平手政秀編
漂うは抹香の香、聞こえるは木魚の響……板の間に胡坐を掻き、少しばかりじっとりとした視線の先には仏の木像がある。 1
2017-02-14 14:18:57小牧山の麓にある政秀寺は織田信長を諌める為、死を選んだ平手政秀を弔う為、織田信長が創建した臨済の寺である。2
2017-02-14 14:19:05「来てやったぞ、政秀……」ぽつりと口の端から零れ落ちるような静かな声……いつものけたたましくも覇気を感じるうつけとは思えない織田信長の声だ 3 pic.twitter.com/v4XTZYYHbP
2017-02-14 14:19:13「普段からこの位、お淑やかなら腹を切ることもなかったんですけどね……」はぁ~と、生気の無いため息が信長の背後から聞こえる。 4
2017-02-14 14:19:35「待たせずさっさと出てこい!政秀!」信長が胡坐を掻いたまま、天井を見上げるようにのけぞり、声の主へと声を張り上げる。視線の先には平手政秀の姿がある 5 pic.twitter.com/8cVXX2WzLt
2017-02-14 14:20:06「あの……あちらからこちらへは来るの大変なんですよ?」政秀はそう言いながら微笑んでいる。「大変と言うがな……月命日にはこっち来てるだろ! 盆暮れ正月もだ!」 6 pic.twitter.com/jQVMofRWDC
2017-02-14 14:20:53「だって……目を離せないじゃ無いですか」と言う政秀の言葉を信長の手がさえぎる。「それより! それより……だ!」信長の眼が鋭く光る 7
2017-02-14 14:21:17差し出された信長の手は小さい。天下を掴みとるにはあまりにも小さな手……政秀は微笑み、その小さな手に四角い箱を載せる。それも手に余るほどの大きな箱を。 8
2017-02-14 14:21:46「はい、今年のばれんたいんちょこですよ、信長様」政秀が言うなり、信長はばりばりと箱を粉砕し、次の瞬間には口の中に放り込まれている 9
2017-02-14 14:22:03美味いな!やっぱり……政秀のちょこはいちばんだ!」政秀は昔から、ずっとずっと変わらない信長の様子に微笑む。 10
2017-02-14 14:22:16「ほら!口をあけろ!」政秀は突然突き出された信長の指に戸惑い、少し頬を赤らめながら口をあける。途端にちょこが放り込まれる。 11
2017-02-14 14:22:22そのチョコは言葉に出来ないほど甘く、そして優しい味がする……それはきっと2人の絆が生み出した奇跡なのだろう。 12
2017-02-14 14:22:31高橋紹運編
天正6年――高橋紹運、この頃はまだ鎮種であったが一流の武将のみが持ち合わせる勘がこの先起こるべき災禍に臓腑の何処かが凍りつくような感覚に打ち震えていた。 1 pic.twitter.com/yrSa1qQqeh
2017-02-14 15:14:24いや、それは必ず起こる事だろう。日向国を巡るの火蓋は今にも斬って落とされる事だろう……だが、大友家の勝機がどうしても見えない。 2
2017-02-14 15:14:33それは今、紹運が居る浴室の景にも似ている……濛々と立ち込める湯煙は視界の総てを乳白色に埋め尽くしてしまっている。 3
2017-02-14 15:14:39考えても仕方が無い……紹運は湯船にすっ……と足を入れ、ゆっくりと身を沈める。2月と言えども今年は甚だ寒く、湯の温かさが肌を仄かに紅色へと転じさせた 4
2017-02-14 15:14:54湯煙の奥に何かが蠢いている。いや、そう見えるだけだろうか……紹運は目を凝らすとその蠢きは二つあるようだ……なにか音が聞こえ始める。 5
2017-02-14 15:15:05陰は小さな人を型取り、湯船へと近づいていく。「よいしょ……よいしょ……」「よいしょ……よいしょ……」可愛らしい二つの声に紹運は安堵する 6
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