【慈愛の騎士】

愛は時に剣よりも強力な武器となる
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雪花艦隊英雄伝 @DD_LUNAKICHI

ある秋のこと。雪花艦隊のプリンツ・オイゲンは瑠奈花に休暇を申請し、U-511と共に祖国ドイツへ帰国した。理由は一つ。プリンツの父クラウス・オイゲンが新たに設立されたオイゲン騎士団の団長となった知らせを聞いたためだ。U-511も祖国で戦う旧友に会いに行くついでにと誘いを了承した。

2016-11-03 22:58:33
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「ママ!ただいまー!」帰宅したプリンツは勢いよく屋敷の戸を開けた。U-511もおどおどとそれに続く。母、シンディと昔一悶着あった黒剣が吹き抜けで2人を迎えた。 「おかえりプリンツ。そっちの子はお友達?」「うん、同じドイツの艦娘よ!」「U-511です」

2016-11-03 22:59:38
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「あらそうなの。せっかくだから夕御飯食べていきなさいな」「やった!ママの料理は美味しいよ!」「ありがとうございます」 シンディは2人をリビングに案内し、夕食を振舞った。食卓でプリンツは、シンディに雪花艦隊での出来事を話した。

2016-11-03 23:01:47
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「…それでね、鹿屋基地の蛮ぞ…リカルド提督もハンターで、ビスマルク姉さまに勝手に秘密をバラしちゃったのよ!信じられないでしょ!?」「あらそう…クラウス以外にもハンターがいたのね。それでどうしたの?」「えっ」プリンツのナイフを動かす手が止まる。

2016-11-03 23:02:43
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「え、えっと、リカルド提督とは厳正なる話し合いを…」「確かプリンツさん、怒りに任せて決闘を仕掛けに行きましたよね」「ぶっ!」プリンツは思わず吹き出した。U-511は大人しいが、少々天然が入っているところがある。 「へえ、決闘ねえ。それで?」シンディは笑顔で問うた。

2016-11-03 23:03:57
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「そ、それは」「ボロ負けしたと聞きました」プリンツの顔が引き攣る。U-511は言葉選びにも容赦がない。 「ボロ負け…ね」シンディの笑顔は崩れない。それが逆にプリンツの恐怖を煽った。「訓練が足りなかったかしらね?」シンディは指をポキポキと鳴らして言った。

2016-11-03 23:04:55
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「そ、それよりパパはどこ?」身の危険を感じたプリンツは慌てて話題をすり替えた。U-511をチラッと見ると、澄まし顔でスープを飲んでいる。無自覚というのもある意味恐ろしいものだ。 「言ったでしょ?クラウスは騎士団の団長になったのよ」シンディはスープのおかわりをプリンツに振る舞う。

2016-11-03 23:06:21
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「クラウスなら聖堂にいるわ。明日訪ねてごらんなさい」

2016-11-03 23:08:56
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翌日。自宅を出たプリンツは、ドイツ海軍の仲間に会いに行くというU-511と一時的に別れ、バスを乗り継ぎベルリン大聖堂に向かった。父との再会を心待ちにしながら、プリンツは久しぶりの祖国の街並みに想いを馳せた。

2016-11-03 23:10:37
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聖堂に到着したプリンツは、ゆっくりとその中に足を踏み入れる。聖堂の中には礼拝に来た一般人に混じり、黒い鎧と赤いマントを着た人々が散見された。(この鎧の人たちが騎士団の人かな)暫く見渡していると、その中に見知った顔を見つけた。

2016-11-03 23:11:05
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「あ、パパ!」聖堂の中ということで、プリンツは声のトーンを抑えつつ父を呼んだ。プリンツの父クラウスは同僚の騎士達と何かを話しているところだった。 「おおプリンツ。シンディには会ったのか?」「うん、昨日帰ってきたの」「そうだったか。うむ、暫く見ないうちに逞しくなったな」

2016-11-03 23:11:48
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「団長、お子さんですか?」隣にいた騎士が尋ねる。「娘のプリンツ。艦娘だ。今は日本で戦っているんだ」プリンツは2人の騎士に丁寧にお辞儀をした。 「パパは今何をしてるの?」「私はこの騎士団を人々のために使いたくてね。今は市街のパトロールなんかをやっている」

