【TSF:憑依】退屈な浮遊霊 ~ [食]

勢いのままに殴り綴った小説風のなにか。 浮遊霊が女性に憑依してグルメレポートします。 何を言ってるんだかよく分からねぇのです。
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九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 正午、ジングルやチャイム、サイレンの音が町中でに広がる。 それらは人々に「昼休憩の時間が来た」という事を、幾らか申し訳なさそうに伝えている。 さて、僕もそろそろ昼食にするとしよう。 尤も、何かを食べる必要のある身体では無いのだけれど。 僕は壁を抜け、町へと向かう事にした。

2017-01-07 03:38:12
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ お察しの通り、僕は幽霊だ。 壁を抜けては宙を飛び、人に乗り移ったりもする。 極めて善良な、人間由来の透明な生き物さ。 どうしてこうなったのかは思い出せないけど。 まあ、気楽に毎日過ごしてるのさ。

2017-01-07 03:38:40
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 僕は楽しみにしている事がある。それがこのランチタイムだ。 幽霊がモノを食べるのかって? もちろんそんな筈はないさ。 つまり、食事中の人間に憑依して、美味しい素敵なランチを楽しもう、って寸法さ!

2017-01-07 03:38:53
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ さて、今日は"誰"で何を食べようか。 味の薄い高級品は少し飽きてきたから、リーズナブルでジャンクな大衆料理かな? それとも…… そんな風に考えていると、僕は飲食店街のはずれにある一件の店が目についた。 ――パンケーキ屋さん……?

2017-01-07 03:39:37
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 予定とは大分違うが、 こういう店に入ってみるのも悪くない。 見たところお客の数はほどほどだし、 憑依する相手にも困ることはなさそうだ。 よし、今日はこの店にしよう。

2017-01-07 03:40:06
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 自動ドアを開けることなく、すり抜けて入店する。 もちろん、店員が寄ってくることもない。 さてと、誰にしようかな? 店内を見回してみると、一人客もちらほらいるようだ。 その中の一人に視線を向ける。

2017-01-07 03:40:30
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 二人席に一人で座り、向かいの椅子に荷物をおいたままにしている。 そんな若い女性が、パンケーキの写真を撮っているようだ。 女性は眼鏡をかけており、ややフォーマル寄りの服装をしている。 ちょうど良い、この子にしようか。

2017-01-07 03:41:11
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 女性はスマホの画面を注視している。 写真の明暗でも弄っているのだろうか? ともあれ、チャンスには違いない。 僕は彼女の背後から、霊体を一気に滑り込ませる。 女性はブルッと身体を震わせ、目をトロンとさせながら顔を伏せた。

2017-01-07 03:41:27
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 僕は目を覚ます。視界がぼやけている。 ああ、眼鏡が落ちてしまったのかな? 胸元に何か異物感がある。 白い手を伸ばすと、どうやら胸に眼鏡が挟まっていたらしい。 少しのくすぐったさを感じながら眼鏡を取る。 胸が邪魔して見えないが、太ももの辺りにさっきのスマホがあるようだ。

2017-01-07 03:41:42
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 何の違和感もない自然な仕草で眼鏡をかけると、眼前のフワフワしたパンケーキが途端に存在感を増す。 ああ、とても美味しそうだ。

2017-01-07 03:41:56
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ パンケーキにはクリームがふんだんに乗せられており、スライスされた苺や白桃で綺麗に飾られている。そこへ網状にかけられたチョコレートソースがなんとも言えない香りを醸し出す。 ああ、旨そうだ。さて。 「この娘の身体」ならこれをどんな風に味わえるかな?

2017-01-07 03:42:28
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ ナイフとフォークで一部を切り取り、クリームを落とさないように口へ運ぶ。 ……少し大きく切りすぎたか、この娘の口はそれほど大きく開かないらしい。 先端から少しずつ口に含み、なんとか口内に押し込める。 口の端は汚れてしまったが、あとで拭えば良いだろう。

2017-01-07 03:42:48
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 口内のやわらかいふわふわを、噛み締めるように咀嚼する。 まず感じられるのは、フルーツ類の味だ。 抵抗なく噛み砕ける柔らかな食感を越えると、甘い白桃と苺の酸味が絶妙に噛み合って襲ってくる。 間違いなくこの娘は甘党なのだろう。

2017-01-07 03:42:57
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 続いてクリームと生地の味だ。 とろけるようなクリームはやや甘さを控えており、フルーツたちとの調和を乱さない。 それをきめ細やかで弾力のあるやわらかい生地が後押しし、飽きさせない食感を形作る。

2017-01-07 03:43:03
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 忘れてはいけないのがこのチョコレートソースだ。 ややビターな味わいは全体の甘さを整え、一口、もう一口とフォークを出す手を止められなくする役割だろう。 やや苦味が苦手らしいこの娘だが、それでもこの罠から逃れることなど出来ないようだ。

2017-01-07 03:43:11
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 女性は甘味を感じる脳細胞と幸福を感じる脳細胞が極めて近くにあり、またそれらは混線しやすい、という話がある。 この恍惚なほどの多幸感はその為だろうか。 ああ、おいしい。しあわせ。ああ……。

2017-01-07 03:43:52
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ そうして、味と食感を楽んでいると、いよいよ最後の一口となった。 この娘の舌には随分と楽しませてもらった。 だから、最後の一口ぐらいは返してやっても良いだろう。

2017-01-07 03:44:02
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 僕は最後のひと欠片となったパンケーキにフォークを突き立てると、そのまま"わたし"の口元まで持っていく。 ケーキを口の中に入れ、フォークを引き抜いたところで、彼女の身体から抜け出す。 ……ごちそうさま。

2017-01-07 03:44:08
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ 目が覚めた彼女はがっかりするだろうか、それとも、あんまりも夢中になって食べてしまったと感じて恥じらうだろうか。 まあどちらでもいいさ。 もうランチタイムは終わりだ。良しとしよう。

2017-01-07 03:44:25
九重七志@憑依特化 @yorishirosama

◆ そうして僕は、壁をすり抜けて町へと向かう。 ああ、次のランチはどうしようか。 それとも、たまにはディナーを楽しもうか。 退屈な浮遊霊は「食」を求めて町を行く――

2017-01-07 03:44:49