アセイルド・ドージョー #7
「フジキド」ユカノはメンポ・オブ・ドミネイションを受け取り、下ろした。弱々しく微笑んだ。「わたしの不甲斐なさゆえに、世話をかけましたね」「どうという事はない」フジキドは頷いた。「ゴウランガ……」タイセンは涙を拭った。黒雲が去り、美しい水色の空が広がった。 21
2016-12-17 23:30:44彼女は石にされながらなお、ロウ・ワンの呪いの力に抗い続けていた。己の内なるチャドーによって。「神器を手にするまでにいかなる冒険を?」冗談めかしてユカノが言った。精一杯の陽気である。「次はヌンチャクだ」フジキドが答えた。「レッドドラゴンとやらから取り返す。ワラキアだったな」 22
2016-12-17 23:37:27「フジキド。そこまでの骨折りは……そなたは今やドラゴン・ドージョーの内弟子ではなく、わたしが問題を解決するべきで……」「このドージョーを育てねばなるまい。ドラゴン=センセイ」フジキドが言った。ユカノは食い下がった。「レッドドラゴンは即ちブラド・ニンジャ。大変に手ごわい者です」23
2016-12-17 23:44:40「方法がある筈だ」フジキドは穏やかに、だが決断的に言った。ユカノは肩を落とした。「わかりました。命を捨てる真似は、なりませんよ」「心得ている」「フジキド=サン……俺が、もっともっと強ければ」タイセンが歯噛みした。「オヌシは強い。精進せよ」フジキドは言った。 24
2016-12-17 23:49:25「心苦しいですが、頼みます。フジキド」ユカノが言った。「神器は万が一の時に、カツ・ワンソーへの数少ない対抗手段となる筈のもの。平時にあって、極力、散逸を避けるべきものなのです」「任せておけ」とフジキド。そして……そのとき彼がふと思いを馳せたのは、ワラキアの地ではなかった。25
2016-12-17 23:55:14ヨグヤカルタの地で出遭った赤黒のニンジャ。ニンジャスレイヤー。あれが間違いなくニンジャスレイヤーそのものであると、当然、彼にはひと目でわかった。そして彼のニューロンにフラッシュバックするのは、ずっと昔の記憶だ。ドラゴン・ゲンドーソーの存在無くば、フジキドは悪鬼となり果て……。26
2016-12-18 00:00:21フジキドはセンセイではない。だが彼はニンジャスレイヤーがもたらすものを誰よりも知る存在だ。やがて迫られるのは、いかなる選択か。「ユカノ。通信手段を借りられるか」彼は建物の側のワータヌキ像を指さした。ワータヌキの頭にIRC通信機が設置されている。「構いませんが……どうしました」27
2016-12-18 00:06:00「ニンジャスレイヤーをこの目で見た。ヨグヤカルタの地で」「なんと!?」ユカノが目を見開いた。フジキドは続けた。「ただの一目だ。その為にヌンチャクの件を先延べする事はできぬ。しかし看過は到底できぬ。さいわい、信頼に足る相手はいる」彼はワータヌキ像のもとへ歩いた。 28
2016-12-18 00:09:45岡山県の山頂ゆえか、通信の確立には時間を要した。だが無事に繋がった。「モシモシ」女の声が応えた。「アー……モシモシ?」「モシモシ。聞こえるか。フジキドです」「声が遠い……フジキド=サン……え!?フジキド=サン?そこ、どこッスか?ドーモ、シキベです。そこ、どこです?」 29
2016-12-18 00:15:54ヨグヤカルタの最高級料亭「ペラサーン・スカ・シータ」は、先日、政府高官とコウ・タイ・シュメイ社エージェントの暗殺事件の舞台となったばかり。それから諸々の後始末をつけ、営業再開にこぎつけた矢先の出来事であった。客。従業員。警備員。一人を除き全ての者が命を奪われ、横たわる。 31
2016-12-18 00:25:08「ンッ……ンンーッ……さて始めるか」リラックスした様子で庭に進み出、伸びをしたニンジャの両手は真っ赤だった。彼がすべての者を殺めたのだ。調べものをするのに邪魔だからだ。彼は首をボキボキと鳴らし、おもむろにその場にしゃがみ込んだ。地面に手を触れ、ニューロンを輝かせた。 32
2016-12-18 00:29:31ジツが開始された。完成には多少の時間を要する。高級料亭の庭でこんなことをやっていれば見咎められ、カロウシタイを呼ばれるなり、面倒に巻き込まれてしまう。その点、全員死体になっていれば人目を気にする必要もない。この開放感はジツのコンセントレーションにもってこいだ。 33
2016-12-18 00:31:53「ンンー……来たか」やがて彼は立ち上がった。庭には奇妙なビジョンが焼きついている。人型の輪郭をもった複数の砂嵐ノイズだ。それら一つ一つがストップモーションめいている。カラテのストップモーションだ。「おお、ロングゲイト=サン。ここか」バンブー林付近の姿に眉をひそめる。「サラバ」34
2016-12-18 00:34:47彼は庭を歩き回った。ロングゲイトと戦闘する者の存在痕跡を、彼は吟味した。「アラバマオトシ……フーン……破られて……残念な事だ」彼は一際強く精神集中した。じわりじわりと輪郭が定まり、その者の名が浮かび上がった。「ニンジャスレイヤー……というのか」彼は呟いた。「成る程な」 35
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