ギフト〜雪をください

レオナ @leo_msk_tdys

1. ほうっと吐き出した息が白い。季節はいつの間にか、もう冬。 12月の東京にはめずらしく、今日は時折、雪もチラついている。 「もー、寒いー」 それでもまだ金色の葉を輝かせているイチョウ並木の間を、独り言を言いながら歩く。 #ギフト #雪をください #エイトで妄想

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2. 寒いのは苦手だ。 だからチェスターコートの下は、厚手のプルオーバーのパーカーとヒートテックのインナー。 ハーフパンツの下には、もちろんヒートテックのレギンス。 それでも、もうすぐクリスマスだというのに、何の予定もないのが寒さを助長する。 #ギフト #雪をください

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3. 「みんな冷たいってー。なんで俺だけ彼女おれへんの？」 今年最後の思い出に、男友達とパーっとやりたかったんやけどなぁ。 みんな彼女と予定があんねんて。 “なんで俺だけ”なんて言ってみたけど、そんなのわかってる。 君を、忘れられへんねん。 #ギフト #雪をください

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4. 「なあ、大倉」 「あ、亮ちゃん。おはよー」 お気に入りのニューエラのキャップを被った亮ちゃんが、眠そうに声をかける。 そのキャップの下は、きっとひどい寝癖なんだろう。 でもそれがまた女心をくすぐるらしく、男前な顔と“ギャップ萌え”らしい。 #ギフト #雪をください

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5. 「おはよ。あのさ、あの子帰って来とるん？」 「…え？」 「昨日、渋谷で見た気がすんねん」 “あの子”ーー2年前に留学した、俺の元カノ。 彼女は自分の帰りを待たないでほしいと言い、俺は彼女の望みをきいて、その背中を見送った。 #ギフト #雪をください

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6. 「あー、そういえば俺も見たで」 「…うそ、すばるくんも？どこで？」 傍らでギターを抱えていたすばるくんが口を挟んだ。 「横浜。こないだストリートやった時歩いとったん、多分そうやと思う」 「横浜…」 それは彼女との思い出のキーワード。 #ギフト #雪をください

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7. 2人とそんな話をしてからずっと、考えるのは彼女のことばかり。 なあ、ホンマに帰って来てるん？ それやったら、その姿を見せてよ。 「俺のこと、好きじゃなかったんかなあ…」 あんなにあっさりと別れて、一粒の涙も見せずに、旅立った君。 #ギフト #雪をください

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8. 2年間、何の連絡もなかった。 たぶん“別れた”ということなのだから、なくて当たり前なのかもしれないけど、そんなに簡単に割り切れるのだろうか。 もう俺のこと、忘れた？ 俺は君を、全然忘れられへんよ。 冷たい風が、胸の奥まで吹き付けるようだった。 #ギフト #雪をください

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9. なんだか気が晴れないまま、一週間が過ぎた。 ウジウジさせたら、俺の右に出る者は、なかなかおらんよな。なんて、自虐的に鼻で笑ってみる。 明日は休み、という日の夕方、ふらりといつもとは違う電車に乗った。 薄暗い窓の外を眺め、静かに想いを馳せた。 #ギフト #雪をください

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10. 彼女との初めてのデートは、横浜やった。 冷たい雨が降る中を、傘を並べて歩いた。 赤レンガ倉庫でビール飲んで、崎陽軒のシウマイとラーメン食べて。 自分を雨女やと言う君に、俺は晴れ男やから大丈夫なんて言って、2人でクスクスと笑った。 #ギフト #雪をください

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11. 冬に横浜行った時は、雪。しかも結構な。 雨女が雪まで降らした、なんて言って、また笑った。 そうやってひとつ思い出すたび、灯がともるように、心が少しずつ暖かくなっていく。 すっかり日は落ちて、暗闇の中を走る電車は、目的地に近づいていた。 #ギフト #雪をください

レオナ @leo_msk_tdys

12. 二人で行ったブックカフェ スパークリングワイン飲んで酔っ払った公園 原作が好きだったあの映画 潮風が君の髪を梳く大さん橋 君の嫌いなものにパクチーが追加された日のランチ 蒸し暑い日のアイスコーヒー #ギフト #雪をください

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13. 今でもたくさん思い出せる。 次々と溢れ出してくる。 全部全部、俺の大切なもの。 電車を降り、たくさんの“君”を抱えて、海へ向かう。 赤レンガ倉庫の明かりが、暖かく浮かび上がっている。 あてもない暗い波打ち際で、俺の目は君を探す。 #ギフト #雪をください

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14. 「おるわけないか…」 亮ちゃんとすばるくんの二度の偶然も、俺に奇跡を見せてはくれないらしい。 コートのポケットに両手を入れ、空を見上げた。 なあ、雪降ってくれへんかなあ。 そしたら、君に会える気がすんねん。 #ギフト #雪をください

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15. 「…なんてな」 そんなこともそう起こるわけがない。帰ろうかと顔を下げた時、鼻先に冷たいものが触れた。 「え…」 ハラハラと舞い落ちる雪。そして目線の先には、探していたその姿があった。 「うそや…」 「、……忠義」 奇跡が起こった。 #ギフト #雪をください

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16. 海風に靡く栗色の髪。 暗い海に映える白いコートの彼女。 その姿にゆっくりと近づく。 2年前よりも少し大人っぽく、すごく綺麗になった。 その表情は、驚きや悲しみや戸惑い、いろんなものを含んでいるようだった。 #ギフト #雪をください

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17. 「…おかえり」 「…ゴメンなさい、私…」 俯いて声を震わせる。 「…なんで連絡くれんかったん？」 「…だって、私の勝手で別れたのに、帰ってきたから会いたいなんて、言えない。 私、忠義に会う資格なんてないのに…でも、」 「会いたかった」 #ギフト #雪をください

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18. 俯いたままの彼女を、そっと抱きしめた。 「あの時、カッコつけて何も言わんかったけど、寂しかった。俺のこと、好きじゃなかったんかなって。 でも、心ん中でずっと待っとった。 ずっと、好きやった」 「忠義…」 「今でも、好きや」 #ギフト #雪をください

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19. 「…私も寂しかった。でも、連絡したらきっともっと寂しくなると思った。勝手に離れて、待っててなんて言えなかった。ゴメンね。 私も、今でも忠義が好き」 目にいっぱい涙を溜めた彼女にキスをする。 こんなに雪をあったかいと思ったのは、初めてだった。 #ギフト #雪をください

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20. 「…ほっぺた、つめた。アカン、カゼひくわ。帰ろ」 寒さで冷えた彼女の手を取り、繋いでコートのポケットに入れる。 家までの途中、ケーキ屋の店頭でクリスマスケーキが売られていた。 「そっか、クリスマスかぁ。ケーキ買って行こか」 #ギフト #雪をください

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21. 店員の女の子に声をかけ、ケーキを一つ買った。 「ありがとうございます！」 その子は俺に、めっちゃ幸せそうな笑顔をくれた。 「さっきの子、カワイかったなあ」 「もう！」 そう呟く俺に呆れたように、彼女が腕にパンチする。 #ギフト #雪をください

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22. 神様、ありがとう。 今年最後の思い出は、めっちゃあったかくて最高のクリスマスになりそうや。 雪が降り積もるように、彼女との思い出を少しずつ増やしていこう。 これから、ずっと。 終. #ギフト #雪をください pic.twitter.com/hcWkQrnqAr

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