Side Story 8 存在しない第参型 三幕 前編

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白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ Side Story 8 存在しない第参型 三幕 前編__

2017-01-30 22:34:49
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-1「その話、確かなのだな有馬中将?」 「勿論でございます、閣下!」 青白い顔の厳格そうな男に、有馬と呼ばれた中年の軍服の男がへこへこと頭を下げる。 一年も終わりに近くなったとある冬の日の午後のこと… 横須賀鎮守府の上層部にて、一部の高官たちが右往左往していた。

2017-01-30 22:35:54
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SS-8-2 彼らを騒がせていたのは、この午後に横須賀へと新たに配属される艦娘達を送り届ける手筈であった艦娘母艦「笹蟹」が忽然と姿を消したという知らせである。 「それで、最後に反応のあった地点は?敵襲の有無は?…当然確認済みであろうな?」 「ええ!勿論でございますとも、ええ!」

2017-01-30 22:37:19
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SS-8-3 有馬中将は汗ばんだ額をハンケチで拭うと、状況を報告し始めた。 「笹蟹」が消息を絶つ前、浜松付近での目撃情報がある事。 深海棲艦の襲撃は確認されていない事。 艦娘達の着任については、配属予定であった各鎮守府へは延期として連絡。事後処理に努めている事。

2017-01-30 22:39:22
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SS-8-4 有馬中将はお世辞にも腰の低い人物とは言えない。 些細な事でも直ぐに機嫌を損ね、頭に血が上れば誰彼構わず当たり散らす…それでいて強かで計算高く、癇に障る人間を体現したような人物だ。 そんな彼も、今前にしている男の前では一切普段のような態度を取ることが出来なくなる。

2017-01-30 22:41:34
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SS-8-5 血色の悪い顔に似合わぬ体躯と、整った髭、そして見るもの全てを刺し貫く刃物の如き目。視線は窓の向こうにやったまま、身動ぎもせずに有馬中将の報告を聞くその男… 仮に何も知らぬ人間が彼の事を「吸血鬼」だと教えられれば、信じてしまうかもしれない。そんな佇まいだ。

2017-01-30 22:42:47
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SS-8-6 無論、実態は西洋の怪物とは程遠い。 軍服に光るは数々の勲章。手にした漆黒の鞘には刀。 彼はこの人類と深海棲艦との戦いにおいて『英雄』と称される人物。数多くの戦いに勝利し、そして数多くの命を救った人物。 …渕上蘇芳(フチノガミ スオウ)、海軍元帥である。

2017-01-30 22:44:27
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SS-8-7「…それで?」 報告を一通り聞いた彼は、緊張した面持ちの有馬に更に投げかける。 「浜松と言えば最早此処の目と鼻の先の筈。調査隊も派遣していない訳ではあるまい?にも関わらず依然消息不明などと抜かすのだ。そこに理由が無いとは思えぬが?」 「は、あの、いえ…」

2017-01-30 22:46:27
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SS-8-8「報告によると、消息を絶ったと思われる一帯に非常に濃い霧がかかっているとの事で…捜索が難航しているとー」 「霧?」 渕上の眉が小さくピクリと動くのが見え、有馬は身震いした。 幾ら寒い冬とはいえ、局所的な濃霧は些か荒唐無稽な話だ。言い訳がましく聞こえるのを、恐れていた。

2017-01-30 22:48:48
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SS-8-9 ところが、渕上が返してきたのは予想外の反応だった。 「いいだろう…有馬中将、その捜索には私の艦隊が当たらせてもらおう。指揮も私が取る」 「何ですと!?元帥御自ら!?」 有馬の軍帽が、驚きで文字通り彼の頭からポンと『飛び跳ね』、執務室の上質な絨毯にポトリと落ちた。

2017-01-30 22:50:13
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SS-8-10「い、いやしかし!恐れながら、この程度の捜索に何も元帥の精鋭達を充てがう必要は」 慌てて帽子を取り上げながら進言するも、元帥は途中でそれを遮り更に有馬へと指示を与えた。 「よい、構わん。それより中将、お前は『現在派遣されている調査隊を全て引き揚げさせろ』…良いな?」

2017-01-30 22:52:54
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SS-8-11「な…」 『伝える事はもう無い』とでも言うかの如く、渕上は外套を掴みあげて羽織ると、唖然とする有馬を残してさっさと部屋から出て行ってしまった。 去り際に垣間見えた彼の表情は、艦娘母艦の消失という怪事に苛立つどころか…寧ろ、有馬には楽しそうにさえ見えたのだった。

2017-01-30 22:54:35
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SS-8-12「…あのお方の考えている事は、私には遠く想像もつかん…」 有馬は諦め気味に首を振り、軍帽をかぶり直すと通達のために自分も急ぎ足で行動を開始した。調査隊は引き揚げ、後は元帥の直属の艦娘達が調査を引き継ぐだろう。 普段は横柄な有馬も、彼の命令には忠実だ。

2017-01-30 22:56:24
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-13 …尤も、彼が従順なのは渕上が海軍の英雄であり元帥であるから、という身分的な理由に止まらない。 有馬が、そしてここに向かっていた筈の石黒研究員が…各地の将校達が思い思いに進めている、深海棲艦との戦いのための「一手」。 或いは人のため、或いは私欲のためのプロジェクト。

2017-01-30 22:59:31
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-14 有馬も携わっている艦娘化研究、艦娘兵装の人体運用、深海棲艦の兵装転用、人工の深海棲艦を生み出す研究、人間と艦娘の同調、更には深海棲艦に対抗出来る無人兵器の開発…列挙してもキリはない。 中には失敗を重ね消滅した物もあるが、只一つ存在する共通点。 『許可されぬ研究』。

2017-01-30 23:02:56
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

SS-8-15 渕上蘇芳、彼は海軍におけるそういった闇の『頂点』に居た。

2017-01-30 23:03:48
白樺活性炭濾過物 @bookmark_vodka

__ Side Story 8 存在しない第参型 三幕 前編終わり 後編に続く__

2017-01-30 23:04:25