2016-11-03 23:12:39
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「将来的には海軍との連携も考えていてね。今その段取りを進めている最中だ。とりあえず、先程言った通りに頼むよ」クラウスはそう言いながら、騎士達に指示を出した。 「せっかくだから食事でもどうだ。ここの食堂は美味いぞ」「それは楽しみね!」

2016-11-03 23:13:10
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クラウスによれば、ベルリン大聖堂の敷地の一角に宿舎が建てられ、そこが騎士団の活動拠点になっているらしい。 「本当に団長なんだねパパ。慕われてるって感じ」食堂に向かう途中、クラウスは何人もの騎士達に挨拶されていた。

2016-11-03 23:13:56
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「騎士の仲間達に推薦されて団長になったんだ。この歳で騎士団として働くことなどないと思ったが、思ったよりも悪くないよ」「やだ、おじさんみたいw」 他愛ない会話を交わしながら、2人は昼食のソーセージをつまむ。会話はやがて、日本での話に移っていった。

2016-11-03 23:14:32
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「それでその蛮ぞ…リカルド・ベレンゲルって人もハンターだったんだけど、パパ知ってる?」「リカルド・ベレンゲル…いや、知らないな」「知らないの?同じ世界のハンターなのに」「この世界と違って、高度な通信機器やインターネットが発達してるわけではないからね」

2016-11-03 23:15:25
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「例えば私はポッケという小さな村の出身だが、住む大陸が違うだけでも知らないことばかりだ。彼はどこの出身だかわかるかい?」「えーと…聞いたような気もするけど、覚えてないや」リカルドのことはビスマルクからなんとなく聞いたことがあったが、あまり記憶に残ってはいない。

2016-11-03 23:16:22
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誤解は解けたとはいえ、プリンツにとってリカルドは憧れのお姉さまを寝取った不埒者というイメージが強く残っている。そんな男の記憶など長く残しておくものか。誤解とはいえ。いや、誤解だとわかれば尚更だ。 「そうか。いずれ機会があれば話をしてみたいものだな」

2016-11-03 23:17:25
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「それなら、うちのアドミラルにも是非会ってもらいたいわ」プリンツは自慢げに瑠奈花の名を引き合いに出した。「あの人は本当にすごいんだから」 「そういえばその瑠奈花殿とやらも騎士と呼ばれているのだったか?」「そう、天秤司る調和の騎士!」

2016-11-03 23:18:49
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「でもどちらかというと、彼は「英雄」とか「剣聖」とかって呼ばれることの方が多いかな」「それはますます会いたくなってきたぞ。お前が迷惑かけてないかどうかも知りたいしな」「もう!」 会話が弾んだところで食事を済ませ、クラウスとプリンツは再び大聖堂へ向かう。

2016-11-03 23:20:29
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「それにしても、パパは騎士団長。ビスマルク姉さまは鉄血騎士、そしてアドミラルは調和の騎士かあ」プリンツは空を仰いでボソりと呟いた。 「どうした?」「みんな恰好いい称号があるじゃない?私にも何か欲しいなあって」「お前も騎士の称号は持ってるじゃないか」

2016-11-03 23:21:04
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「そうだけど、なんていうかこう…」プリンツはふと、遠くを歩くオイゲン騎士団の女性団員を見つけた。「ああ、栄光のオイゲン騎士団の一員にして団長の娘っていうのもなかなか…制服もかっこいいし♪」黒を基調とした制服に赤いマントを身に付けるビスマルクを想像して、プリンツはにやけた。

2016-11-03 23:21:55
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「ねえパパ!私も騎士団の一員にして!私もあの制服着たい!」プリンツは目を輝かせてクラウスを見た。 「残念だがそれはダメだな。彼らは皆試験を乗り越えて騎士団の一員になった。プリンツも騎士団に入りたいなら平等に試験を受けて貰わねばな」

2016-11-03 23:23:17
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「上等よ!艦娘を舐めないで!」プリンツはガッツポーズを決めて意気込みをアピールした。「おお、意外とやる気だな」クラウスは感心した。「コネでなんとかして、とか言うと思ったが」「え、私ってそんなワガママな子だったっけ…?」

2016-11-03 23:24:42