サンズ・オブ・ケオス #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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リンク note(ノート) 第4部本編「エイジ・オブ・マッポーカリプス」より、第3話【サンズ・オブ・ケオス】 | ダイハードテイルズ・マガジン | note ダイハードテイルズ・マガジンの限定公開ノート | 2016-11-03 14:35:13 +0900
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

◆ビルは路地の突き当り。一階はチェーン店のドンブリ・ポン。どうやら閉店して放置の有様。まるで廃墟だがメイレインは気にせず店の脇の通用口に入っていく。「追う」ニンジャスレイヤーは呟いた。『忘れるな』タキが強調した。『特にサンズ・オブ・ケオスの情報だ。絶対…』通信が不意に遮断した。◆

2016-10-28 22:24:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ソウカイ・シンジケートのクロス・カタナの御紋を背負っているとはいえ所詮は下っ端、ケチなゴロツキに過ぎなかったメイレインの世界は、あの日の出来事以来、まるきり眩く輝き、美しい高揚で満たされていた。

2016-10-28 22:28:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

神秘だ。そう、まるきりそれは神秘体験と言うにふさわしかった。その者は、否、そのお方は、フードを目深にかぶり、畏れ多きその顔をメイレインに見せる事は無かった。彼はメイレインの前に立ち、その衣の胸元を開いた。するとそこには胸板ではなく深淵があった。

2016-10-28 22:34:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

導かれるまま、メイレインは右手を深淵に挿し入れた。彼の右手は、掴み、獲得した。「美」と接続し、力を得たのだ。(お前の名前……何だったか……)(メイレインです)(そうか、メイレインというのか。メイレイン=サン)メイレインは涙を滂沱と流していた。(ありがとうございます……!)

2016-10-28 22:43:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(何の礼だ、メイレイン=サン)(この力……嗚呼……いったい何を対価とすれば。魂ですか?)(MWAHAHAHAHAHA!MWAHAHAHAHAHA!)フードの下で、彼は心底おかしそうに笑った。(魂!BWAHAHAHAHAHA!オカシイ!俺が何故そんなものを欲しがる。何もいらない)

2016-10-28 22:47:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

右腕を引き抜くと、「快」の感情がメイレインの脳天を貫いた。彼は仰け反り、震えた。(嗚呼……!)(ガンバレ、メイレイン=サン)(何を……?)(知らんよ)瞬きすると、彼は背を向けており、既にタタミ五枚ほど離れていた。(貴方の名前を……)(俺の?)(御名前を)(サツガイ)

2016-10-28 22:53:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

以来、すべてが美しい。ドブ水の臭いは美しい。表面の油膜は美しい。腐乱死体に湧く虫は美しい。殺しは美しい。死んでゆく人間が美しい。なかでも己自身は宝石のように美しかった。そして、「宝石」は自分一人ではなかった。ただ感じる事が出来た。ネオサイタマ。世界。共有できる仲間を感じた。

2016-10-28 22:59:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

思えば、かつての己は他者を羨み、妬むばかりの存在だった。ニンジャとなって常人をはるかに勝る力を得てからも、彼の境遇はさして変わらなかった。世界の裏側のレイヤーにはニンジャが既に溢れており、メイレインよりもよほど価値があるように思えた。サンシタはどこまでいってもサンシタだ。

2016-10-28 23:03:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

だが今は違う。彼はサツガイに選ばれた。そして世界には彼同様にサツガイに祝福された恵まれたニンジャが居る事を知っている。彼らを結ぶのがサンズ・オブ・ケオスだ。ナハトローニンの反応はメイレインには信じがたい。ナハトローニンはメイレインの差し伸べた手を拒絶した。理解しがたい。

2016-10-28 23:08:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー……」階数表示。この廃れたビルの5階に彼らの「礼拝堂」はある。今このとき、同胞たちの存在は感じない。誰もが戻りたいときに戻るだけだ。そして「礼拝堂」はここでなくとも構わない。上昇するエレベータ内で、瞑想的に思考は巡る。この上昇の感覚すら美しく心地よい……(イヤーッ!)

