#ぴくめす とりあえず数百匹のオークがまず泡立つ水面の下に消えるのだ。 船をも飲み込む大蛇のような触手が何本も何本もあらわれて、吸盤で舷に張り付き、船材ごと乗員むしりとる。
2016-10-19 00:11:30#ぴくめす 次の日から素潜りの特訓を始める。 「ぐぐぐ…海女(あま)の中には四半刻(しはんどき)ほども息を止められるものもいると聞く。わしも身につけねば」
2016-10-19 00:14:57#ぴくめす ただしとてつもない大きさで、緑の鱗におおわれ、水かきと背鰭を持つ姿はいかにもおぞましい。 だが嵐とともに解き放つ叫びが、風をねじまげ、潮を変え、人知を超えた力で船を招き寄せるのだ。
2016-10-19 00:22:08#ぴくめす 怪物にとっては死体を食べるただそれだけが外界と接する手段だから。 生きて島にたどりつくものはいない。住処の島の周囲は鋸のようにとがった岩礁が取り囲んでいる。
2016-10-19 00:25:24#ぴくめす 岩礁を一歩出ればあまりにも深い海で。怪物には泳ぎ渡れない。記憶もさかのぼれないほど昔に島に捨てられて以来、 唯一の居場所で、牢獄なのだ。海鳥がどこへゆくのか、水平線に浮かぶ蜃気楼にはどんな意味があるのかさえ、知りようもない。
2016-10-19 00:27:48#ぴくめす 不死の怪物は年ごとに大きくなり、ますます狭い島は窮屈になり、飢えは身をさいなみ、餌であり便りである難破船を呼ぶ嵐を待ち焦がれるばかり。
2016-10-19 00:28:25#ぴくめす 怪物を退治して死という解放を与えてくれる英雄さえたどり着けない。岩礁は鉄壁の防御。峻嶮な城壁。そして出ること能わぬ塀。
2016-10-19 00:29:44#ぴくめす だがある大潮の晩。とりわけ大きな時化のあとで、奇妙な船が流れ着く。乗り組んでいたのはこれまで見たこともない種族。くさく、きたなく、肉はすじばって硬く、骨は太く、とにかくまずい。
2016-10-19 00:30:53#ぴくめす 腹を空かせた怪物は、悲しさに涙をこぼし、低く嗚咽しながらひさしぶりの食事をする。ひとくちかじっては、鼻をならし、がまんしきれず吐き戻しもした。
2016-10-19 00:32:17#ぴくめす 少しずつ味に慣れて、ようやく一体を胃に収めきったところで、屍のあいだにまだかすかに動くものがあるのを知る。鼠だろうか。 鼠なら前に死にぞこないを一匹見かけた記憶があるのだった。すぐに事切れたが
2016-10-19 00:33:43#ぴくめす 怪物が腕を伸ばして引きずりあげると、沢山の腕輪や足環をつけ、全身を刺青でおおった壮年のオークが目の前にあらわれる。といってその姿が何を意味するのか知りようはない
2016-10-19 00:35:00#ぴくめす 怪物はふくらんだ喉から悲鳴をほとばしらせて、生きたオークを放り出し、巨躯を飛び上がらせると、いちもくさんに逃げた。 生きたもの、しゃべるもの、あらためてそばにいるととてつもなく恐ろしかったのだ
2016-10-19 00:36:53#ぴくめす オークは、食事のために積み上げてあった死体の山にぶつかって転がり落ち、 うめいてから、のろのろと立ち上がる。 「ぐぐぐ…思い出せぬ…不覚…」 腕輪、足環を打ち鳴らしながら、あてどもなく島をさまよい始める
2016-10-19 00:38:22