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_舌が凍る感触がした。冷気が喉奥を駆け抜け、背筋を走っていく。目の奥が凍り付く。凍った舌がバラバラに砕け散り、頭が破裂した。身体の末端まで連鎖的に砕けていく。レミウェは笑っている。三日月のように、鎌のように鋭く。  そして恭しく礼をする。 39

2016-10-16 21:02:31
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_粉々に砕けた身体の破片が沈んでいき、眼下の銀河に交じっていく。 (ああ、冷たい。凍り付くようだ。けれども落ち着く。これは俺自身の冷たさか。しかし、案外心地よいものだな……)  そして最後に感じたのは……強烈な甘みだった。 40

2016-10-16 21:09:20
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_脳髄パフェ#2 甘味の向こうへ ◆1終わり ◆2(最終回)へつづく

2016-10-16 21:11:41
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【用語解説】 【銀河】 夜空に見える光の粒の塊。この減衰世界は巨大暗黒神≪枢禍≫が吐いた輝く息が渦となって彼女の周りに纏わりついている。その枢禍を中心とした光の粒の渦を銀河と呼ぶ。人類帝国のある聖跡宮と呼ばれる世界は銀河の光の粒の一つであり、やがて枢禍に吸い込まれて滅びるとされた

2016-10-17 16:40:03