2016-10-28 23:14:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

声は足元はるか下から聴こえた。反射的にメイレインは跳び下がり、エレベータの壁に背中をつけた。床の中央付近が隆起し、裂け、錨、あるいは鏃めいた、鋭利ななにかが飛び出した。それはまるで爪のように金属の刃で床を噛んだ。ギギッ……ゴギギギギ。軋み音が鳴り、エレベータが震動した。

2016-10-28 23:17:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何だ!?」メイレインは身構えた。上昇が停止し、衝撃に呻く。床が下に向かってひしゃげ始めた。鉤爪が引っ張っているのだ。「これは」メイレインは目を見開く。どうやらそれはフック状のなにかである。彼のニンジャ第六感は、このまま放置すれば何が起こるかを予感として伝えてくる。極めて危険だ。

2016-10-28 23:21:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

鋼のロープは異様な熱を持っていると見えて、接触部周囲の空気が歪み、ひしゃげた床がブスブスと黒ずみ始めた。「イヤーッ!」今度ははっきりと聞こえた。KRAAASH!床が裂けた。「グワーッ!」メイレインは否応なしに下へ零れ落ちる!彼は側壁の凹凸に反射的に手をかけ、危うくぶら下がった。

2016-10-28 23:25:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(何が……?何が?)メイレインの鼓動が速まる。彼は首を巡らし、エレベータ・シャフトの下に目を凝らした。赤黒の眼光が見返した。メイレインは己に向けられた剥き出しの殺意に打たれた。まごついてはおられぬ。彼は四階のエレベータ用扉を振り子の勢いをつけた蹴りで破り、フロアに進入した。

2016-10-28 23:29:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この雑居ビルに他の住人は無い。棲みついていた連中はあらかた彼と他の何人かで殺して奇麗にした。そしてプライバシーを守るべく、第三者によるIRC監視対策ユニットもひときわ強力なものを導入してある。(とにかく5階だ)メイレインは廊下を走り出した。(非常階段から5階に上がり、礼拝堂へ)

2016-10-28 23:35:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そしてUNIXにアクセスし、他の仲間に異状を伝えるべし。闇社会の住人である以上、命を狙われる謂れは一つ二つある。常に覚悟し備えてきた。なによりサツガイに与えられた力があり、美に護られている。メイレインは屋外非常階段へ飛び出す。すると、ガン!ガンガンガン!下から駆けあがって来る音。

2016-10-28 23:39:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「来たな」メイレインは呟き、階段を駆け上がった。ガンガンガンガンガン……二者の足音が鉄の非常階段をうるさく鳴らす。下の音は疑いようもなくメイレインを追跡してきている。「おお、サツガイ=サン……!同胞たちよ……!」走りながらメイレインは祈る……。

2016-10-28 23:45:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは非常階段を五階まで上がり切り、逃げるメイレインの影を追って屋内へ走り込んだ。前方左手で、音を立ててシャッターフスマが閉じられたところだった。全力疾走の勢いをスライディングでブレーキし、一切の躊躇なしにシャッターフスマに蹴りを見舞った。

2016-10-28 23:49:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KRAAASH……シャッターフスマは鉄屑と化して室内を撥ね跳び、無数の白い羽根が、奥の窓から入り込む光の中を舞った。ミーティング・ホールめいた広い室内を、数羽のバイオ鳩が狂ったように飛び回っていた。踏み込んだニンジャスレイヤーの死角からレーザークナイが襲い来た。「イヤーッ!」

2016-10-28 23:53:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはこの種のアンブッシュ(奇襲)が来ることを事前に織り込んでいた。ゆえに彼のニューロンと身体は極めて速く反応した。「グワーッ!」呻き声をあげ、レーザークナイを取り落したのはメイレインだった。間髪入れず、ニンジャスレイヤーはケリ・キックを見舞った。「グワーッ!」

2016-10-28 23:57:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

メイレインは床をバウンドし、観葉植物を薙ぎ倒し、壁の聖画の額を砕いた。ニンジャスレイヤーはオジギを繰り出した。「ドーモ。メイレイン=サン。ニンジャスレイヤーです」「ゴボッ」舞い散る羽根の中、メイレインは咳き込み、そしてアイサツを返した。「……メイレインです。何者……なぜ俺を」

2016-10-28 23:59:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サツガイという男を知っているか」ニンジャスレイヤーは問うた。「ハーッ……」メイレインは息を吐き、カラテを構えなおした。「サツガイ……知る……?知るとは何か?それは哲学的な問いではないかね?」彼は喉を鳴らして笑った。「そんなおこがましい事はとても言えんよ……俺は無知を知る」

2016-10-29 00:03:21